第12話 なんなの!?が重なることもある。

 フェンリルの姿になって走るパールの背に、キースに支えてもらって乗っています。街中で爆走中。

 きゃー!という、これまでのキースとパールへの「こっち向いてー!」というやつじゃなくて、逆の意味。「ぎゃーー逃げろーーー!!!」の方が響き渡る。

 「従魔でーす!」と一応言うけど…テイマーって浸透してないのかなぁ?ザンビアはそれなりに大きい街だし、テイマーいても良いのにな。


 「着いたわ」

 調味料だけじゃなく、穀物や薬草?なんかもあるみたい。

 店主さんから、めちゃめちゃ怖がられてる…これが普通だよね…。

 「従魔なので、安心してください。調味料が見たいんですが…いいですか?」

 「どうぞっ」

 どう見ても、大丈夫じゃない『どうぞ』だ。断れないよねぇ…手早く終わらせますね。

 

 「お塩は、これでしょ。あとわたしが分かるものあるかなぁ?」

 

 ん?

 んんんん????


 何か見える。なんだ?

 [大豆:醤油、味噌]

 …しょうゆ??みそ??


 目を擦って、もう一度見る。やはり同じことが書いてある。

 

 他にもよく見ると[酒:みりん][米:酢、米][かぼす:酢][トウキビ:砂糖]

 

 …なんなんだ、これは。よく分からない。分からないけど、知っている調味料の名前。

 …え?なるってこと?作れるの???

 

 …えーと、こういう時は、いろいろ買ってみよう。帰ってから考えよう!!

 とりあえず分からなくても、いっぱい買ったら、店主さんも喜んでくれると思いたい。

 「すみません、ここにあるもの、全種類ください!」

 「え?」

 「ください!買います!」

 冒険者なんで!お金はあるよ、とカードを見せる。少し安心する店主さん。


 塩は塊。酒は瓶で(この世界の酒は薬草などの混ぜ物が多く、清酒とは別物らしい)大豆など他のものは『ひと皿いくら』という価格設定。

 なるほどなるほど。

 どうもなかなか売れないものもあるらしく、傷むものもあり、そういうのは安くしてくれた。幸いわたしのアイテムボックスは時間停止なので全く問題ない。

 

 トウキビって、まんま砂糖だよね?と思ったけど、意外と安い。甘味は高いのでは??子どもの腕くらいの太さで、枯れ気味の枝みたいな…色はなぜか紫だけど…

 「これは?」と聞いてみたら「薬草の一種ですよ」って。やっぱり使い方が違うんだな…。だからバカ高くないのか。

 よく見ると、わたしの浅い知識と比較しても少しずつ違う。大豆って書いてあっても、青い。鮮やかな青。他にも平べったいものとか。そんな感じ。


 でも、この街が調味料豊富というのは、こういうことか。所狭しと並んでいる、

 手当たり次第、量も安くしてもらえるものは、まとめ買い。塩だけじゃなく、文字が出たものは多めに買った。

 不思議な文字が出ていないものも買ってみる。自分で扱えるかは、また別!買って使ってみなきゃ。

 

 合計で金貨25枚と銀貨3枚。

 大量買いしたから、オマケで果物を一袋くれた。この世界の柑橘かんきつかぁ、と香りするかなぁと、ひとつ取ってみると[だいだい。ポン酢]と出た。


 …頭が痛いよ。全ては帰ってから!

 宿に戻りたい。


 あ、ダメだ。ティムさんのところに行って先に怒られよう。これからの事も聞かないと。


 店主にお礼を伝え、来た道を戻る。調味料は全部アイテムボックスに入れて、パールにしがみつく。


 冒険者ギルドに戻る途中も大変だった。

 「従魔でーす!」と言いきる間もなく駆け抜けるパール。果たしてわたしの声は、住民の皆さんに届いているのかしら…。


 「ただいま戻りました…」

 後ろめたさと怖さとで、恐る恐るギルドの扉を開ける。

 「おい!ウズキ!!おせぇよ!」

 ティムさんに会うなり、大声で呼ばれる。

 その顔は疲労感がありありと。はぁと、深いふかーいため息。頭をガシガシ掻いている。

 「はい、すいません。欲望に勝てず…それとこれからのこと…」

 ティムさんの元へと思ったら冒険者たちが睨んでる…おや?


 「おぃ、おばさん本当に冒険者なのか?」

 「ギルマスが言ってたけど、信じられねぇ」 

 「ギルマスが言ってるんだ、本当に違いない」

 「けどよ、テイマーは少ないんだ、こんなおばさんだったら余計に知ってるはずだろ?!」

 「これまで、おばさんのテイマーって噂でも聞いたことないからね」

 「だからって、いないと決めつけてはダメよ!」


 いきなり揉め始める。わたしに近付いてこようとする冒険者たちと盾になる冒険者。冒険者の中でも意見が割れている様子。

 そしてみなさん、パールには近づかない。怖いからだ。


 ぎゃーぎゃーわーわー。対立関係の怒鳴り合いは続く。ダイレクトにわたしにも言ってくる(大声で)

 キースとパールが怒ってるのも伝わるけど、今回は気付かない冒険者たち。


 …これ、終わるの?

 わたしティムさんには怒られるつもりできたけど…なんか、うっとおしい…(守ってくれる冒険者は別よ)


 どうしよう、うるさくて頭が痛い。

 そりゃびっくりすると思うよ?知らないことに遭遇すると怖い。分からんでもないけど。

 決めつけでモノを言うのは、失礼じゃないだろうか。


 「おい、おばさん!聞いてるのか?おまえの従魔、繋いでないけど平気なのかよ?」

 「そうよ!わたしたちも怪我したら困るのよ、危ないから繋ぎなさいよっ!」


 ムカムカむかむか。

 「…うるさいな…」

 「だから繋げよ!おばさんがしないってんなら俺がする、どけっ!」

 いよいよ、パールに近づこうとするバカが出てきた。…離れろやっ!

 

 「パールに触ろうとすんな!この阿呆!さっきから、うるさいんだよっ!」

 「おい、ウズキ落ち着け!」

 ティムさんが仲裁に入ろうとするけど、もう遅い。パールに対するこの阿呆たちのせいで、すでに我慢の限界なので!

 

 「全員よく聞きなさいっ!

 わたしはテイマーのウズキ!!

 そこのあんたっ!!パールを繋げだぁ?繋ぐわけないじゃない!わたしの大切な仲間で家族!!

 あなたたちや街のみんなを、むやみに襲うわけない!

 現に誰にも何もしてないじゃないの!見えてないの?!

 わたしの大切なパールをおとしめることは許さないっ!

  それとっ!おばさん、おばさん言うなーーー!!」


 ぜぇぜぇと肩で息をしつつ、周囲を睨む。

 わたしって、こんな性格だったっけ?前世でも、こんなことしたことないわ。

 パールに手は出させない!

 パールだけじゃない、キースも。

 パールや、これからキースにだって、何か言われる事もあるかもしれない。わたしばっかり守ってもらってるわけにはいかない。

 わたしだって、大切な2人を守るんだっ!


 ムキっ!としてたら、フェンリル姿のパールがわたしに擦り寄ってきた。ふわふわな毛並みが気持ちいい。

 見上げるとパールと目が合う。優しい瞳。パールに伝わったなら、嬉しい。

 キースも寄ってきて、優しく抱きしめてくれた。


 「わたし、キースが同じ状態になっても、同じことする。平和に暮らしたい。だから揉めたくないけど…でも、キースもパールも傷つけられるのは嫌なの…!」

 「本当に、わたしの主人は。弱いのか強いのか。とっても興味深いわ」

 「あぁ。我はウズキと共にいよう。我もウズキを守ると約束しよう。

 我の約束は誓いだぞ?分かるか?」

 2人とも優しい笑顔。抱きしめてくれる暖かさに、1人じゃない心強さを感じた。

 2人のおかげでムカムカは治った。

 また胸がぽわっと。温かい。


 全員わたしがキレて怒鳴ったことに驚いたようで、今は静か。…でも

 「これからどうしよう?」

 「どうせバカは理解できないのだろう?」

 「バカ相手には説明しないといけないのね、面倒ね」

 「…ほんとだね。でもこの世界で生きていくには、なんとかしないとかなぁ」

 「はぁ…仕方ないわねぇ」

 

 「人間」


 これまで聞いたことない声。威厳も感じる。これがパールの本当の姿の一部なの?

 ピリッと空気が張り詰めるギルド内。


 「わたしは、誇り高きフェンリル。

 本来なら人間と話してやる義理はないが…わたしの主人、ウズキの事は別だ。主人を傷つけることは、わたしが許さぬ。わかったか!

 他の事には、わたしは興味がない。ゆえに手出しもしない」

 

 誰も何も言えない。その場から動けない。伝説のフェンリルを目の前に、冒険者ランクがいくつであろうが、その圧倒的な威圧感に恐怖を感じているのかもしれない。

 

 「パール…かっこいい」

 思わず心の声が出た。すると、パールに光がまとい人型に。

 「ウズキ、今『かっこいい』って言ったでしょ?ありがとうー。でもね、さっきのウズキもかっこよかったわよ」

 むぎゅう。ハグは嬉しい、だけどこれは力強すぎて苦しいやつー。

 キースが止めて、抱きしめる力が緩まる。パールを見ると本当に嬉しそう。

 一緒に笑う。キースも優しく笑っている。


 「人間、分かったなら返事くらいしなさい」

 パールが顔だけ冒険者たちに向けて言う。

「はいっ」「すみませんでした」と声が出る人もいれば、頷くのが精一杯の人もいる。

 ティムさんが近付いてきて

 「人が隠してやろうとしたのに…まぁ仕方ねぇな。キースはどうするんだ?」

 「そうだな…面倒だから伝えておくか」

 「え?ティムさん、いいの?」

 「今更だろ…好きにしろや」

 と、吹っ切れたように笑ってる。各ギルドに根回ししてくれたのに…半日でぶち壊すかも。いやいや、問題があるならティムさんが止めないはずないよね。


 「人間。我もウズキの従魔。

 我は気高き黒龍。

 ウズキに害をなさぬなら何もせんが…覚えておくといい」

 

 またもやビリビリ張り詰める空気。脳に直接伝わってくるみたいな声。

 「キースもかっこいい」

 呟くと今度はキースから、むぎゅうと抱きしめられる。

 横で「この場でそんなこと言えるのは、おまえさんくらいだよ、ウズキ」と、ティムさんが苦笑いしてる。

 …そうかな?

 2人ともかっこいいじゃんね。

 「ティムさん、これでひとまず安心ですかね?」

 「まぁな。フェンリルと黒龍だぜ。こいつらも手は出せないさ」

 そっか。平和に暮らせるのが一番いいことだよね!!

 …やっと宿に行けそう。疲れたね。みんなで夜ご飯食べようね!

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