第2話 不良集団

 その日の放課後、謙吾は行彦に怒鳴った。

「ふざけるな行彦」

 謙吾にとって、行彦は単なるクラスメイトではなかった。親友であり、よきライバルであった。

「どうしたんだ謙吾? どうしてそんなに怒る?」

 行彦は不思議そうに尋ねた。

 その問いに、謙吾は呆れ果てた。

 怒りを通り越して、もはや哀れみを感じてしまう。

 何故なら行彦は分かっていなかったからだ。

 自分が今置かれている状況を理解していない。

 それどころか、自分の身に起きている出来事の意味さえも理解していない。

「お前が相手にしようとしている連中を考えろ! あんな連中に関わるな! たかが学園祭で出し物をやるかどうかってだけのことで、いちいちケンカしてたらきりがないじゃないか! 違うか!」

 謙吾は声を荒らげた。

「たかが学園祭だって言うけどさ、俺はそういうの嫌なんだ。みんなが一生懸命やる事に対して、横槍を入れるような真似をする奴等が居る事が許せないんだよ。ましてや、それが女の子の事だったら尚更だ。俺はモテない男だけど、絶対に俺が守らないと」

 行彦の言葉を聞いて、謙吾は再び深い溜息をつく。

 行彦が関わっている不良集団とは、最近になってこの辺りを縄張りとしている暴走族集団である。

 年齢構成は中学生から社会人まで広く、その殆どが学校にも通わず、授業も受けずに、ただバイクに乗って走り回っているだけだ。

 それだけならば、まだいい。

 問題は彼等が徒党を組んでいる事にあった。

 彼等は幾つかのグループに分かれており、それぞれが独自の組織を持っている。

 彼等は仲間同士で集まり、時に手を組み、まるで1つの生き物のように行動しているのだ。

 一人への敵対行為は、連中全体への攻撃となる。

 行彦が相手にしたのは、その一人であった。

 行彦がそんな連中に喧嘩を売ってしまったのは、一週間前の事が原因だった。

 学園祭の準備をしていたクラスの中に、行彦が所属しているクラスの女子が居た。彼女は行彦と同じクラスで、しかも学級委員を務めていた。

 真面目で正義感が強く、それでいて優しい性格の少女で、周囲からの信頼も厚かった。

 そんな彼女が、たまたま通りかかった行彦を呼び止めて、一緒に作業を手伝って欲しいと言った。

 学園祭に使用する、材料の買い出しの一人としての人数確保であった。

行彦としては断る理由など無かったし、むしろ喜んで手伝うつもりだった。

 ところが、そこで問題が起きた。

 店舗での買い物をしての駐車場で、バイクの駐車のマナーの悪さに加えゴミのポイ捨てを平然と行う不良に、彼女が注意をしたのが始まりだった。学級委員にして風紀委員も兼任する彼女らしい行動ではあったが、相手はケンカを買ってきた。

 行彦は、その場をなだめ終わったかに思えたが、それでは終わらなかった。

 連中の嫌がらせが始まった。

 学校周辺での暴走行為。

 帰宅中の生徒に対する嫌がらせ。

 果ては女子生徒の誘拐未遂まであったという。

 そして、困らせては、その嫌がる困った反応を見て笑うなど酷い有様だった。

 警察にしても事件性のギリギリなのか、本気で対応してくれなかった。パトロールを強化するとだけ言うだけで、死人やケガ人でも出なければ本気で捜査してくれない。

 まるで神奈川県警だ。

 神奈川県警は日本の警察組織の一つであるが、「不祥事のデパート」という輝かしい汚名を持つことでも有名な組織でもある。

 分かっているだけでも、1989年頃から始まっており、近年ではほぼ毎年1回は犯罪者を輩出している特殊な警察組織だ。

 一例を上げるとキリはないが、お薬、暴行、盗撮、買春、わいせつ事件、そして殺人まで。ありとあらゆる犯罪が発生している。

 彼等にとっては、ただの遊びなのだ。

 そう、まるでゲームを楽しむかのように……。

 行彦はそんな状況を黙って見過ごす事が出来なかった。

 だからこそ、彼等と真っ向から対峙する事を選んだのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る