第8話 熱き王国騎士団員


 オレたちは魔の森から帰る途中で襲ってきたホーンミラージを三体倒した。

 そして、行く道の途中で見つけた川へと向かい、返り血や泥汚れを落とす。幸いセシリアの腕や頬の傷はかすり傷で、水で洗うと瘡蓋かさぶたもできないぐらいのものだった。


 今は二人で話をしながら寮へと帰っている。

 つい一週間前、互いに自陣営の多くの命を救うためとはいえ、一騎討ちを演じた二人なのだが、元々はセシリアが騎士見習いの時から、オレは面倒をみてやっていたし、もう長い付き合いになる。


「ジェリドの使う氷魔法って、色んな使い方があって便利ね。魔物のお肉も凍らせて新鮮なまま持って帰れるし、ラヴィたんも綺麗になったし」


 オレはさっき、川で魔法を使い、|ラヴィたんの体を綺麗にしていた。

 まず、ラヴィたんに水を含ませ、その水に汚れを含ませて体外へ押しやる。その汚れを含んだ水を凍らせた後、氷を割ってやる。

 すると、氷ごと返り血も土埃も綺麗に落とすことができるって寸法だ。寮を出る前よりも綺麗なラヴィたんの出来上がりだな。


 そして、凍らせた魔物の肉は騎士寮へのお土産だ。かなり重たいが、セシリアとオレで分けて、鞄に詰めて持って帰るつもりだ。


「何度も言ってると思うが、オレのは氷魔法ってより、本当は冷却魔法ってとこなんだが……。まぁ、そうだな。水や空気中の水蒸気を利用することの多い魔法だから、水を操る魔法も使えなきゃ話にならん」


「そっか、ジェリドって顔に似合わず魔法の扱い、器用だったもんね」


「うるせー、顔は関係ねーだろ。オメーは魔法の扱いも性格も大雑把過ぎんだ、よっ」 


 そう言って、ぴょんと跳んでセシリアの頭をはたいてやろうとしたが、躱されてしまった。ちっ、なかなか良い反応してやがる。


「繊細な性格してたら、この歳で副団長なんてやってられないわ」


「まぁ、そうだな。表向きは前団長の強い推薦だから、って理由だったもんな。――どうだ? 最近もネチネチやられてんのか?」


「かなり減ったわよ、たぶん。少なくとも騎士寮生の中では無いわね」


「それは良かった」


 寝泊まりしてるとこで気ぃ抜けねーと、そのうち壊れちまうからな。――セシリアの顔を下から、ジィーっと眺めてみるが、強が空気はまとっていない。今まではオレのが背が高かったから不思議な眺めだ。

 ……オメーは、そのままの素直に成長してってくれ。


「そういえば、話は戻るがオメー、もう少し丁寧に魔力を扱う練習しねーか? ぶっ放す魔法は見てて分かりやすいから対策されやすいだろ」


「んー、まぁ、確かにわたしの魔法は炎をイメージしてババーッって出したり、大きい火の玉を作る様にグググーッてちから溜めて、ドーーッンって放ったりだからねぇ……わかりやすいと言えばわかりやすいのかな」


 セシリアは目をしっかり瞑って両手を握り、グググっと胸の前に持ってきて、――その後、両目も両手をパァーっと、大きく開く。


 オメーの説明は、バーッとかグーッとかばっかでわかり難いけどな……。


「オメーは過程を全部すっ飛ばして火炎魔法をぶっぱなってるが、本来は高温の元になる、摩擦や高圧の魔法も扱えるはずだ。それが使えてたら、今回のキャコタウルスとの戦闘でも使えただろ?」


「そうね、今回は森の中だったから火炎が使えなかったからね」


「次、キャコタウルス級の魔物に出会ったら、森でもぶっ放せる魔法を身につけとけ、訓練なら付き合ってやるからよ。オメーの魔力量は信じられねーくらいたっぷりあるから、練習し放題じゃねーか。オレにはそっちの方が羨ましいぜ」


 尽きない話をしながら歩いてると、いつの間にか王都の東門なできていた。ぬいぐるみであるラヴィたんが歩く姿を、町のひとが不思議そうに眺めていることにも気付かず、お喋りしてるうちに騎士寮へと帰り着いた。



 ――――――



 二人で騎士寮の扉を潜り、「ただいま、戻りました」と、守衛さんに声を掛ける。重たい荷物は借りた台車に乗せて、中に運ぶことにした。


「ん?」


 セシリアの動きが止まる。オレも背中に多くの視線が刺さっていることに気がついた。


 ざわざわ……副団長だ、副団長だ、隣の! あれがそうなのか? セシリアさま ざわざわ……な、なんなんだ、あれは? ……アイラが騒いでた事は、ぬいぐるみが、ざわざわ……本当だったのか、確かに動いているな。操作魔法? ざわざわ……意思を持って話せるらしいぞ、バカな……召喚魔法というやつでは? ざわざわ……使役魔法か。この目で見てもまだ、お伽話に出てくるゴーレム? 信じられん。使い魔だと? ざわざわ…………


 「なんか、ヤバくねーか?」 オレが背伸びをして手を口元の横へ当てると、少し屈んでくれるセシリアに、小声でささやく。


 視線を注いでいた騎士達の間を割って、オレンジ髪でまん丸お目目のアイちゃんこと、アイラ・ウェイマスがトコトコとやってきた。


「おかえりなさいませ、セシリアさま」


 セシリアに一礼してから振り返り、集まっている騎士達に向かって――


「ね? 言った通りでしょっ? セシリアさまは不可能を可能にする大天才なのですからねっ」


 腰に手を宛てちょドヤ顔で胸を張った。一瞬静まり、そして、――


 うおおぉぉーーぉ!!


 騎士たちのドヨメキが半端ない。この世で初めて見る魔法に、どの騎士も瞳を輝かせてセシリアを見ている。非常に熱い。暑苦しい。騎士達の興奮の熱気で、玄関内の気温が上昇したかのように感じ、オレは手で顔をあおいだ。


「知ーらね……」 オレが小さくつぶやく隣でセシリアは、「…………」 口を開けたり閉じたりしていた。


 まぁ頑張れ、魔法の天才小娘。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る