開拓者

「鑑定結果:開拓者」


「これは……?」


父、ハーンの部屋に呼ばれた俺は、差し出された鑑定結果を見て、眉間に皺を寄せた。


鑑定結果には「開拓者」という聞いたことのないスキル名が書かれている。


「お前に授けられたスキルだよ。おめでとう、アドラス。さすが我が息子だ」


ぱっと顔を上げる。


口元を緩め、眉を下げ。微笑んでいるつもりなのだろうか。

だが俺の目にはそうは見えない。


「ありがとうございます、父上」


「ああ」


ハーンはゆっくりと頷いた。表情の変わらなさは、お面を被っているようにすら見える。


「それで、だ。鑑定士に聞いたところによると、これは非常に有能なスキルだそうで、すぐにでも伸ばした方が良いものだという。

お前も知っているだろう? スキルは使えば使うほどその才が深まっていく素晴らしいものなのだと」


「ええ。魔術学園でそう習いました」


ハーンは立ち上がり、テーブルを回った。


「よろしい。ではそんなお前に、うってつけのプレゼントをやろう」


父親が、相変わらずの顔で何か差し出してくる。


俺はそれを受け取った。三つ折りの紙だった。

一体、何が書かれているというのだろうか。


「中を見ても?」


「もちろん」


父親のつくった顔が、より深くなる。


そこから目を逸らし、渡された紙を開いた。


「土地の権利書?」


「ああ、そうだ。お前の授かったスキル『開拓者』は、未開の土地でこそ力を発揮するものだそうだ。なぁ、鑑定士よ」


「お、おっしゃる通りでございます」


部屋の隅に立っている鑑定士の顔を見る。わかりやすく、青ざめていた。


そうか、そういうことか。


俺は事情を察して、手元の紙に目を戻した。


「そして我が一族の所有する土地で、まだ開拓が住んでいない土地といえば」


太いハムのような指で叩かれた箇所にはこう書かれている。


――北の未開土地、ホッキョク


「そう、ホッキョクだ。この場所からは少々離れた場所に位置しているが、お前ならきっと、すぐに第二の故郷にしてしまうだろうな。なんといったって、『開拓者』なのだから」


右肩に手が置かれる。


「この土地をお前にやろう。もちろん住む場所にも困らない、豪華な屋敷つきだ。

おっと、返そうなんて思わなくていいからな。この権利書を受け取った時点で、我がグライゴッド家が持つ広大な北の未開地は、全てお前のものだ。

お前は今日から、そこで暮らしなさい」


父親の声がより低くなった。


「なに、心配することはない。お前には立派なスキルがあるんだからな。

何か言いたいことはあるか?」


言いたいことなどない。

この男に意見などしても無駄だと、この十六年ではっきりと理解していた。


「いえ」


「よろしい。ではすぐに支度しなさい。

オリハルコンは熱いうちに打てというからな。お前のスキルが眠ってしまわぬうちに、スキルを伸ばすための環境にお前を送ろうではないか」


右肩から手が離れた。


「またこちらから折を見て迎えを寄こす。お前は何も心配せずに、ただ向こうで自分を磨くことだけを考えたらいい」


「分かりました」


俺は椅子から立ち上がる。


「この十六年間、お世話になりました」


「とんでもない。達者でな」


目の前の男は、良き父親を装う表情を最後まで崩さなかった。






息子が部屋を出ると、ハーンは自分の椅子に深く腰掛けた。


その口から、不気味な笑いが漏れる。


つくった笑みとは比べ物にならぬほど、その表情は歪んでいた。


「我が一族の恥になるような奴は必要ない。

さらばだ、呪われた子よ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る