第7話 真夏の粉雪
くらくら
気持ち
あー、頭ん中気持ち悪い感覚とは別に、頭の後ろがずきずきと痛む。
両腕を使って自身の体を持ち上げ、
オレは
「あー、なんだ、タンコブできてんじゃねーか、痛てーはずだわ。それに、なんつっても、頭がくらくらして気持ち
発した声は透き通る響きをしていた。
「……」
首を左右に振り、俯き、そして自らの、ぷにっとした胸を下から手で包み、たぷたぷ揺する。そして、ゆーっくりと手のひらを眺めた。
「あー、セシリアの体に入っちまったか。――むっ!?」
オレは側方へ飛び退き、別の巨木を背にした。直後――、
ドッゴォォオーーォォン!!
オレが先程居たところに、火の玉が地面に穴を
「おいコラっ! テメー、コンニャロー! コイツの軽い頭に、よくも傷を付けやがったな?! ぜってー許さねー!」
火の玉を吐く巨大な魔物を指差し、木漏れ日差す光が髪を照す。絵になる姿で啖呵をきってやった。だが――、
ドッゴォォオーーォォン!! 再度、火炎弾が放たれ、オレは後方へ飛び退く。
――っ! 調子に乗りやがって。セシリアの持ってた剣はどこだ……。周囲を見回すと、斜め後ろに剣が落ちている。
「おっ! あんなとこにっ!」
迫り来るキャコタウルス、しかし、オレの方が剣に近い。すぐさま拾うと、勝手に
そして――、オレの属性魔力で満たされた剣が、周りの空気を冷気で白くする。
「ん? あぁ、そうか、前から感じていたこの酔った感覚、魔力酔いだったか……ヤツめ、無茶苦茶な量の魔力を抱えてたんだな」
独り
セシリアの多過ぎる魔力量が、気持ち悪さの原因だ。
そんな馬鹿みたいな魔力量に慣れていないオレは、揺れ動く魔力に酔っていたのだった。つまり、魔力酔いってやつだな。
この魔力量……セシリアの魔力の扱いが大雑把だったのも、大き過ぎて扱い切れなかったからかもしれねーな。
だが、オレはセシリアとは逆に大量の魔力をぶっ放すより、精緻な魔力操作を得意としている。
これだけの魔力をきっちり制御できれば、とんでもない化け物の誕生だな、セシリアにゃ悪いがこの体、少し借りるぞ。
「オレにどれだけ扱いきれるか……」
扱う魔力量の多さで、楽しみと興奮が顔に伝わり、ついついニヤけてしまう。
「テメーで試してやる!」
オレは肩幅に足を開き、右手の剣を左肩の辺りから一振り。すると――
キィィィーー! 張り詰めた音が鳴る。 真夏にも拘らず、振った剣の軌跡に沿って水蒸気が凍り付き、ダイヤモンドダストの光がキラキラと空中に跳ねた。
剣の一振りを合図にキャコタウルスとオレ、互いにぶつかり合う。強化魔法で己の筋力を上げ、右から剣を打ち込む、キャコタウルスが角で弾く。弾かれた勢いそのままに回転し左目を目掛けて横に薙ぐ。
ガキィィンン! 狙った
ホント、かってーな。セシリアが起きる前に
――ならば、あそこをどうやって狙うかが問題だ。
「……。ええい、
考えてても仕方がねー!
刀身に白く冷気を漂わせて突っ込む! 足元を狙い、刺突っ! しかし、キャコタウルスはオレの剣先を、ガードせんと金属質の鼻先で真正面から受け止める。
オレは激しい衝撃を腕に受けて弾かれて、腕のみ後方に振られるが、体はそのまま突進! ――刺突をまともに受けた衝撃に
後ろに振られた腕を大きく上段へ回し、落下速度を利用し渾身の一撃を頭部へと、真芯に打ち込む!
オレの魔法で強化された斬撃は硬い皮膚を薄く破るに留まるが、衝撃は脳へ伝わりキャコタウルスは左へぐらつく。オレは傾く巨体の反対側へ着地。すぐさま振り向くと、皮膚が破れ、今も血を流す右脇をジェリドの視界が捉えた。
ほーら、隙ができた……
瞬時に姿勢を低くし、剣を自らの右肩に構え、刺突の態勢を取る。
「――ぜっ!!」
低い姿勢から下半身のバネにグググっと、全身の
「うぉぉーーぉおおっ!」下半身に溜めた力を解放し、傷跡が目の前に迫る!
反らして
「ぶっ、突き刺ぁーす!」
ドンッ!! 元々破れていた皮膚へ、腕を伸ばし切った体ごと突き刺すように、威力の籠った剣が脇の奥深く入り込む!
ヴォモモォォーーォォオン!! キャコタウルスが絶叫を上げる。
ビッシャァーーァア!! 勢いよく吹き出した返り血を全身に受けるが構わず、思いっきり魔力を剣に流し込んだ!!
蒼白く剣が輝き、纏う空気は白く染まる。
「
キュィィーーーー……
透明感のある声と、空気すら凍結するかの様な澄みきった音が響いた。
オレの全力凍結魔法が剣を通じてキャコタウルスに流れ込む。
脇から溢れていた血、吹き出した血までも
――ドォォーオオン!!
流し込んだ魔法が、血液、体液、あらゆる体内の水分を一瞬で凍らせ、急激に膨張しためだ。
季節外れの粉雪は光に照らされ、赤く煌めいたのち、霧となる。
右半身をの大半を失ったキャコタウルスは赤い霧の中永遠の眠りにつき、瘴気が抜け、肉塊と化した。
――――――
真夏の日差しを避け、大きな木に寄り掛かり、水筒の水をごくごくと飲む……
オメー、途中から起きてたろ?
『まぁ、ね。――朝もそうだったけど、ジェリドが
セシリアは右手を前にして手のひらを開き、
『勝手に体動かされるのも、混ざってる変な感覚も気持ち悪いから、隅っこにいってて。んんんんーーっ』
オレはセシリアの右
オレの扱い勝手に慣れやがって。自由にできんのは右手だけかよ、ケチくせーヤツめ。――こんなガキの体じゃなく、早くラヴィたんに戻しやがれ。
『はいはい、ケチくさくてごめんねーだ』
セシリアは辺りを見回し、少し離れた木の枝にちょこんと載っているラヴィたんを見つけて駆け寄っていく。
大木の手前で立ち止まり、片目を瞑り、ラヴィたんに向かって右手を伸ばした。
『ちょうど、これぐらいの角度かな?』
はぁ……横着しやがって。
――セシリアに何をされるのか、右手のひらに押し込められていたオレはすぐに悟った。
『文句言わないの。わたしが木に登って怪我でもしたら大変でしょ』
セシリアは伸ばした右手に左手を添え、オレに圧力を掛けてきた。
『いくよ。んんんんーーっ! えいっ!』
ポンッ――――……シュン!!
オレの精神体がセシリアの右手からラヴィたんに戻る。
……ようやく、戻れたか。それにしても、セシリアに入ってる時と違ってやっぱ居心地が良いし、何故か落ち着く。
――だが、オレはラヴィたんの体で、右腕、左腕、交互に目の前に持っていき、ジッと眺める。それから下を向いてお腹や背中をパンパンと
「はい、ジェリド、んじゃ飛び降りて。ちゃーんとキャッチしたげるからっ」
予想外の魔物相手に苦労はしたが……。
うん。――まぁ、あの様子だと、アイツも良い気分転換にはなったようだしな。
セシリアは木の下で両手を拡げて、ラヴィたんに入ったオレをニッコニコの笑顔で見ていた。
なんだよ、そのゆるーい顔は。締まらねー
「はい、ぴょーんってしておいでーっ」
「…………ったく」
オレはため息を吐きつつも、つい顔を背けてしまった。今にも笑みが溢れてしまいそうだったからだ。そんな顔、コイツには見られたくはない。
バカ小娘が、ガキみてーにはしゃぎやがって。そんな顔されると、オレにまで表情が
――ふっ、なんだかこっちまで嬉しさが込み上げてくるだろーが、ばーか。
——————————————————
★ 挿絵
https://kakuyomu.jp/users/konta_ya/news/16817330652453013978
ラストの場面、木に引っかかっているラヴィたんから見たセシリアです。
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