第14話 現実は厳しい!でも、楽しいもやってくる!!

 朝から冒険者ギルドへ。昨日の騒ぎを収めるためにキースとパールの正体を明かしたばかり。

 今日は誰もわたしを「おばさん」と呼ばない。


 まぁ正確にはみんなまだキースやパールが怖くて、遠巻きに見てるんだろうけど。

 絶世の美男美女の正体が、伝説級の魔物。黒龍とフェンリルでした、だもんね。


「おぅ」

 ティムさんが片手をあげてる。ティムさんの態度は変わらない。ちょっと安心。


「おはようございます。あの後、大丈夫でしたか?」

「まぁ…大丈夫にするのが俺の仕事だが…疲れたから、しばらく騒ぎはいらねぇなぁ」


 …ほんとすいません。ありがとうございます。


「お詫びに何かしたい思いはあるんですけどね」

 この言葉に食い付くティムさん。なんでしょう?魔物がいりますか?イボつきの鮮やかな色の何かわからない獣とかいますよ?


 ティムさんへの借りを返すのは、Sランク案件の依頼書だった。

 この街にはSランク冒険者はいないそうだ。

「それじゃ大変だねぇ…」と思っていたら説明が始まってた。聞いておかねば。


 山でホースバスの目撃情報があったと。

 そこは鉱石や貴重な薬草の群生地に割と近いから、行きたくても怖くて行けない人が多く困っている、ということだった。


 …ホースバス?馬ですか?ちっとも想像つかない。

 でも2人は

「そんなもの、すぐ終わる」

 って言ってる。簡単案件みたいです。Sランク案件。


「行く前に、昨日のお肉下さい。次のオークも渡しますね。鶏肉が欲しいです。

 オーク肉もまだください。できれば他の肉も欲しいです」

 

 他のなんだか見当もつかない魔物も、美味しいらしいから肉として欲しいです。


「お前さんも大概ブレないよ…」


 ティムさんから呆れ顔を向けられた。

 …そうなのかな?微妙だけど、変わらないね、という褒め言葉と思っとこう。


 トムさんから肉を受け取る。またオーク肉50匹ほど渡す。

 キングの肉と魔石ももらう。キングって美味しいらしい、ワクワクする!

 お金も追加で金貨17枚貰えたから、これでお米もまた買おう!


 受け取ったお金を握りしめ、調味料と穀物(特にお米)は大量買い。金貨28枚と銀貨6枚。

 野菜も見た目と、お勧めで判断して、まとめ買い。これで、ご飯関係が少し潤うといいな。


 コンロも買いました!念願の2個目!!

 お米用になんかないかなー?って思ってたら、蓋付きの持ち手がある鍋を発見。

 なんだかとても現代的?しゃもじとして使えそうなのも発見。ちょっと割高。

 けどお米のために。買いますよっ!外での調理のためのテーブルもゲト!金貨85枚でお買い上げ!


 …お金の心配をしないと異世界でも生きていけない。美味しいお肉を、じゃんじゃん狩ってもらおう!!そして素材はギルドに売ろう!!


 街を出る時に、昨日の街へ入るための通行料を払ってないことを思い出した。やばい、逃げてるって思われても仕方ないじゃん!


「すいません!」

 と昨日の門番さんを見つけて駆け寄り、謝ると、すぐに

「あぁ、ウズキだっけか」

 と言われる。


 ん?名乗ったっけ??

 顔に出てたんだろう、門番さんが笑う。


「もう有名人だぜ、あんた。すごい奴だったんだな。金は、銀貨6枚だ。次からはカード見せれば金はいらないからな」

「あれ?安くなってません??」

「あぁ、人間と従魔じゃ金額が違うんだよ。人間3人分と思ってたからな、すまんな」


 なるほどね…でも、謝られることではないね。キースもパールも人型だし…気付けるわけないもん。

 きちんとお金を払って、街を出る。


「詳しい場所、聞くの忘れた」


 自分もどうかと思うけど、ティムさんもどうかと思うよ。できる男なのに、意外なポカをするもんだ。


「我に乗るか?上から行く方が早いしな」

 キースがそう言って、黒龍姿に戻る。


 黒龍姿のキース。背中に乗って、パールは人型のまま隣に座ってる。

 優雅に飛ぶキース。これが自然な姿だよね。風が気持ちいい。パールも気持ちよさそうだし、キースは当然カッコいい。


「あの辺だな」


 もう着いたの?ボーッとしてたら、すぐ着いた。なんだか、最初にこの世界に来た時のことを思い出させる景色だな。


「結界を張っておくから、ウズキは安心してね」

 ぽんと、パールから頭を撫でられる。


「ありがとう、助かるよ」

 結界ないと、わたし下手したら、秒で終わるわ…。ついていこうと思ってたら。


「気配が多いな」

 とキースが言う。

「ウズキは、ここで待ってて」

 とパールまで言う。


 ここまで来て留守番だなんて…着いて行く気でいただけに残念すぎる。

 

 くそぅ。身を案じてくれたんだと思うけど、置いてけぼりは悲しいなぁ。

 今やれること…あ、せっかくだから、ご飯系で何ができるのか、試してみようか。


 まずはお米。精米はできるのは確認済み(ついでにご飯炊こう)糠は取っておく。いつか作りたい、糠床のために!

 

「大豆から味噌や醤油ができるのかなぁ?」


 んー、素材がひとつじゃ足らないかも。と思わなくもない。糠床もできなかったし。

 いやいや。確認は必要。


 お皿に鮮やかな青の大豆を乗せて…。

「おみそーっ」

 手をかざして、味噌になれーと声を出してみる。


 変化はない。


 もうひと皿に乗せた大豆に

「おしょうゆーになれー!」

 味噌と同じくやってみる。


 変化はない。


 いろいろと試す。同じ作業を何度も繰り返してみるけど、どれも無反応。


 「疲れた…」


 ぜぇはぁしている。何気に集中力を使うんだな、これは。連続はキツイ…。


 次はラストのトウキビだ!実はちょっと期待。紫の砂糖が出てくるのかな?

「砂糖になれー!」

紫の枝に触って念じる。フワッと風が吹いた。


 キタコレ!!


 ふわふわ浮かんだトウキビはクルクルと回ってお皿に着地。平皿には薄紫の粉。


「これは、できた気がする!」

 ペロッと指につけた粉を舐める。


「やったっっ!砂糖だーーーー!!!!」

 やっほう!調味料ゲットー!トウキビもまた買おう。まとめ買いしよう。


 やっほーーーい!と声に出して喜ぶ。お米も炊けた。よしよし、鍋買って良かった!

また鍋をひとつ追加したいぞ。


 …んん??そこでわたしを見つめてるのは、鹿?


「…不覚。気付かなかった。この鹿、雰囲気が凛としてる。ツノも立派ー!!

 珍しく普通サイズだな。ひとりなの?」


 パールと出会った時みたいに、思わず手を伸ばしてしまっていた。触れるものなら、触れてみたい。


「だったらなんだ」


 鹿が、喋った!!


「わ!声が聞こえる!!もしかしなくても、あなた強いでしょ?」


「オレを知らないとは呆れるぜ」

 という一見冷たそうな言葉の割に、わたしの相手してくれるしに強いでしょ」という響きが嬉しかったのか、

「見る目あるな、人間のくせに」

 と褒められた。この子はツンデレなのかしら?


「ねぇ、もしよかったら、撫でて良い?」

「は?バカか」


 あら、秒でフラれちゃった…。フラれるの悲しいわ。しゅんってしてたら


「なんで触りたいんだよ」

「?かっこいいから。触りたいなって感情に、他に理由なんてないよー」

「変な人間だ、おまえは」

「あははー、よく言われるよ」


 普通に話してくれる鹿くん。触らせてはくれないらしい。

 

「許してやってもいいけど、なんか飯くれ」


 …飯?お腹空いてるのか。あげるのは全然良いけど、まだ2人が戻ってないし。鹿くんには、待ってもらおう。


「うーん、キースやパールが戻ってから、かなぁ?」

「誰だよそれ。関係ねぇだろ?」


 強気な鹿くんだ。んー、でもなー。

 

「待った!!」

「早まってはダメ!!」


「おかえりー」

 と、出迎えるわたし。黒龍とフェンリルが出てきて、すっごい驚いてる。鹿くん。


「ウズキ!名付けてないだろうなっ!」

「あんたも!従魔になる気はあるの?!」


 キースがわたしに詰め寄り、パールは鹿くんに詰め寄る。


「は??

 …お前まさか黒龍とフェンリル相手に契約してんの?マジで?人間のくせに??」


 心底驚いた、という顔の鹿くん。


 キースとパールが、真面目に説明してる。鹿に。強い鹿くんは、やっぱり珍しい鹿くんだった。


 【ヒトゥリーディア】という種族らしい。

 おや?


「国の名前に似てるね」

 と言ったら

「そりゃそこから取ってるからな!」

 自信満々に返された。


「そうかー、確かに綺麗な目の色ね…」 


「「ストップ!!!!」」


 え?なに?何かまずかったの?全力で止められた!キョトンとしてたら、


「それ、名付けのパターンよ」

「トリガーだ、ウズキ」


 人型に戻ったキースとパールに、ガシッと肩を掴まれる。揺すられる。力強く言われる。


 …あ、そうだった。気軽に名前つけたらダメだった!

 鹿くんに説明して、なんなら仲間にならないかなと思ったら。目線は人型になったキースとパールに釘付け。


「はぁ?人間になった?!どういうことだ?」


 びっくりされた。そうよねぇ…キースもパールも最初はすごい驚いてたもんね。


「わたしと契約したら、人型になれるみたいなの」

 伝えると、鹿くんは少しポカンとして。


「お前、すげーな。びっくりだわ。こんな人間いるんだな」

 …なんかめちゃ笑ってる。変なこと言ったっけ?


「いいな、オレも仲間に入れろよ。退屈しなさそうだ!それと、飯くれよ」


 笑いながら、仲間になってくれるって言ってくれた。

 嬉しいけど、これも先に伝えなければ。


「飯は自分でとってきてね。お金ないの」

「お前…。おい、黒龍とフェンリル。人間ってこんなだったか?」

 

 眉を顰めて、キースたちを見る鹿くん。


「いや、ウズキは特別だ」

「そう、特別なのよ。楽しいわよ」


 事実を言ったまでだけど。フォローありがとう。キース、パール。


「名前のセンス、変だったら許さねぇ」

「えと…目の色がシトリンみたいとおもってたの…リンは?」


「リン?」


「「あっ!答えた……」」


 …パァァァァと人型になるリン。


 短髪の爽やかイケメン登場。キースやパールと比べて背は低い。少年から青年になる年頃に見える。

 短髪がツンツン立っているのは、ツノの影響が出てるのかしら?

 目はやっぱりシトリンのような綺麗な黄色。


 おぉ、こんな感じか!リンもモテそう!


「これで成立だな!飯くれよ」

「ブレないねー、それがリンの良いところだねっ!!」

 笑うわたしに、少し呆れてる感じのキース。


 パールは

「ウズキにそんな口きかないのっ!」

 と軽い教育的指導をしている。


 3人目の仲間ができた!

 リンです。ツンデレです。仲良くなれますようにっ!

 仲間が増えるのは、嬉しい。心強い。


「腹減ったー」

 と、リンが言うけど先に魔物を回収しなきゃってことで、パールの背に乗った。


「あんたは自分でついてきなさい、リン」

「お前についていける奴なんているのかよー、俺も乗せろよー」

「甘えるな」


 愚痴ったリンに、パシャリとキースが言い放つ。…頑張れ、リン。

 

「…すごいねぇー。こんなにいたの??」

「あぁ、いたな。まぁ運動になったぞ」

「他にもいたのよー」

「やっと着いた…疲れた。ってすげーなっ!!」


 キースとパールはドヤっと。遅れてきたリンが、2人が倒した魔物の山を見上げて、驚いている。

 

 ホースバスとやらが20匹くらいいる。角ばってる馬だなぁ。

 あと、でっかい猪が40匹は軽くらい?これも群れで生きてるらしくて、人里に行くと荒らしまくるって。真っ黒い剛毛の猪だ。


 どっちも巨大で、食べるところが多そう。いいことだ。うん。

 せっせとアイテムボックスに片付ける。でっかいから重い…キースやリンが手伝ってくれた。


「意外とリンは力持ちなんだね」

「意外とってなんだよ!俺は力あるんだっ!」


 怒ってるふうよそおうけど言葉と裏腹に猪をせっせと引っ張り上げてくれる。ツンデレ…可愛い。リン、良いキャラだよ。


「全部終わったら、ご飯にしようねー」

「飯!」

 リンが頑張ってる。ずっとお腹すいたって言ってたもんね。ずいぶん待たせちゃった。

 今日ギルドでお肉もらったけど、足りるかなぁ…。



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