追放された先は、極寒の辺境「ホッキョク」でした。人生詰んだと思ったら氷属性のスキルが覚醒したので、辺境開拓は楽勝です!!

Saida

悪魔の笑み

ディルセゥト国にある名家、グライゴッド家。


その現当主であるハーンは、顔を真っ赤にしていた。テーブルの上の拳は強く握り込まれ、こめかみには青筋が浮かんでいる。


彼の目の前にあるのは、長男であるアドラスの鑑定書。


そこには先日、アドラスが迎えた成人の日にグライゴッド家専属の鑑定士によって確かめられた彼のスキル――特定の魔術を操る際に現れる優れた力――が記されていた。


「鑑定結果:-」


授かったスキル、なし。


両親、またはそのまた両親に魔術の血統を持つ子供は、遅くとも成人までには何らかのスキルに目覚めるのがこの世界の常識だ。


スキルの発現に必要なのは、その力を目覚めさせるような経験と、最低限の魔術の資質。


アドラスは十六の成人を迎えるまで名の知れた魔術学校に通い、そこで一通りの魔術には触れているから、才能を開花させるきっかけとなる経験はいくらでもあったはず。


それに資質に関しては、一族代々が優れた魔術の血筋なのだから申し分ない。


それにも関わらず、成人を迎えた十六の時点で一つのスキルも獲得していないなんて。


ハーンの頭に浮かぶのは、一つの答えしかない。


――呪われた子。


魔術の血筋にあっても、何世代に一人かの割合で生まれてしまう魔法適性を驚くほど持たない忌むべき子。


よりにもよって自分の息子、しかも長男が選ばれるなんて。


ダンッ!


ハーンは拳を、テーブルに叩きつける。


正面に立たされていた鑑定士は、びくりと肩を震わせた。

「おい」


「は、な、何でしょうか」


鑑定士は喉を詰まらせながら、何とか答えた。


「この鑑定書、今すぐ書き換えろ」


「……は?」


ダンッ!


「聞こえなかったか! 今すぐ書き換えろと言っているんだ!!」


「は、はひっ!!!」


鑑定士は悲鳴のような声を上げ、慌てて彼に渡した鑑定書を引き取った。


「ど、どこをどのように、かっ、変えればよろしいのでしょう?」


「そうだな……」


ハーンは顎をさすりながら、遠い場所を見るように目を細める。


しばらくすると、彼の顔は悪魔の笑みに染まった。


「耳を貸せ」

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