第1話


 漆黒の空間で二人は何処までも歩き続ける。行き先などは存在せずペルセポネーがしょうもない話をしたりなど自由な空間が出来上がっていた


『何処まで歩くんだ?』

「目的地などない・・・・お主は死んでおるし我は神じゃ。暇つぶしだと思って付き合え」

「えっちょっと待ってください!俺死んでるんですか!?」


 彼女は歩みを止め卓也に振り向く


「そうか・・・・説明していなかったの。単刀直入に言う此処はうぬが過ごしていた世界と違うのは分かるであろう」

「はい」

「なら話は早い。此処は“生と死の狭間の世界”通常死人の魂は問答無用で転生させられるが、うぬはそのレールから外れてしまった」

「戻せないんですか?」

「無理じゃな。単にレールを外れただけであれば“規律”が働き強制的にレールに戻される・・・・・じゃが、うぬは何故か“規律”を振り切りこの空間に来てしまった。こうなってしまったからにはどうしようも出来ん」


 彼女は疲労混じりの溜息を吐き『やれやれ』と言いた気に肩をすくませ卓也の背中に寄り掛かる


「まあ、救済措置と思ってくれて構わん。他世界の神とこの世界の神の話し合いにより、うぬには“異世界転生”の権利が与えられる事になった」

「はい?」

「欠失してしまったループの中には新たな魂が挿入されてしまってな、うぬは元の世界に転生出来んくなったからぁ丁度魂抜こんばつしていた世界に行ってもらう事になった!パチパチパチパチ〜」


 彼女は何処からともなく出現した『祝!異世界転生』とキャッチーな字で書かれたプラカードを持ち満面の笑みを浮かべ卓也の周りを走り回る。だが、卓也は素直に喜ぶ様子などは微塵も無い

 

 むしろ卓也の顔には沈痛な面持ちでプラカードを見つめていた


「なーんじゃしみったれた顔しおって〜ほら喜べ!『こう言う展開な◯うで読んだ〜』とか言ってみい。ほれほれ〜」

「母さんはどうなるんですか」

「うぬの母親は死んだぞ享年97で死因は老衰じゃ」

「俺が此処に来てそんなに時間経ってないですよね?何でそんなことが分かるんですか」

「まぁ、そうカッカするでない」


彼女はドレス姿から医者を思わせる服装と伊達眼鏡を着け卓也の前に躍り出る


「ああ、落ち着くんじゃ。焦ることはないのじゃ」

「ふざけるのも大概にしてくださいよ」


 彼女は「すまんすまん」と言いながら卓也の肩を撫で下ろす


「落ち着いて聞くんじゃ。お主が来たのは30分前じゃが・・・・・地上では300年経過しておる。時間の流れが遅いってやつじゃな」

「・・・・・」

「うげッ⁉︎何で泣くんじゃ!」

「・・・・・まだ、お礼も言えてない・・・・・別れの挨拶も言えてないのに」

「・・・・・・・・・・ん〜」


 泣きじゃくる卓也を尻目に彼女は腕を組み獣のように唸りその場を動き回り何かを決心したように卓也の元に向かう


「あ〜これは我の独り言じゃ」

「?」

「うぬら親子はほんッと〜に面倒臭いのぉ」

「・・・・・へ?」

「別空間でうぬの母を相手にしておったんじゃがあっちはギャン泣きしおったわ!大の大人がじゃぞ⁉︎親子揃って泣きじゃくりおって我の気持ちにもなってほしいわ!」


 ペルセポネーは髪を乱暴に掻きむしり地団駄を踏み逆に彼女が泣き出した


「もぉやだああああああああああああああああ!ハデスうううううううううううううううううう!デーメーテール母様あああああああああああああああああ!うびゃああああああああ‼︎」


 彼女は母と夫の名を絶叫しながら大粒の涙を流し続け鼻水も流し続けた

 それを間近で見ている卓也は若干引き気味になりながらも彼女が泣き止むまで背中を摩った



「はしたない所を見せたの」

「此方こそすいません」

「さっ!気を取り直して異世界転生の準備を始めるかの。とは言っても殆どないんじゃがな」


 そう言うとペルセポネーは何処からともなく現れた津上の上で書類を書き始めた


「まず、異世界の基本情報を伝えるぞ。先ずはテンプレ要素からじゃ。

その1:剣と魔法のファンタジー世界である

その2:魔物もいれば亜人と呼ばれる種族もいる

その3:【魂幻術】と呼ばれる異能力がある

その4:国家運営の学園都市がある」

「此処までは大方テンプレ通りですね」


 彼女のペンが止まり真剣な面持ちで卓也に向く


「此処からは聞き逃すでないぞ。イレギュラー要素を話していくのじゃ。

その1:文明レベルは現代よりもちょい下

その2:現代知識チートはできない

その3:チート能力を得られるかは運ゲー

その4:小競り合いはあるが大きな戦争は起きてない

その5:記憶持ちの転生者は実験対象って事じゃ 」

「その5が不穏すぎません?」

「転生先の世界じゃ“記憶持ち転生者”&“転移者”は丁度いい生き証人じゃ。知っている情報は全て吐かせ技術発展に繋げてきた・・・・・まぁ、無益な記憶持ちは見向きもされんがの」

「転生者って事は秘密の方が良いですかね?」

「転生者は通常の赤子よりも“魔力純度”が高く産後検査で100%バレる。下手に隠すよりもパッパと吐いちまった方が楽じゃ」


 卓也は彼女の言葉で煩いが生まれる。前世の記憶は所有していた方が転生後の人生に有利に作用する可能性がある。

 だが、保有している記憶が有益と判断された時のパターンは考えたくもないような事が起きるだろう。そう易々と決断することを渋る。

 

 5分ほど思案し一つの結論を導き出した


「記憶の一部分だけ保有っていう事は出来たりしますかね」

「出来るぞ。残しておきたい記憶はこの紙に書いといてくれ我は他の書類を仕上げる」

「ありがとうございます!」


 卓也は急足で紙に残したい記憶を書き込む。好きなアニメ・漫画・ラノベの記憶、来世の特訓に必要になるであろう効率的な筋力トレーニングのメニューなどの有益と判断されないであろう記憶を残しておく事にした



「全ての書類の記入とうぬの個人情報の引き渡しも済んだ事じゃし。残るはうぬを引き渡すだけじゃ」

「ペルセポネーさん」

「なんじゃ改まって」

「ありがとうございました」


 彼女は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になった。彼女もこの仕事を受け持つようになってからと言うものの卓也と同じ境遇の魂は幾つか担当してきた。

 だが、その殆どが礼の言葉を言った覚えなどなかったからこそ、彼女は何が起こったのか理解できずにいた

 

「礼など要らぬ。まぁ・・・・・受け取っとくぞ」

「ペルセポネーさん優しそうな笑顔できるんですね」

「我を口説こうとてそうはいかんぞ///」


 彼女頬を染めながらもその場の空気を変えるために「おわったぞ!」と叫び異世界の神を呼び出す


「やっと終わりましたかペルセポネー殿。あら、顔赤いですよ」

「うるせっ!さっさとを連れて行かんか」

「分かりました。相変わらず素直じゃないですね」

「・・・・・?」


 異世界の神は狐につままれた様になっている卓也の元に向かう


「初めまして卓也さん。私は異世界で転生の神を担当しているフュールリオと申します」

「は、初めましてこれからよろしくお願いします!」

「此方こそよろしくお願いしますね。では、貴方を私達の世界に転送しますね」

「はい!」


 フュールリオは卓也の頬に触れた瞬間、卓也は小さな光る玉に変化した。


「相変わらず圧縮が上手いの」

「ペルセポネー殿に比べればまだまだですよ。それにしても彼の魂は透き通っていますね・・・・・美味しそうです」

「食べるでないぞ。うぬが食べれば魂は完全に“破壊”されるからの」

「嫌だな〜冗談ですよ」


 フュールリオには転生の神の一面と魂を喰らう邪神の一面もある。だからこそペルセポネーは釘を刺した


「では、私はこれで」

「うむ、お疲れ様じゃ」

「お疲れ様でした」


 そう言うとフュールリオは一瞬で姿を消し後に続くようにペルセポネーも姿を消した



その日、片田舎の貴族の屋敷に一つの産声が響いた


「おめでとうございますロザリアさん!元気な男の子ですよ!ズーヌさん“極性診断”と“魔力検査”の準備を」

「はい!」


 産まれた赤子は手際良く処理が施され検査台の上に運ばれ検査が始まる。その場にいる一同全員が助産師の報告を今か今かと待ち結果が言い放たれる


「極性なし!魔力純度・・・・・90%」

「「「おお!」」」


 その場が一気に盛り上がる。極性とは火・水・風・土の基本四極性のどれにも属さない極性であり100人に1人の確率で生まれる。

 そして、人族の魔力純度は平均40%前後であり飛び抜けていても5〜70%・エルフなどの種族でも80序盤〜80中盤が天である。しかし、この赤子はそれらすらも凌駕している・・・・・言うなれば“人外”の域に差し掛かっていた


「よくやったわねロザリア!」

「え・・・・・えぇ」


 その場にいた老婆は孫の特異性に歓喜しロザリアに抱きつくがロザリアは何処か申し訳なさそうな笑顔を浮かべる

 赤子がロザリアに渡され胸の中で寝息を立てる我が息子の頭を撫でる


「やっと会えたわね・・・・・アーサー」


 新神代歴3500年4月1日に産まれた赤子は“アーサー”と名付けられた


 そう、卓也の転生後の姿である


 アーサーの誕生を皮切りに世界中で“特異点”と呼ばれる能力を持つ子供が大勢産まれた。










 



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