第11話 ごめんなさーーい!!

 冒険者ギルドに戻るなり、また注目の的。

 そして早速悪口が聞こえた。

「なんでおばさんといるんだ?」

 

 …ムッ!「おばさん」言うなや。


 イラッとするけど、キースとパールの圧倒的な外見とたたずまいから、わたしに直接「おばさん!」とか言ってはこない。


 そんなことになったら2人がキレる。きっと。わたしに対して、超過保護だから。

 テイムしたら魔物はこんなに従うようになるのかな?

 この世界での天下の黒龍とフェンリルでさえも。


 でも確か

「テイムされたのに自由があるまま」

 ってキースが言ってたな。それなら、これが2人の通常運転なのかもしれない。

 

 っと、ギルドマスターに会わなきゃ!受付で冒険者仮カードを提示して、ティムさんに面会をお願いする。


 そう待つことなく

「おぅ、ウズキ。冒険者っぽくなったなぁ。ザンビアはどうだ?いいところだろ」

 と笑いながらやってきた。ピンクでしたもんね、さっき。


「はい!とってもいいところです!!服もおかげさまで。2人が選んでくれました。

 紹介状のおかげで、いろいろ安く買えました!ありがとうございます」


 ペコリ。とお礼。


 2人は横で

「うふふ。似合うでしょ。ウズキは可愛いから」

「武器などは不要なのだがな…」


 とかとか言っている。それを聞いたティムさんは


「本当に今でも信じられねぇよ。この姿だけ見てると」


 と、苦笑い。まぁね、そうだよね。わたし以外にキースとパールの本来の姿を見たのはティムさんと魔物を解体してくれるトムさんだけだもの。


「あの、ティムさん、お願いがあるんですけど…」


「ん?なんだ??」


 ティムさんがキースたちから、わたしへと視線を向ける。


「追加でオーク売りたいです!

 他にも…大きい鳥とか。オーク肉半分と、鳥のお肉は引き取りたいけど、あとの素材になるものは、売りたいです。

 お肉とお金がほしいんです。買ってください!」


「…は??肉が必要なのは分かるが…。

 さっき金貨170枚渡したろう。まぁ、来い。魔物を売ってくれるのは歓迎だ。買取数は、こちらにも予算があるから、見てみないと分からんが。

 さっきのオークの素材代金も計算できたから支払うぜ」


 わっ!早速収入がっ!!パールに感謝!


「いやー、何かと物入りで。本当はまだ揃えたいんですけど、お金がなくなったので…」

「だからさっきの金は?」

「もうほぼないです」

「お前なぁ…」


 …呆れた表情に口調。責められてる感じは受けないけど、単純にこの短時間で使い切ったのが驚きなんだろうな。


「必要なものしか買ってないですよ?コンロが高くて。フライパンとかそういうのが一番かかりました」


 まだコンロは欲しいし、そうなると、お金がいる。


「…そこは普通の冒険者は武器と防具って言うんだがなぁ」


 ティムさんがごちる。と、キースとパールが

「我が守る」

「わたし以上になにがいるの?」


 即座に心強い返事がかえってきた。

 少し目を大きく開いて、「全くだ」と、笑うティムさん。


 くぅ。幸せすぎる。わたしもこの2人のために何かしたい。


 今の所、料理頑張るしか思いつかないんだけど。早速コンロ使おう。やらなきゃ上手くならないもんね!


 ぽわっ。


 …ん?まただ。温かい。なんだろ???

 んー?と思うけど、すぐに元通りだし、嫌な感じもない。

 …まぁ、いっか。


 魔物解体倉庫?に着いて、トムさんとも合流。数時間前に渡したオークの肉と皮は全て売り切れたそうで、


「オーク肉は需要があるからな、まだギルドにも売ってくれるか?」

 

 って言われた。まだ200匹近くある。そりゃ売りますとも!

 こちらとしても有難い申し出なので、了承して。アイテムボックスからまたじゃんじゃん出す。


鑑定スキルを持たないわたしは

「見た目が少し違うな」

 とか

「サイズが大きいな」

 とかくらいの感覚で、オークを出していく。


「「ストップ!!!」」


 ティムさんとトムさんの声がハモった。

 ん?出しすぎたかな?でもまだ50匹くらいで…


「おまえ、キングが混ざってるぞ。ジェネラルもまたいるな。やはり、オークの集落にキングもいたのか。規模もデカくて当然か」


 はぁ、と何故かため息をついているティムさんと、オークの山を見つめるトムさん。

 わたし、まずいことしましたか?違いがわからないと、不便もあるなぁ。


「オークは今日はここまでだな。キングの肉は高く売れるが…おまえさん、いるんだろ?」

 ティムさんがわたしを見る。


「はい!美味しい肉は欲しいですっ!」

「だよな。分かった。そのかわりオーク肉は分けてくれよ」

「どうぞ。わたしも肉欲しいから全部は無理ですけど。あと、大きい鳥もいるんですよ。今日食べて美味しかったから欲しくて」


 解体のほど、よろしくお願いします。


「いよっと!」

 とアイテムボックスから引きずり出す。本当に大きい。気持ち首が短いキリンみたい。

 肉はこっちの方がついてるけど。とりあえず2匹出したところで、やっぱりストップがかかる。

 

「きれいに仕留めてますね。こいつは素材は羽やくちばし、それと脚の爪だけなのに…羽がいたんでないですよ」

 と、トムさんがマジマジ見ている。ティムさんも頷く。


 そんな2人ににキースが「当然だ」と返した。


 そうか。戦うって普通は傷がもっとあるよね?そう思うと、キースもパールも狩ってきた魔物たち、どれもこれも一撃って感じで。なんていうか、きれい?だよね。


「実は他にもまだまだいるんですけどね」


 …お金もお肉も欲しいから、出して良いかな?どうかな??

 アイテムボックスに手を突っ込んでたら、ティムさんが先回りして止めてきた。


「ストップ!おまえさん、不用心だなぁ。ここではいいが、本当に気をつけろよ?

 …そうだな、これは買取るよ。オークの上位種とビックバードには、魔石もあるだろう。


 魔石を売ってくれるなら、買取価格も上がるが…コンロ買ったって言ってたな。そのぶんの魔石はさっきのオークジェネラルにあった魔石を使えばいい」


「ほれ」と渡される。魔石ってパッと見ただけでは小さな石。落としたら気付けないから気をつけよう。


 またもや、とんとん話が進む。ティムさんに任せっぱなし。ありがたい。

 

 結果、オーク50匹(キングやジェネラル含む)とビックバード2匹を預けて、今日渡していたオークの素材(皮)と肉15匹分の代金、そして食料にする解体してくれたオーク肉20匹分と、金貨10枚をもらう。


 金貨10枚か…嬉しい。だけど正直、心許こころもとないんだなぁ…。


「しかし、他の魔物も見てみたいもんだ。稼げそうだしな」

 って笑ってる。いつでも出せますよ?買ってほしいくらいあるよ??


 でも、ギルドマスターってギルド運営もしなきゃいけないんだね。

 ティムさんにはお世話になったし、まだしばらくお世話になるし。貢献できるなら、したい。

 なんか、わたしの懐具合も温まりそうだし。


 うーん、とアイテムボックスをあさる。

 とりあえず、2人が食べないものを渡そうかと思い至る。


 キースに

「これは美味しいの?」

 と聞いてみる。

「これは?」

 と適当にチラッと見せては聞く作業を続けていると、

「これは不味い」

と顔をしかめた。


 キターー!!これこれ。この魔物をまるっと売れないものか。エイッっと引っ張る。キースも手伝ってくれた。巨大エリマキトカゲ。

 尻尾が胴体の二倍近くある。確かに食べるところは無さそう。


「お前…これ」

「マスター、これアクーですか?」

「Sランクだぞ…」


 声のトーンが低い、ティムさんたちのやりとり。


「ダメですかね、やっぱり」

 こんなの欲しがる人なんていないよねぇ…。と、がっかりしながら引っ込めようと手を伸ばす。


「ちょっと待てっっっ!!」

 あまりの大声に思わずビクッとしてしまう。その姿に、少し落ち着きを取り戻したティムさんが「悪い」と謝ってくれて。


「こんなの滅多にお目にかかれんぞ。絶対に高く売れる。…全部ウチが買い取っていいのか?」


 ティムさんが真剣。このエリマキトカゲ需要あるんだ…。まずい肉らしいし、狩ったキースが顔をしかめるんだから、いらないです。


「魔石あります?それ以外はどうぞ。ちなみにもう一匹いますよ」

 エイッっとまた出す。よく見ると、こっちの方が大きい。


「おまえっ!!これは高く売れるぞー」

 と、驚きつつも、にやにやが止まらないティムさん。そんなにですか??


 ティムさん曰く、

「森の奥深くにしか生息してない、見つけても尻尾からの攻撃が強いから仕留められない。

 このエリマキトカゲの皮から作った鎧は軽くて丈夫、その上、状態が抜群に良い!」

 などなど。熱く語ってくれた。


 へー。わたしが見ると、ただの巨大エリマキトカゲ。

 キースとパールから見ると、美味くないもの。

「見つけたから狩っただけだ」ってキースは言う。なんだろ、本能なのかな?


 どうやらこのエリマキトカゲ、一匹だけで金貨60枚になるそうで二匹で金貨145枚になった!大きい方に高音がついた!わーい!!


 これでコンロもうひとつ買える!

 さっきの金貨10枚とエリマキトカゲ代金の金貨145枚。エリマキトカゲ代金も即金で貰えた。

 

「これでコンロも、調味料買えますー!やったー!」


 お金を受け取り、思わず喜びの声をあげる。キースとパールは嬉しそうで、ティムさんも違う意味で嬉しそう。


 トムさんはビックバードとオークを急いで解体してくれるみたいで、他の方とも連携をとっているので、お願いして倉庫をあとにする。


「わたしたちは、宿に向かおうか?…んー、でもなぁ」

「「どうした?」の?」

 唸るわたし。聞いてくるキースとパール。


「コンロは明日で仕方ないとしても、調味料…せめて塩が欲しいんだけど、お店閉まっちゃうかなぁ?って思ってね」


 この街は個人商店が多く、夜開いているのは飲食(主にお酒で騒ぐ冒険者が集まる店か、家族が楽しむお店)っぽいんだよなぁ。

 ティムさんも「今日は厳しいかもな」と言ってる。

 

「なんだ、そんなこと。わたしに乗っていけばいいじゃない」

 パールがすごく簡単に言う。


「「え?」」


 わたしとティムさんの声が重なった。


「あぁ、我よりパールの方が良いだろう」

 キースもパールに同調する。


「「え??」」


「簡単なことだ」

 サラッと言う2人。その発想はなかった…でも、さすがに…


「ねぇ、ちょっと待って?!」

 え?ここで??

 ここ、冒険者ギルド内だよ!?


 まずい、止めないと!思った時は、すでに遅かった。

 パァァと輝いた後、フェンリル姿になったパール。


 ざわつきはじめる周囲。


「え?なんだこの魔物!」

「こんなのいたか?」

「美女は?」

「きゃーー!魔物ーーー!!!」


 いろんなところから、叫び声と、逃げる人。武器を向けてくる人もいれば(心意気は買います、それでこそ冒険者)動けない人もいる。


 やってしまった、やってしまいました、よりによって冒険者ギルドの中で。

 …こうなりますよね…当然ですよね…。でももう今更どうにもならない。

 ふと「契約しているのに自由だ」というキースの言葉が頭をよぎる。


 こういうこと?自由ってこういうやつか、思うまま自然にってことなのか!?


 騒然としているギルド内。

 慌てて、

「わたしの従魔ですー!!」

 一応伝える努力はする。が、ざわついてる人々(一応、ほぼ冒険者』の声の方が大きくて。どれだけ伝わってるかはまた別の話。


「さ、乗って!捕まっててね」


 多分、パールのこの声はわたしとキースにしか聞こえてない。

 けれど、美女が魔物になったのは変わらない。


 依然、騒然としているギルド内。

 頭を抱えているティムさんが見える。

 …仕事増やしました。ごめんなさい。あとできちんと謝りにきます…。あと、今後のことも相談させてください。


 もうバレてしまったし!開き直るしかないじゃない!

 そうと決まれば調味料!塩が欲しいです。

 結局のところ、わたしも欲望に忠実なのだ。


 みんなにフェンリルってバレないといいんだけど。

 だって、フェンリルって幻の魔獣なんだよね?見たことない人が多いんだよね。従魔です!で誤魔化せるよね?


 …人型になる従魔とは?聞かれたら、どう答えたらいいんだろう?答えようがないような。

 いろいろ仕事増やしてます、ティムさん。

 もっというと、一旦ここから離れます。ごめんっ!

 

「みなさん避けてくださーーい!!!わたしの従魔なので怖くないでーす!!!」

 と一応叫んではみる。


 周りを無視して駆け出すパール。目的は、塩!私のためにフェンリル姿になり、走ってくれる。


 うひゃー、ダッシュ怖いー!街中だからっ、危ないからっ!

 もっとスピード落としてぇぇぇぇ!!

 

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