第8話:タウンハウスへ戻ったら……




「なんか、久しぶりに帰って来たけど……」

 マリアンヌはジェルマン侯爵家のタウンハウスを見上げた。

 久しぶりに見たからか、どこかうらぶれた雰囲気に感じてしまう。

「今、屋敷の管理は誰が指示しているのでしょうか?」

 モニクも隣で同じように建物を見上げていた。

 同じ事を考えているのは、その表情からもうかがえる。


 1年に一度、屋敷に点検業務を入れて細かい不具合を直すのだが、おそらくそれをしていないのだろう。

 時期的にマリアンヌが実家に戻ってすぐがその時期だった。

 その時に行われていないのなら、その1年後の点検も行われていないだろう。

 2回分の点検をしないで放置されていたら、それは建物もいたんで当たり前だった。


「その辺は執事が居るから大丈夫だと思っていたのにね」

 ジュベル伯爵家から連れて来た護衛二人と、新しいメイド二人とモニク。

 その五人を引き連れて、マリアンヌはタウンハウスへと足を踏み入れた。



「ちょっと、勝手に入って来ないでよ!」

 見た事の無い女が、我が物顔でマリアンヌ達を迎えた。

 正確には、目の前に立ちはだかった。

 門番に帰って来た事を伝えていたので、マリアンヌがここの女主人である事は判っているはずなのに、失礼な対応である。


「シモーヌ様!」

 執事が慌てた様子で、不遜な態度の女に声を掛けた。

「何よ!」

 シモーヌと呼ばれた女は、執事を睨み付ける。

「私は侯爵家の後継者を産んだの!だからこの女より上なのよ!」

 鼻息荒く騒いでいるこの女は、どうやらケヴィンの子供を生んだようである。


 マリアンヌは、女の元へと歩いて行った。

「何よ!」

 女が睨み付けてくるのに、マリアンヌはニッコリと微笑んでみせる。

「ふ、ふん。自分の立場が解ったようね」

 偉そうに腕を組んだ女の頬を、マリアンヌは平手打ちした。




「何すんのよ!」

 女は叩かれた頬を押さえて涙ぐむ。

「低位貴族だった貴女は知らないみたいだから教えてあげるわ。子供を産もうがその子が後継者になろうが、第二夫人が正妻より上になる事は無いのよ」

 マリアンヌは背筋を伸ばし、胸を張り、凛とした雰囲気をまとわせて女を見下す。


「それで、何か用かしら?第二夫人」

 マリアンヌが言うと、女はきびすを返して走って行ってしまった。

 向かった先は、主人の部屋の方向である。

 この時間にケヴィンは居ないので、その横にある女主人が使う部屋へ向かったのだと予想出来た。


「どういう事か説明していただけるわね?」

 マリアンヌが微笑むと、執事はばつが悪そうに目を逸らした。



 応接室へ案内されたマリアンヌは、まず敷地内にある別邸の掃除を命じた。

 管理はしてあるはずなので、軽い掃除で即日使えるはずである。

「それが……」

 言葉を濁す執事の様子に、本邸以上に傷んでいるのだとすぐに予想出来た。


「業者を呼びなさい。今日中に使えるようにする事」

 今までのマリアンヌとは違う態度に戸惑いながらも、執事は頷いて部屋を後にした。

 これから業者を呼ぶように指示をして、掃除や諸々の交換を行うとして……。

「今日中の夕食には間に合うかしら?」

 マリアンヌの呟きに、「さすがに無理だと思います」とモニクが答えた。



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