第2話 ボク、ラヴィたん
これは一体……。もしかして、オレの意識がセシリア体に閉じ込められている?
『え?だれか居るの?』
頭の中にまた、セシリアの声が響き、強制的に首が左右に振られた。
『ううん、どこにも誰も居ない、おかしいわね。けど、けどっ、なんか頭に変な声が直接響いてくるし。……はっ! もしかして、目が覚めた夢を夢の中で見ているのかしら? ちょーっとややこしい夢だけど、まぁいいわ。これは夢の続き。うん、きっとそう。でも、なにかしら? 無駄に透き通るって、ずいぶんと失礼な言葉ね』
セシリアの声がオレの頭に響く。ぎゃーぎゃーうっせーヤツだな、ったくよー。
んで? コイツこの状況でまーた寝る気かよ……。ん? っつーか、もしかしてオレが考えたこと、そのままセシリアに伝わってんのか?
『って、また聞こえた! なんか聞こえた! なんかはっきりと声が聞こえたわ! しかも、よりによってジェリドの声で……。伝わるってなに? なんのこと? どこにいるの? ……じゃなくってー、1週間前にジェリドは死んでるはずよね、ま、まさか、ば、ば、化け、て? ……あくりょー退散!あ、悪霊退散っ! ナウマクサンマンダー……あー、あーっと、あーー? んー、続きなんだったかしら?』
うっせーぞ! こーんのボケボケ小娘がっ。あー、確かバザラダンとかそんな感じじゃあ、なかったか?
『そうそう、それっ!』
それ! じゃねーよっ! しかも、東方の神の呪文じゃねーか。オメーの信じてるもんと、ぜんっぜん関係ねーだろ!
『きゃー、きゃーーっ! いーーやーーーーっ! こっちこないで、消えて、向こういけ、もうーむぅぅうーーりぃぃーーいっ!!』
もうコイツ、完全にパニック状態だな。まぁ、無理もない。お陰でオレの方は少し落ち着きを取り戻せそうだ。しかし――、
ん? んん、んんん、――っ!? なんだ? 痛てー、痛てーよ、押すなって! ……ん、押されてる? なんか身体の右半分の方にオレの精神が寄せられて窮屈になってねーか?
『いやー! あっちいけーーっ! んんんんーーんっ』
セシリアは両手を前に出し、脚をバタバタさせ力を入れて懸命に何かを拒否している。いや、オレを拒否しているわけだが。
や、やめろー、やめんかっ! お、押し出されるーーっ!
オレも抵抗してみるが押される力がバカ強い。押されて右腕に、そしてさらに右
『んぐぐぐぐーーっ』ちょっと、抜けた声。
……ポンッッツ!!
「あ、なんか出た」
セシリアが呟く。彼女の手のひらから、弾き跳ばされたオレは空気を切り裂き、
――次の瞬間、視界は飾り棚に置いてあった愛らしい兎のぬいぐるみへと急接近。あるのか無いのかオレは両腕を前に突き出す。
「ぬおおおおぉぉぉ! ぶつかるーっ!」
空中で必死に足掻くも抵抗虚しく、そのぬいぐるみと激突。からのーー、シュポン! と音を立て、そのままカップ・イン!
「いっつーーっ! 痛ってーじゃねーか! 何しやがる、このバカ小娘がっ!」
オレは痛いと感じた頭を両手で抑え、目一杯怒鳴ってやった。
「ら、ら、ラヴィたん!? え、しゃべった? いま
あー、あーー、うん、今度は縫いぐるみに入ったようだな。なんでオレの声? とかって状況からしてお前も察しろよ、バカ小娘め。頭の中で悪態をつくが、体から離れたせいかヤツには聞こえてないらしい。
オレは状況を確認する。
右手を上げてみる。そして左手も、よし! それから脚を使ってぴょんと跳ねてみる。うん、思い通りだ。立ったときの身長はセシリアの腰ぐらいか、耳を立てればもっとあるな。――船酔いした様な感覚で小娘の中に居るよりよっぽど快適かもしれん。ちょっと喋ってみるか。――よっと。
まずは飾り棚の天板に脚を投げ出して座る。それから右手をあげ、頭をやや左に傾けセシリアに話しかける。
「やぁ、やぁ、良い子にしてたかい? ボク、ラヴィたんだよー」
よし、ちゃんと思い通りに声も出せるようだな。
「ジェリド、その声で喋らないで。せーっかくの可愛いラヴィたんが台無しよ……」
セシリアは小さくため息をつき、両手をだらりと下げ
それからこのポンコツはゆっくりと顔を上げ、伏せていた大きな目を片方だけ開き、
「それで、その姿で動けるのね? でもラヴィたんが可哀想だし、乗り移るんだったら他のにしなさいよ」
他に乗り移れ、とか簡単に言いやがって。どうすりゃ良いかわかりゃ苦労しねーわ。こっちゃぁ、乗り移りの素人だっつーの。
それにしても、乗り移る……かぁ。
確かにオレは死んでセシリアに乗り移った、そう考えるのが自然だな。――ってまぁ、不自然極まりない状況ではあるのだがな。
あぁ、そういえば大丈夫だと思うが、ひとつコイツに確かめておかなきゃいけないことがあった。
「ラヴィたんが可哀想て、オメー、体がなくなったオレはどうなんだよ?」
「騎士が守るもののためにした行為の結果なら、それは尊ばれるものであって、決して憐れまれるものではないわ」
セシリアは真っ直ぐオレを見て答えた。大丈夫そうだな、それで良いんだ。
「うん、良い答えだ……で? オメー、オレが1週間前に死んだっつったよな、あれからどうなったのか教えてくんねーか?」
「なんで教えなきゃなんないのよ。だいたい、アナタは敵方の人間でょ?」
「敵方の人間? ううん、ボク、かわいいラヴィたんだよー」
小首を傾げ、それから右手を上げてやる。
「――死んで」
冷めた目でこっちみやがる。ちっ、バーカ小娘め。
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