第40話:あれから6年
王家主催の夜会で、マリアンヌは義娘を説教していた。
「なぜ出て来たのです。家で大人しくしているように言ったでしょうが」
「申し訳ございません」
「謝って済む問題ではありません」
「でも」
「でもじゃありません!」
会話だけ聞いていれば嫁いびりのようだが、義娘はソファに座っているので、何かが違うと判る。
「だってお義母様が出産ギリギリまで夜会に出てたって……」
そう。エレオノールはお腹が目立つ程度には子供の育った妊婦だった。
「私は二人目だったし、基礎体力が違います」
マリアンヌは35歳の時に、二人目を出産していた。
なぜかラウルの後にシャルルも爵位持ちになり、マリアンヌと結婚して貴族社会に馴染むまで、ずっとマリアンヌが寄り添っていた。
その途中で妊娠した為、出産ギリギリまで夜会にも出ていたのだ。
マリアンヌとしては、前世で何度も臨月まで仕事をしていたので、慣れた事であった。
「私も鍛えてます!」
マリアンヌを崇拝に近い程慕っているエレオノールは、マリアンヌのメイド並みに鍛えていた。
「とにかく、
マリアンヌがエレオノールの横に腰掛けた。
「あぁ~ら、誰が嫁いびりしてるのかと思えば、マリアンヌ
嫁姑二人で仲良く話していると、不躾な声が降ってきた。
第二夫人から正妻へ繰り上がったシモーヌ・コシェである。
「あら、コシェ夫人は3人目を?」
マリアンヌは立ち上がり、シモーヌを見ながら、子供を二人産んでいるとは思えない体型を強調するポーズを取る。
対してシモーヌは、正妻になり暴食し放題になった為、かなりふくよかになっていた。
「マリアンヌ」
「エレオノール」
「シモーヌ」
それぞれの夫が、丁度時を同じくして別の方向から声を掛けてきた。
大袈裟な飾りなどは無いが、一目で質が良いと判る服に身を包んだシャルル。
若さを前面に押して流行の先端を行く豪華な作りではあるが、質も品も良い服を着ているラウル。
年甲斐の無い豪奢なだけで、安い素材の服を身に着けているケヴィン。
服を見ただけで、今の経済状況が嫌でも判る。
夫人達の服や宝飾品にも、それが表れていた。
「ラウル、後で説教よ」
ケヴィンの存在に気付いているはずなのに、マリアンヌはシャルルの腕を取り、ラウルへ声を掛ける。
「しょうがないだろ、エリーは母上が大好きなんだから」
ラウルがエレオノールへ手を貸し、立ち上がらせる。
「今日は
マリアンヌが3人へ声を掛けた時、会場の中央辺りから女性の悲鳴が聞こえた。
そして聞こえる怒声。
「止めないか!コシェ伯爵令息ジョアキム!」
あぁ、正式な呼び名で呼ばれてるから、処罰対象ね。
マリアンヌが出口へ向くのと、ケヴィンとシモーヌが駆けて行くのがほぼ同時だった。
「巻き込まれる前に、とっとと帰るわよ!」
マリアンヌがシャルルの腕を引き、ラウルとエレオノールへ声を掛けて歩き出した。
会場内には、物が壊れる音と、悲鳴と怒号が響いていた。
「さすがケヴィンとシモーヌの子だわ」
マリアンヌの声が、夜空に吸い込まれていった。
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