ぬくもり

フレアに屋敷を案内してもらう。



まずは一階。


最初に入った広い団欒スペースの隣には、やはりキッチンがあった。それほど広くはないが簡単な調理なら特に問題なくできそうだ。


そのキッチンには勝手口がついており、そこから外へ出ることができる。


魔コンロには、燃料となる魔法石がたっぷりと補充されていた。採掘できる場所で集めてきた中でも、半端な大きさの魔法石を使っているらしい。



二階には寝室。短い廊下に左右一部屋ずつ。


部屋数は少ないが、どちらの部屋も広々としていた。

置かれた家具はまったく同じ状態で、大きなベッドが一つと、二脚の椅子に挟まれた丸いテーブルがあるだけ。


窓はない。

これは寒さを防ぐためだろうか。


どういう部屋割りで使っているのかと聞くと、一方の部屋に全員で寝ているそうだ。


確かに、ただでさえ寒いのに三人がばらばらになる必要はないのかもしれない。


となると俺は、余ったもう一つの方を使わせてもらうことにしよう。



トイレは外に備えつけられていた。

建物の裏に回ると、屋敷とは別の小さな木小屋がある。


用を足す場所の床は、四角く切り取られていた。

切り取られた部分は蓋になっており、二つの取っ手がついている。

それを開けると、掘られた土が現れる。


土の上はきらきらと光っており、これは浄化魔法をかけた魔法石を砕いて細かい粒状にしてまいたものだそうだ。


浄化魔法をはじめとした生活魔法は、エメーラの得意分野なのだそうだ。


においも特になく、清潔な状態が保たれていることが一目でよくわかった。


エルフは一般に衛生意識が高く綺麗好きというイメージだが、それはどうやら本当のことらしい。



それから清潔意識といえば風呂だ。

しかしこれに関しては、あまりうまくいっていないという。


「一応、設備はあるんだけど」


屋敷の裏側、トイレとは反対の角にもう一つの木小屋があり、その中に風呂の設備を見つけたという。

キッチンの裏口から出てすぐの場所だ。


こっちに来てから全く使っていないというのだが、せっかくだから案内してもらい、中をチェックする。


小屋の中にはバスタブがぼんと置かれていた。


なるほど、ここに湯をはれば確かに風呂にはなる。

だが小屋はただの木製だから、小屋内の温度が低すぎる。

呑気に長風呂するわけにはいかない。


もしかしたら時期的にもう少し暖かくなってから使うものなのかもしれないが、現状では胸から上が凍ってしまう絵しか浮かばない。


湯もすぐにさめてしまう、とのことだった。



「一応こんなところかな。何か気になるところはあったか?」


「うーん、特にはない……かな。

あっ、そうだ。寝室は三人とも一緒だって言ってたけど、どっちを使ってるの?」


「えっと、そうだな。初日は西側の部屋を使ってたんだけど、なんか寒いなってことで、次の日から東側の部屋を使ってる。

太陽の位置とかはあんまり関係ないと思うんだが、ちょっと東側の方が寒くない感じがするんだ」


「そっか。じゃあ俺は空いている西側の部屋を使わせてもらうよ」


「えっ。いいのか?」


「うん、だって俺は寒くないんだし」


「ははは! そうか。そいつは羨ましいな~。今も寒くないんだろ?」


「うん。まぁね」


「最高のスキルだな。じゃあお言葉に甘えて、東側を使わせてもらうよ」


「どうぞどうぞ」


俺はフレアと笑い合った。


屋敷の主ということで遠慮が生まれてしまいそうだったが、少し崩せたかなと思えて嬉しかった。




「おかえりなさい、終わりましたか?」


外から戻って来た俺とフレアに、エメーラが言った。


「ああ、一通り見てもらったよ」


フレアが返事をする。


「そうですか、じゃあ晩御飯にしましょうか。よろしいですか? アドラスさん」


「うん、お願いします」



キッチンからミァが食べ物を運んでくる。


テーブルの上には豪華な晩餐が並んだ。


木の実のスープ、赤紫色のベリー、焼いた獣肉と白身魚。


「わぁ、すごい。これ、ほんとに食べてもいいの?」


ソファに座ると、思わず尋ねた。


エメーラが弾むように頷いた。


「もちろんです。アドラスさんの歓迎と、屋敷を使わせてもらっているお礼をこめているのですから。食べてもらわないと困りますよ」


「ありがとう」



エメーラとミァが用意してくれた食事は美味しかった。


聞くと、全て現地で調達したものだそうだ。


さすが森の知恵者と呼ばれるだけあって、エルフの三人には狩猟や採集など、自然の中で食べられるものを手に入れることは訳ないらしい。


いつも用意されていた食事を食べてきた俺には、逆立ちしてもできない芸当だ。


三人ともホッキョクに来たのは初めてだと言ったが、とてもそうは思えない。この様子なら、世界中どこへ行っても、生き延びることができるのではないのだろうか。


俺は彼女たちのサバイバル能力の高さに対して感激し、素直にそう伝えると、フレアもエメーラも「そんなことない」と口を揃えて言った。


「私たちよりも、外での食料調達に関してはミァがすごいんだよ」


フレアがそういうと、ミァは恥ずかしそうにふるふると首を振った。


エメーラもフレアに同意する。

「そうなんですよ。アドラスさんにもぜひ見てもらいたいです!」


「そうなんだ。すごいんだね、ミァ」


ミァの方を見ると、ぷいっと顔を背けられてしまった。


嫌われたかなと不安になったけれど、エメーラが「すみません、ちょっと恥ずかしがり屋さんなので」と小声で教えてくれた。


確かによく見ると、ミァの耳の先はほんのりと赤くなっていた。




「明日からはどうする?」と、フレアが尋ねてきた。

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