第5話
モヤに向けて全速力で向かうがモヤは不規則な動きを続けている。要救助者一人、敵と思われる者は二人か?ホムスさんの推測が正しければ視認妨害の魔法が付与されている。まだ、荒削りではあるもののこの魔法なら!
「我、汝に命ずる 古からの姿を今、変え 我らを
一定の範囲内に自身に対して優位に働く領域を張る【結界魔法】に、あらゆる
「坊っちゃま・・・・いつの間にその様な技術を」
「効果範囲は半径2m、展開時間は2秒、ナイフをモヤに向かって投げて!」
「承知いたしました。フッ!」
ナイフはホムスさんの投擲で途轍も無い速度でモヤに向かっていき、モヤの少し手前で爆散した。
『効果範囲に入ってくれッ』
*
ホムスが投擲したナイフは寸分の狂いもなく、モヤに向かって直進する。だが、【結界魔法】と【術式緩衝】の重複付与の影響により臨界点を越えようとしていた
『効果範囲に入ってくれッ』
ピシッ!
ナイフがモヤの一部に触れた瞬間に、ナイフの刀身が砕け散りその場を起点にし円形の結界が解き放たれる。解き放たれた結界は自身に付与された【術式緩衝】を発動し、モヤの正体である術式を中和し隠された者を顕にする!
「犬系獣人一人、ゴブリン三匹確認」
「ホムスさんはゴブリンに対して【拘束魔法】を!」
「承知いたしました。【光の縛鎖】」
ホムスの“簡易詠唱”と共に何処からともなく光の鎖が三匹のゴブリンを拘束する。基本四極性と言われる火・水・風・土以外の極性の一つである“光極性”の魔法は、全魔法トップの展開速度を誇る最速の魔法
「「「グルギャアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
ゴブリン達は拘束を破壊する為に暴れるが、魔法の精度がアーサーと比にならない程に研鑽されたホムスの【拘束魔法】には太刀打ちは出来ない。大方、アーサーが使ったのであれば1分とも持たないだろう
「ハアハアハアハアハアハアハアハアハアハア・・・・・何が起きたの?」
「ゴブリンを拘束して貰った。あそこまでの強度だったら破られることはないよ。よく此処まで頑張ったねお疲れ様」
「助かったの・・・・・よかった・・・・スゥスゥ」
獣人の子は緊張の糸が解け意識を失うと同時に倒れ込むがその体をアーサーはすかさず両手で抱き止める。手から伝わる獣人の体は痩せ細っており、あまりの細さに度肝を抜かれるがアーサーは平静を装う
「坊っちゃま。旦那様をこの場にお連れして来て貰っても宜しいでしょうか」
「分かりました。でも、どうしたんですか?」
「いえ、大した事じゃないのですが少し気になる点が御座いまして」
「呉々も気を付けて下さいね」
「わかっております。ゴブリン如きに遅れは取りませんよ」
アーサーはホムスの事を心配しつつもその場を後にしハロルド達の元に向かう。アーサーの背中が見えなくなるまで見続け、見えなくなるのと同時に普段つけている無骨なブレスレットから十字槍を取り出す。
「さて、景観を穢すのは気が進みませんがこの場で殺すしかありませんね」
「それは困るな。貴重な被検体を殺されてしまっては適わない」
ホムスは全力で十字槍を振るうと巨大風船が破裂した様な轟音が鳴り響く
ホムスの視線の先には全身が白を基調とした服と白色の仮面を着けた丸腰の女が立っていた。見るからに怪しさ満点ではあるが、先の発言からこのゴブリンの保有者だと確信する
「何者ですか」
「答える義理はない」
「何が目的ですか」
「答える義理はない」
「このゴブリンは一体何ですか」
「研究の産物だ」
『あくまでも答える意思はなし。捕縛し尋問を施す必要あり』
静かに槍を構えるが、白装束は以前丸腰のままであり武器は愚か格闘術の構えすらも取らない
「丸腰で私に勝てるとでも?」
「視覚の情報が全てとは限らぬよ」
「そうですか!」
その刹那、ホムスの刺突が白装束を捉える
「被検体は回収した」
「待ちなさい!」
ホムスは後方でゴブリンを小脇に抱えていた白装束に刺突を放つ。なんの魔法を使ったのかは分からないが、ホムスの直感が『コイツは逃すと厄介だ』と叫ぶ
「愚かな」
ホムスがその言葉を聞いた瞬間、下半身に力が入らなくなり地面に崩れ落ちる。
痛みもなく
感じることもなく
避けることさえもなく
只、正面からもろに喰らってしまった
ホムスは3秒後に遅れて到着したハロルドに回収された。ホムスの命に別条は無かったが服の腹部と反対側だけが裁ち鋏で切った様に円形に消失していた。
+
「申し訳ございません『』様。A0000とC9000とR4500の回収は完遂できましたが、フェンリルは回収できませんでした」
「君が其処まで手古摺るんだ。相当強かったのだろう?まぁ、被検体だけでも回収出来て良かったよ」
「フェンリルは如何なさいますか?」
「フェンリルは放棄しよう。あれから録れるデータはもう無い」
「では、本来の研究を再開するのですね」
「あぁ、全施設の施設長に連絡してくれ『悲願達成の刻だ』と」
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