第6話


 アルテミスとの顔合わせが済んでから幾日か経った。季節は移り変わりこの地域特有の雨季が訪れた。前世で言うところの地中海性気候と似た様な気候でこの時期になると農家の皆様は張り切っているイメージだ

 今、我が家に許嫁兼幼馴染のリディアが来ている。初対面のアルテミスとも分け隔てなく接して、仲も良くなっている・・・・よかったーアルテミスが極限人見知り発動した時はどうしようかと思ったよ


「アルテミスの犬耳フワフワで気持ちいい〜」

「ちょっと、リディア・・・・んっ!耳はダメ」

「どこならいいの?」

「し、しっぽなら」

「う〜ん、すっごいフワフワ〜」

『ぷるん!』


 リディアはアルテミスとルネと仲良くできているみたいだし、俺は魔法戦闘の幅を更に広げるための勉強を始めるとするか。


「火極性・水極性・・・でも、僕が肉体的に向いてるのは無極性・・・・ウェイエアさん」

「はい、アーサー様」

「書斎に無極性の本ってありますかね?探しても見当たらないんですけど」

「無極性魔法についての本は無いです・・・・・500年前に起こった革命の影響で焼失、重度の破損による解読不能により無極性についての運用方法は失伝しております」

「そうですか・・・」


 俺の適正である無極性は実質使用不可宣告の様なもの・・・・自身の適正外の極性を使えなくはないが、近年の研究によれば 『200人を対象に自身の極性外の極性魔法を使用した場合、火と水などの対立極性の場合威力&出力35%減少、不干渉極性10%減少、火と風などの補極性は2%減少』 という結果が出ている。

 幸い無極性はどの極性とも対立もしないし補助もしない不干渉の極性だが、実験結果が本当であれば10%減少という有り難くも無い恩恵が得られる・・・・出力を跳ね上げれば10%の壁は越えられるのか?


「ふっふっふ〜♪困っているみたいねアーサーちゃん」

「母さん・・・・入るときはノックしてって」

「まあまあ、無極性の魔法が無くて困ってるんでしょ」

「うん、そうだけど・・・・母さん知ってたりする?」

『コク』

「教えてください!お願いします!」


 人に何かを頼むには土下座をするのが経済。地面に頭を擦るレベルで下げると尚良し


「リディアちゃん、アルテミスちゃん、ルネちゃん、ウェイエアちゃんは席を外して貰えるかしら。アーサーちゃんと大事な話があるから」

「「はーい」」『ぷるん!』

「承知いたしました。失礼致します」



「全員、居なくなったわね。アーサーちゃん・・・・これからお母さんが言うことは必ず守って欲しいの」

「絶対に守るよ」

「この魔法はお母さんの家に代々伝わってる“相伝魔法”だから、親族以外に知られちゃいけないの」

「でも、相伝なら血族以外が使うのはほぼ不可能って聞くけど」

「使えなくてもベースにしての運用は可能になるわ。使うなら人が居ない場所ね、あと口の動きで解読されない様にしなさい」

「絶対、人前では使わないことを約束する!」

「まあ、緊急時なら詠唱は仕方ないわね。でも、細心の注意を払いなさいよ」

「うん!」


 母さんはその場を立ち上がると本棚にある一冊の本を押し込むと、本は吸い込まれ新しく本が奥から現れた。


「これがお母さんの実家に伝わる“相伝魔法”よ。はい、アーサーちゃん」

「ありがとう母さん。でも、この本鍵かかって・・・・イタッ⁉︎」

「どうしたの?」

「いや、針が刺さった気がしてさ・・・・ごめんなさい母さん。本に血が付いちゃった」

「いいのよそれで」

   

 意味がわからずフリーズしていると本の鍵が床に落ち、本が開ける様になっていた


「鍵取れた」

「ささ、読んでみて〜きっと驚くから〜」


 何故かニマニマしていてすっごく怪しいが、読ませてもらおう!あ〜これが相伝か〜オラ、すっごいワクワクすっぞ!


「なにこれ?最初の3ページ以外全部真っ白じゃん」

「仕方ないわよ〜お母さんの家は堅苦しい家だったから、『相伝を改造するのは初代への冒涜だ!』って4代目が言って以降は誰も魔法を改良&発展させて貰えなかったから仕方ないわよ〜」

「でもさ、初代の人が造った魔法が優秀すぎて改良する余地無くない?」

「では、ごゆっくり〜」


 母さんは逃げる様に書斎を後にし、母さんが退出した数分後にリディア達が入ってきたが俺以外の人間がいると本の鍵は開かなくなっていた。その日から皆んなが寝静まった時間を見計らい中庭で相伝の練習に明け暮れ、相伝の練習過程で”簡易詠唱“の練習も積んだ。



 俺が相伝の書物を手に入れてから幾月か経ち、気付けば俺の誕生日まで2ヶ月後となっていた。未だに簡易詠唱は出来ずにいる・・・・正直、行き詰まっている状況で、そこに久しぶりにリディアが遊びにきたと思ったら無詠唱を習得していて、後から修行を始めたアルテミスは魔法こそ使えないが、格闘センスが飛び抜けていて・・・・・俺だけ、取り残されて


「アーサーちゃん達〜少し街までお買い物に行ってくれるかしら〜」

「「は〜い!」」

「・・・・・うん」

『ぷるん!』

「ウェイエアちゃんも一緒にお願いね〜」

「お任せください。必ずや遂行して見せましょう」


 母さんが何のつもりかはわからないけど・・・・俺は少しでも魔法を使える様にならないと。ただでさえリディアに遅れを取ってるんだ・・・・買い物に行ってる時間なんてない。リディア達は行く気満々だしどうしようか?俺だけ留守番という手も


「アーサーちゃん。この機会に気分転換に外でも歩いてきなさい」

「でも」

「何を焦ってるのかは知らないけど、根を詰めすぎるのは良くないわよ。買い物でもして息抜きしてきなさい」

「うん、ありがと。母さん」

「どう致しまして。さあ!行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」


 母さんには感謝しなくちゃな。確かに俺は焦りすぎだったみたいだ・・・・・まだ、5歳じゃないか!この世界の平均寿命は知らないが時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり考えていこう


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