第2話
といってもコンビニで買い食いするだけなんて味気ない。きょうび、下校中の中学生だってカフェレストランでお茶をするのだ。
「だったら遠出しようぜ」
と、意気込んだ先輩が財布から取り出したのは、学校の最寄り駅から二駅離れたところにある飲食チェーン店のクーポン券だった。
この人の言う遠出ってなんだろう。
「こんなこともあろうかととっておいた訳」
「電車で行くんですか」
学校から駅までの道中。下校ラッシュ時も過ぎ去り、かといって最終下校には程遠い中途半端な時間。あたりには生徒どころか、住人の影さえなく、閑静な住宅街を二人でてくてく。
「電車に頼るなんざ軟弱だねぇ」
にま。先輩が八重歯むき出しで笑った。
「まさか、歩いていくつもりですか」
「ばーか。ニケツに決まっとるやろ」
「ニケツって」
まさか、と息を飲む。
先輩はヤンキーで、ということはつまり、ヤンキー=バイク(盗品)の式が成立する。
そして、その予想を裏打ちするかのように、先輩は「他人は乗せない主義だったんだけどなぁ」と呟いた。
そんなぁ、無許可のバイク通学なんて校則違反っすよ。でもまぁ乗せてくれるなら? みたいなやり取りを脳内でシミュレーションする。
火遊びの背徳感にわくわくしていることは秘密だ。
「そんなことよりもさぁ」
それ、と先輩が指差してきたのは、僕が右手に持っているノートパソコン用のバッグ。しっかり中身も入っていて中々に重たい。
「なんで持ってきたん?」
「なんでって、そりゃあ、自分のですし」
「そうじゃなくて」
はぁ、とため息をつかれ、対してこちらは困惑する。
機種自体随分前の型ではあるが、一応精密機械だ。盗られても困るので、肌身離さず持ち歩くのが当たり前だろう。
「今から女子とスイーツという自覚が足りてないみたいだな」
「一応下校中ですし私物は持って帰らないと」
「だったら他にもあるはずだろ」
「き、教科書は最低限持って帰るようにしています」
「けっ」
先輩は露骨に顔をしかめた。
まさか教科書も全部持って帰れとか、そんな風に思われているんだろうか。……自分は置き勉大王の上、現在も手ぶらであるというのに。
「……まぁ、お前にも譲れんものがあるということか。ムカつくけど、別にいいか」
「なんでムカつかれてたんですか僕」
「ムカついてねーわ!」
ぽかっと頭を手刀で叩かれ「んな理不尽な」と思わず漏れた。
「文芸部って、そんな奴ばっかりだ」
「僕以外いないですけど?」
先輩は不機嫌そうに「ぷんぷん」と声に出した。いや、実はそんなに不機嫌ではないのかもしれない。
「そんなこんなで、はい到着~」
と、いつの間にか駅の出入口まで辿り着いていた。会話に気をとられていたため、道程は意識の外である。
「ここに、バイクが」
「ほれほれはよ」
と、先輩は駅横の駐輪場に素早く入り、金網越しにこちらを手招きした。
ああなるほど。教師に見つかると不味い訳か。
「仕方ないっすねぇー」
後頭部をポリポリしながら駐輪場に入る。
エンジンの付いた二輪車に、二人乗り。あわよくば人気の無い駐車場とかで運転させてもらえるかもしれない。わくわく。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「え~、そんな風に見えます~?」
「なんかキモいな……声も顔も」
少し傷つきながら、先輩の後に続く。
枠に駐輪されているのはママチャリ、マウンテンバイク、ロードバイク、電動自転車、時折、原付スクーターといった具合で、大きなバイクが駐輪されている様子はない。
過疎駅なため利用者も少なく、ポツポツと空車が目立つが、思っていたイメージのバイクは見かけない。
「先輩のバイクってどんなんですか」
「んー、普通のやつ。黒色のボディで、荷台があって、あーこれこれ」
辿り着いた先で、先輩は車体のスタンドをカチャンと上げた。なんとも軽い金具の音。カラカラ~と先輩が通路に引っ張り出したのは前かご付きの黒色ママチャリだった。
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