開放されたスキル

「ミァ、しっかりしろ!」


何やらただならぬ雰囲気だ。

俺は声のする方へ歩く。洞穴を見つけた。声はそこからしているらしい。


ひょいとのぞきこむ。


人……いや、あの耳は。


『エルフだ』


それぞれ髪色は異なっているが、その場にいる三人は皆共通する尖った耳を持っていた。


倒れている一人を、二人で囲んでいる。


倒れているのは、美しい銀髪に濃い肌を持ったエルフ。おそらくダークエルフと呼ばれる者だろう。


安らかな表情を浮かべていた。


『眠っている? いや、まさか……』


「くそっ!」

こちらに背を向けた赤髪のエルフが叫ぶ。


どうやら事態は相当まずいらしい。


すると赤髪の正面にいた金髪のエルフが、こちらに気が付いて顔を上げた。


『やべっ』


ばっちり目があってしまった。


「誰ですか?」


その声で、赤髪のエルフもこちらを向く。


「ヒト族……?」と赤髪のエルフが呟く。


すると彼女はこちらに飛びかかってきた。

必死の形相で。


「なぁ、あんた! 何か使える魔法はないか! この子が。私の仲間が凍死しそうなんだ!

頼む、お礼でもなんでもするからとにかく何かないか!! お願いだ!!」


魔法なんてそれこそエルフの得意分野だろうにと思うけれど、どうやら彼女たちにも打つ手がないらしい。


でも俺にできることなんて。


すると俺の手首を掴み引っ張ろうとした赤髪のエルフが、驚いてその手を離す。


「温かい。何か保温魔法を使ってるのか?」


俺は首を振る。


「いや、スキルの効果で……」


「スキル?」と赤髪のエルフが首を傾げる。


「ヒト族が持つ、特別な魔力適性のこと……ですか?」と、金髪のエルフはどうやら知っているらしい。


「ええ、そうです」と俺は頷く。


「頼む! それを使ってこの子を助けられないか!?」


赤髪のエルフに引っ張られて、倒れているダークエルフの傍に座らされる。


彼女の額に触れると、氷のように冷たかった。


『いやでも、ちょっと体が温まるくらいの俺のスキルでどうにかなるもんかな』


――ステータスオープン。


俺はスキルの項目を確認する。

耐冷に何か、別の使い道は……


「……えっ」


「ど、どうした??」


隣で切羽詰まった表情をしている赤髪のエルフが、声を上げる。


「いえ」

俺は落ち着けと自分に言い聞かせる。


そしてスキルを確認した。


『スキル:氷人』

『開放された能力

Lv.1耐冷

Lv.2氷造形

Lv.3分熱

Lv.4氷弱化

Lv.4氷粉砕

Lv.5凍結

Lv.6氷強化


寒い中をただひたすら歩いただけで、スキルがガンガン発動して、使える力が増えまくってる……

まぁ今は、一つ一つを悠長に確認している暇はない。

何か使えるスキルは。

俺はそれぞれのスキルの詳細を、頭の中で素早く確認していく。


『分熱ってやつが使えそうだな』


――Lv.3 分熱

――触れているものに熱を分け与える。

――対象に直接触れると、効率が高くなる。

――触れている表面積が多いほど、効率が高くなる。


なるほど。つまり触れたものに熱を移したりすることができるってわけだ。


俺はダークエルフの額に触れた。


――分熱


手の平が熱くなる。じわりじわりと、そこからダークエルフの頬へ、熱が伝わっていくのがわかった。


念のため、自分の魔力を確認する。


――ステータスオープン


『魔力:941/1220』


まだ大丈夫そうだ。地味に最大値の方があがってるけど、そのことを喜ぶのは後にしよう。


「どうだ?」


不安そうに、赤髪のエルフが言う。


「温まってます、でも……」


魔力は十分にあるのに、熱が伝わるのが遅い。


『そうだ、触れている部分を増やせば』


俺は思いつき、左手をダークエルフの頬に添える。ここからも、熱が伝わっていくのが分かる。


『どうしよう。これで間に合うのか? こんな速度だったら、手遅れになるんじゃ……』


俺は焦る。まるで大きな氷の塊を相手にしているように、完全に溶かせるイメージがわかない。


俺は歯を食いしばり、覚悟を決めた。変に恥ずかしがって、ためらっている場合じゃない。


「すみません、失礼します」


俺は倒れているダークエルフを起こし、抱きしめた。


ただ手の平を顔にあてるだけよりも、こうやった方が触れる面積が大きいから、伝えられる熱の量が増えるはずだ。


『頼む、間に合ってくれ』


俺は祈るように、自分の全身から熱を渡し続けた。

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