第4話


 「おはよぉ」


 メイドのホムスさんに手を引かれながら食事の間に入ると昨晩、遠征から帰ってきた父さんと肌艶が異様に良い母さんがテーブルを挟み向かい合う様にして座っていた

 父さんってこんなにゲッソリしてたっけ?昨晩の白髪美青年フェイスは無惨にもミイラ化しており、髪の毛と肌に艶が無くなりチリチリになっている


「お・・・・・おはようアーサー」

「おはようアーサーちゃん」

「改めておはよう。父さん母さん」


 やっぱ近くで見ると父さんがマジもんのミイラにしか見えんな。顔色が冗談抜きで色が抜け落ちてる・・・・あっ元から白いか


「父さん、ガリガリだけど大丈夫?」

「ま、まあな。問題ない」


 お労しや父上・・・・・・仕方ないな〜ハァァァァァァ(クソデカため息)我の目玉焼きをくれてやろう。地味に初代フ◯ッツ王みたいなセリフ言っちまった


「目玉焼きあげるね」

「アーサー・・・・・・・・・・お前は良い子だなぁ」


 そんな、潤んだ瞳で見つめてくんなよ。しっかたないな〜俺の純粋無垢スマイルをくれてやろう!


「ロザリア!この子は天使なのか⁉︎」

「ハロルド、落ち着いて」


 いや〜喜んで貰えてなによりだ。でも、幾ら顔面美青年でもね、実年齢アラサー折り返し寸前のおっさんの泣き面なんか需要あんのかよ。てか、今日はピクニックに行く日だけど途中で死んだりしないよな?



 朝食を食べ終えた俺はホムスさんに身支度を手伝ってもらい中庭に向かうと既に父さん達は中庭に集結していた。一応、5分前行動は心がけてんだけどな〜父さん達の元に向かうと地面には大きめの魔法陣が描かれていた


「これって【転送魔法陣】だよね」

「そうだぞ〜父さん早起きして作ったんだ〜凄いだろ〜」

「すごーい(棒読み)特にこの魔石大きいね高かったじゃないの?」

「あ〜こいつを譲ってくれた本人に出所聞いても教えて貰えなかったから出所は知らん!」


 目見当では30センチ級か、生体魔石で考えれば上位の魔物、鉱物魔石なら500年ものの大きさだな。金額で行けば億は超えるかもしれない


「ねえハロルド、今日はどこに行くの?私はピクニックしか伝えられていないけど」

「今回行くのはベンチャー高原だ」

「それならアーサーでも安心ね♪」


 ベンチャー高原か〜円形に聳え立つ霊峰の中心にポツンと存在するカルデラ湖の中心に、これまたポツンと存在している平原だ。その昔、ベンチャー高原には超強力な魔物がウジャウジャいたらしいが、それも1000年前の話であり、度重なる気候変動の影響で今はスライム生息していないスライムの楽園だそうだ。


「父さん。ベンチャー高原って此処から1500km以上も離れてるよね?」

「おう、そうだな!その為の【転送魔法陣】だ。長距離移動のために“片道”のみに限定して効果を底上げしてるんだ」

「帰りはどうするの?」

「着いたらすぐに術式を描くッ以上!」


 片道限定の制約による効果の底上げか〜今度俺もやってみよ


「よし、あつまれ!」

「母さん抱っこ」

「アーサーちゃんは可愛いいわね〜」

「ホムス忘れ物はありませんね?」

「はい、セバス殿」


「よし、行くぞ。スゥ・・・・・汝、万里を越える存在もの 我、求めるは天翔ける脚 」


 中心に置かれた魔石が激しく輝き出し、その場に光の粒子が浮遊し魔法陣が輝く


「我、目指すは神界 我、目指すはベンチャー高原 今、我の願いを叶えたまえ 【転送テレポ】」


 詠唱が終わった瞬間に強烈な浮遊感に襲われ眩い光の爆発が起きた



 ほんの数秒間の浮遊感が収まり目を開けると新緑の絨毯がひかれた広大な平原と聳え立つ霊峰が飛び込んできた。


「着いたの?」

「ああ、着いたぞ。ここがベンチャー高原だ」

「やっぱ、いつ来ても良い場所ね〜此処は」

「本当にスライムしかいないや!」

「遊んできていいぞ。父さん達は此処でのんびりしてるから〜」

「いいの!」

「あんまり遠くにいっちゃダメよ〜」

「いってきまーす!」


 初めての外の世界だ!産まれてから5年間外に出たのは屋敷の庭しかなかった。


初めて見る魔物

初めて見る屋敷以外の空

初めて吸う新鮮な空気


 全てが初めてで全てが未知との邂逅!地を這うスライムの冷たさは雪解け水のようで、湖の水は泳いでいる魚でさえも見える透明度。本では理解わからない生きた情報、本当の意味で異世界に転生したこと、”生きている“という生の実感 


「最高だ。すごく気に入った」

「お気に召したなら何よりです」

「ホムスさんか・・・・こういう日くらい仕事は忘れて良いんじゃない?」

「坊っちゃまに添い遂げるのが私の大義ですので」

「そっか・・・・」


 その場に寝転ぶと澄んだ青空が見える。ここまで空気が澄んでいれば星空もさぞ美しいんだろうな。最高の景色と最高の空気そして、ホムスさんの膝枕も相まって最高・・・・ホムスさんってよく見るとめちゃ美人だよな〜セミロングの緑髪に翡翠色の瞳に小麦色の肌と大きすぎないπ。う〜ん、黄金比かな


「あっそう言えばホムスさん」

「なんでしょうか坊っちゃま」

「スライムって食べれるんですよね?」

「はい、可能です。食されますか?」

「食べる。よっこいしょっと」


 起き上がると目の前に一匹のスライムがいた。水色のザ・スライムって感じの個体がいたので両手でプルプルの体を掬い取り口に含む。

 食感としてはゼリーそのもの、味は・・・・⁉︎なんだこれ⁉︎三ツ◯サイダーだ!しかも、ちゃんと炭酸のシュワシュワもある!


「美味しい!」

「お気に召した様で何よりです。私もスライムは大好きでして、此処に来たら必ず食す様にしています」

「ホムスさん次行きましょ!次!」

「御意に」


 俺は思うがままにエンカウントしたスライムを片っ端から食しまくった。その全ては飲み慣れたジュースの味で小一時間くらい食べ歩きをして出した結論、それは此処はドリンクバー高原だということだ



 昼食を済ませた俺は再びホムスさんの膝枕でくつろいでいる。足が痺れないのか?と聞いたところ「魔力操作でどうとでもなりますのでお気になさらず」と返答が来た。魔力ってほんと便利だね


「いや〜こうやって何も考えずボーと寝転ぶのが夢だったんですよ」

「叶えられてよかったですね」


 何にも変え難いこの解放感!たまりませんな〜空気も澄んでて、水もうまくて、危険もない・・・・・俺、カカポになっちゃう


「あっドラゴン」


 上空に羽付きトカゲのことドラゴンが滑空している。初めて見た時は興奮したけど、流石は異世界だなと思うのが小型のドラゴンなら飽きるほど見るということだ。そんな日々が続けば興味なんて電線にとまってる雀くらいに興味が湧かなくなる。「美女は3日で」って言葉があるがまさにその通りだ


『母さん達ハッスルしてんな〜』


 木霊して定かではないが絶対に青◯してる。家族が増えるのも時間の問題だな。まぁ、小ちゃいことは気にすんな!ワカチコワカチコ〜


「ッ‼︎坊っちゃま私の後ろへ!」

「うぇあ⁉︎」


 突然、ホムスさんの小脇に抱えられ後方に下がり今までいた場所からは膨大な魔力を感じる。剣は持ってはいるが相手によってはスローイングナイフでいく

 土が盛り上がり地中の主が姿を現した


「金色のスライム?」


 土の中から姿を現したのは透き通った金色のスライムだった。まぁ、スライムで安心した〜これが別の魔物だったらヤバかった・・・・近づいてみるか


「坊っちゃま!」

「大丈夫!危なくなったら逃げるから」


 サイズは普通のスライムと大差ないけど溢れる魔力量が桁違いだ!一般的なスライムの魔力量が5Lのタンク一本分って言われるのに対して、多分、この子は18Lポリ缶5本分くらいあるんじゃないか?


「お〜よしよし」

⦅♪⦆


 人懐っこいなこの子。普通のスライムなら寄って来ないのにやたらと体を擦り付けてくるな〜可愛い


「ホムスさんこの子凄く良い子ですよ〜」

「そう・・・みたいですね」

「この子を従魔にしようと思うんですがどう思います?」

「それだけ坊っちゃまに懐いていれば、問題ないと思われます。ですが、従魔契約の魔術を使えるんですか?」

「仮契約ならできなくはないよ。この事は父さんと母さんには僕から言うよ」

「承知いたしました」


 でも、よく考えたら従魔契約は相手の意思関係なく出来るからな〜仮契約だとしてもこの子の意思は尊重したい。


「なあ、スライム。今から君に従魔契約をするけど良いかな?嫌だったらこの場から逃げてね」

⦅ぷるん!⦆

「じゃあ、仮契約だけど始めるね」


 俺は地面にナイフで小ちゃな魔法陣を描きスライムを法陣の上に置き詠唱を始める。


「我、此処に結ぶは仮初の契り 汝に授けるは仮初の名」


 本契約は全5節からなる長い古代語の詠唱を唱えなければならないが、仮契約ならば2節で終わる


「汝の名は”ルネ“ 仮初の名は再び日が出る刻まで」


 “名付け”を終えると地面の法陣が一瞬だけ光り仮契約が完了する


「これからよろしくなルネ!」

⦅ぷるん!⦆

「坊っちゃま。初めての契約おめでとうございます」

「ありがとうございます。屋敷に帰ったら本契約しないと」


 ルネを頭の上にのせ、母さん達にルネを紹介するために母さん達の元に戻ろうと回れ右をした瞬間、細い声が響いた


『誰か・・・・・・助けて』


「ホムスさん・・・・・何か聞こえませんでした?」

「いや、私めには何も」


「助けて」


「坊っちゃま」

「聞こえたよね。行こう!」

「はい!」


 でも、声は聞こえるのに何処にいるかが全くわからねえ!声は聞こえるんだよ声は!辺りを見回すが人影なんか見えやしないと思っていたがふと、気配を感じ後方を振り向くとかなり遠くに不自然なモヤが見えた


「ホムスさん!あのモヤなんですか!」

「確かに不自然ですね。まさか、視認妨害の魔法の類でしょうか」

「あそこに行きましょう!」


 俺達はモヤが見えた場所に走り出す。気のせいかも知れないが直感が間違えて無いと言っている!誰かは知らないが絶対に助ける!




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