第14話 四者面談
髪を
「アイラ、おまえには団長の気の動きをよく観察していて欲しい」
アイラは癒し魔法を扱う。これは対象者の気の流れを把握し、自己治癒力を促進させたり、痛みの伝達を鈍くさせる特殊な魔法で、この使い手は他人の気の方向性に敏感だ。それに、アイラには何か仕事に集中させることで予想外のことをしでかすのを防ぐため、でもある。
髪の編み込みは綺麗に仕上がった。アイラのニコニコ満足顔を見れば完璧なのだろう。少し前にギャン泣きしてたとは思えねーな。
「はい、任せて下さい。あと、お服。セシリアさまをそんなダメダメな格好で歩かせられないのです!」
腕を広げて腰から捻ってフリフリしてみる。ショートパンツを履いた上に着ていたシャツが揺れる。
「あぁ、これな? テキトーに着てみた」
「それと、お話の仕方、普段からセシリアさまの様にお上品に振る舞っていて下さいっ!」
お、お上品だと? あの大雑把でテキトーなセシリアがか? アイラから見てのセシリアってどうなってる?
アイラが頬を膨らませ、こちらを睨んでくる。
「へーい。……もぉ! 仕方がないわね、じゃ、アイちゃん。服選びお願い。っと、こんなんでいーか?」
「もーっ! それでいいのですから、ちゃんとしてて下さい」
アイラはクローゼットからセシリアの服を選び、
「これをー、こうしてー。うーん、やっぱりこれで!」
彼女に言われるがままに腕をあげて着替えさせられる。黒に近いボルドーの薄手のキャミワンピに黒いレースジャケットを肩を出して羽織らされた。
「いや待て、アイラ。じゃねー……。アイちゃん。いつもこんなお淑やか風な格好はしてないでしょ。それにスカートだといざという時動きにくいわ」
あーだ、こーだ文句を言ったり、言われたり、その場でクルっと回転させられたりしながらも結局、プリーツのあるミニパンツスカートにショート丈シャツ、それと、やっぱりジャケットを肩出しで羽織わされ、あとはニーハイソックスを履いたら出来上がりっ、らしい。
まぁ、動きやすいこの格好なら大丈夫だろう。ただ、胸でシャツが持ち上がって、微妙にヘソの辺りがスースーするのが気になる。汗かいたら風邪ひいたりしねーか? これ。
「うん、可愛くできたのです! これなら動き回っても平気なのですよ」
アイラがセシリアに普段着て欲しいけど着てくれない服を、試しにオレに着せてんじゃねーかな。セシリアがこんな服着てんの見たことねーし。
でも、アイラのご満悦な笑顔を見てると、文句は言う気にはなれない。
「おー、アイラ。んじゃ勝負前にちゃーでもしばくかっ」
「セシリアさまっ、言葉使い!」
ははは、コイツ、
オレたちは時間までゆったりと紅茶を飲み、王国騎士団本部敷地内、騎士寮とは反対側に建つ騎士庁舎の団長室へと向かった。
いざ出陣ってやつだ。
――――――
ドアをノックする。
「セシリア・アルデレッテ、並びに側仕えアイラ・ウェイマスです」
「あぁ、入ってくれ」
アイラに扉を開けてもらい、中へと入る。奥のデスクに座るのが王国騎士団団長、マルコム・マッケンジー。金色の瞳を持ち、紺色の髪を後ろに撫で付け、若干前髪を下ろしている。昨年、37歳のとき団長を引き継いだばかりである。団長就任に関しては色んな憶測が飛び交っていた。
隣に立つのはマルコムの側仕えロイド・リベラ、代々の王国団長側仕えを務め、文官でもある。
「こちらへどうぞ」
ロイドはオレたちをもう一つ奥の部屋へと案内した。マルコムはダンバー領から戻ったばかりで急ぎの書類仕事が溜まっていたらしく、少し待つことになった。
奥の部屋と言っても扉はない。そこには壁一面に本が並び、四人用の机と椅子が用意されていた。騎士団長の部屋らしく、良く言えば無駄のない造りになっている。
ロイドに席を勧められ、オレは座り、アイラは左後ろに立つ。
「セシリアさま、なんだか緊張してしまいますね」
ロイドが団長のところへ向かったのを見計らって、アイラは小声で話しかけてくる。オレも小声で応えてやる。
「そうね、静かな場所に少しの時間待たせるのは、相手を自分のペースに引き摺り込む為の雰囲気作りなの。もし、今後こんな状況になったとき、アイちゃんはその場所はまず深呼吸して、相手に呑まれないよう落ち着いて構える。って、覚えておいてね」
うむ、ちゃんとセシリア語で話せるオレ、えらい。が、話していてむず痒くなるのはまだ慣れていない証拠だ。
「わかりました、相手の作戦なのですね。そうとわかれば、こちらもやってやるのですよ」
うん、気合いはわかったから大人しくしといてくれよ。――しばらくして、マルコムがやってきてオレの正面に座る。
「旧ダンバー領での調査、お疲れさまです。成果は挙げられましたか?」
「あぁ、キミが速やかにダンバー領を制圧してくれたお陰で、色々とコチラの欲しいものを揃えることができたよ。感謝せねばなるまいな」
ロイドがクッキーをテーブル中央へ置き、紅茶を淹れてくれた。そして、彼はマルコムの右後ろ、丁度アイラの正面に立つ。
「いえ、同じ国同士の兵士を殺し合うことを避け、一騎討ちで勝敗を決しましたので速く済んだだけです。まともに戦えばもっと長引いていたことでしょう」
マルコムが先に飲み、オレも紅茶に口を付ける。無骨な騎士団で出されるにしては、華やかで香り高く、それでいて柔らかくて飲みやすい。何度か出されたことがあるが、ロイドの淹れる紅茶はいつでも美味い。良い茶葉だというのもあるだろうが彼の淹れ方も良いのだろう。それにこのロイドの立ち居振舞い、不気味な程に隙が見当たらない。
「そうだな、自国民の血を無駄に流さなかったのは懸命な判断だろう。それで、ジェリドと一騎討ちになったと聞いたが、キミに託したリングを使用して討ち取ったのだな?」
「はい、ただ、リングを嵌めていれば魔力を使い切っても大丈夫だとお聞きしていたのですが、効果は感じられませんでした」
「ほう、嵌めたまま魔力を使い切って……。なにか変わったことはなかったか? リングは嵌めていないようだが」
アイラに目配せをして、リングの入った箱をテーブルに置いてもらう。それを開けてからマルコムに手渡し、
「申し訳ございません。ご覧の通り、石が割れてしまいました」
「――っ!」
マルコムは石を見て目を見開き、こちらを瞳を凝らし見つめてきた。そして、ぶつぶつと呟き声で、
「キ、キミは本当になんともない……のか」
澄ました顔で紅茶をひとくち。
「ええ、おかげさまで。何か不都合でも?」
片目を瞑り、マルコムの目を見る。一瞬だが視線を左下に逸らされた。
「あ、いや、キミがなんともないのならそれで良いんだ」
コイツ、やはり何か企んで、
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注) ちゃーでもしばくか = お茶にしましょうか
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★ 挿絵
https://kakuyomu.jp/users/konta_ya/news/16817330652663217387
指輪を嵌め、戦ったはずのセシリアの様子を見極めようと視線を送るマルコム王国騎士団長。
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