第10話 肉祭りの末の決意!

 キースとパールのお昼ご飯(肉祭り)は継続中。全肉メニュー制覇の後、二週目に突入。さらには、それぞれ気に入ったものも追加で頼んでいる。


 面白がったギャラリーのお客さんが

「これも食うか?」

「俺の奢りだ」

とくれる。

 それもペロリと平らげる。なぜか起こる拍手と歓声。お礼を言うわたし。


 お店の方は汗をかいている。そうだよねぇ。2人ともずーっと食べてるんだもん。


それからしばらくして、

「申し訳ありません。もう肉がなくなってしまって…」

 と、本当に申し訳なさそうに、店員さんがわたしたちに伝える。


「あら?そうなの?」

「ふむ…しかたないな」


  あれだけ食べても、満腹じゃなさそうな2人。ちょっと残念そうに見えるけど、材料がないんじゃ、どうしようもない。

 むしろ、食材を食べ尽くしたことに対して、わたしも思わず頭を下げる。


「あのっ、わたしたちで食べ切ってしまってすみません。とても美味しかったです!ごちそうさまでした!」


「ははっ。そういっていただけると、こちらも嬉しいですよ!」


 挨拶に出てきてくれた、汗を拭いているマスターと奥さん。笑顔で対応してくれて、最後まで気持ちいいお店だよ。

 もしかしてご家族で経営しているお店かな?給仕の2人(息子さん)もどことなく面影がある。


「あの…こんなこといっていいのか。失礼だったらごめんなさい。

 お恥ずかしい話なんですがわたし、料理をしたことがなくて。味付けとか、作り方を教えてもらえないでしょうか??」


 こんなど素人が聞いて良いのか?お店の味とか、簡単に教えるわけにいかないかな?

 おそるおそる聞いてみる。

 するとマスターと奥さん(もしかしたらわたしと近い年齢かもしれなくて、ちょっと複雑なのは秘密)は、目を合わせて笑う。


「塩を振りかけているだけですよ」

「教えるのは構いませんが、たいしたことはしてないんですよ。今日は店じまいなんで、明日でよければどうぞ」


 ははは、と笑っているマスターと奥さん。やった!!本当に良いお店に入れたよ!


「わぁ!ありがとうございます!必ず来ます!!」


 今日の店じまいは、わたしたちが肉を食べ尽くしたからですよね。夜ご飯を楽しみにしてた方々、すみません。

 明日は、手土産にオークを持ってこよう。うん。


「お会計、お願いします」

「はいっ。ありがとうございます!

 あの、お客さま……。かなりの金額ですけど…大丈夫ですか?」


 ちょっとだけ…いや、かなり心配されている顔。こっちもドキドキする。

 どうぞ!覚悟してるんで、どうぞ!


 この世界の初の食事はとても美味しかったし、キースとパールも同じく初めての人型での食事に満足したようだしね。高くてもその価値はありました!


「金貨10枚と銀貨8枚になります」


 …さっき買った洋服一式代金より高い。この国の生活水準、金貨4枚あれば3人余裕でひと月暮らせるって聞いているから、3ヶ月近い生活費を一食で使ったってことね。


 改めて、キースとパールと暮らしていくなら自炊能力!高めねば!自炊しなきゃ!!

 …この2人なら魔物ガンガン狩ってお金は稼いでくれるだろうけど、やっぱり自炊できた方がいい。


 魔物の2人は狩りをするのは、運動としても本能としても欠かせないだろうし。外で食べることも予想される。

 異世界ものだと旅もする。ダンジョンだって行くかもしれない。そこは魔法と冒険の世界だし、2人となら行ってみたい気持ちもある。


 自力で解体はできなくても、やっぱり料理関係のモノは買おう。高くても買おう。買ってしまえば、あとは自分の努力!!


 会計を済ませ、明日の約束をしてお店を出る。すぐに店じまいで、わたしたちと一緒に他のお客さんもぞろぞろ出てくる。


 なかには、キースやパールの食べっぷりに好感を持ってくれた人もいたようで


「この店うまかったろ?」

「金貨出してる客なんて初めて見たぜ、すげーな!」

「次は俺らのも残しておいてくれよなー」

「あんた、いい男だねぇ。うちの娘の婿に来ないかぃ?」


 などと、軽口を交わしている(軽くナンパもされている)


 …キースやパールにこんなふうに話しかけてる人たち初めて見たかもなぁ。と微笑ましくて笑顔になってしまう。こうやって親しくなれるといいな。

 

 そんな2人と常連さんたちのやり取りを眺めつつ。


「うー、やっぱり2人のために初心者向けの料理本欲しいー。

 本があっても結局は目分量に頼ることになるよねぇ。本の通りに再現する努力と…。調味料もいろいろ欲しいなぁ」


 腕組みをして考える。

 どうしても、2人のために、という発想が頭から離れない。


 んんー、と考えてみたところで、ろくに料理したことないんだからどうにもならないし、調味料も豊富な街とは聞いてるけど、そもそも自分で扱えるものがどの程度あるのか期待できない。

 本に至っては期待する方がどうかとも思う。日本のようにはいかないよね。工夫…できる????いや、弱気はダメね!


 自分の手のひらで、自分の両頬をペチンと叩いて、気合いを入れる。


 

 すると。

 ぽわっと。

 胸が暖かい。


 おや?

 おやおや?なんだろう???


 ぽわっと温まった胸は、しばらくしておさまった。

 …?なんだったんだろう??今の。


「どうした?ウズキ」

「ウズキ?」


 わたしの感情が顔や態度に出てたのか、2人がいつものように、頭に手を置いたり顔を覗き込んでくるけど、どことなく心配そうな目をしてる。


「ん、なんでもないよ、大丈夫。美味しかったね!2人はどうだった?」

「なにもなければ良いのだが。食事は生肉よりうまいな」

「つらかったら言うのよ?美味しかったわ。まだ食べられるわね、次は他の肉が食べたいわ」


 …まだ食べられる…他の肉。そうか、そうだよね。


 やっぱり自炊能力よね!!ここはわたしが頑張る番だよね!

 再度「やったる!!」と、気合いを入れる。


 それと、この勢いで街中で食べる可能性もゼロと言えないから、オークを多めにギルドに卸そう。営業時間内に、全部食べ尽くしちゃったからね。


「さて!あとは目的の、調理器具や日用雑貨系が欲しいんだよね。コンロあるかなぁ?フライパンもいる。あとはお皿もいるし…」


 調理器具、かなり見たい。買いたい。価格が気になる。お金の元になる魔物ならたくさん持ってる。足らないようなら、ギルドで買ってもらおう!


「行けるか?」

「疲れてない?」


 あれ?なんだか心配されている。やっぱりさっき胸に感じた違和感を言ってくれてるのかな。

 全く平気なんだよね。むしろ、温かい、不思議と安心できるみたいな…。上手く言えない。


 またまた顔に出ていたのか。わたしを心配した2人は超過保護、激甘モード。わたしの髪を撫でたり、頬を触られたり。

 

「くそ!おばさん、変わってくれよ」

「いいなー、なんで相手があんなおばさんなのー?」


 とかとか。はい、きたきた。


 なんていうか、もはや現実味を感じさせてくれるイベントになったわ、これも。

 もちろんムカついてるけど。これは慣れないし慣れなくもないけどっ。


 2人がギロリと睨むと、嫌われたくないから大人しくなる。おばさん連呼はムカつくけど、結局2人へのファン心理みたいなもんだよね。

 

 わたしは全く問題ないから、心配してくれる2人を説得して、買い物続行。ティムさんの紹介状は忘れずに渡す。


「お皿はとりあえず、無難ぶなんらしい木でできたもので。深皿、平皿、スープに使えそうなお椀に(作れるかは別として)コップとフォーク、スプーンと…」


 念のため各5個ずつ購入することに。持ってくれているキースはえらいことになっているけど、バランス感覚が抜群で落としたりしない。さすが。


 他にあったっけ?と見ていたら、隣接してフライパンや調理器具が買えるお店が。

 おぉ、便利!!具体的に考えることができるじゃん!!


 店舗は別なので一旦、店員さんに預けることにして(キースが渡したらすぐに承諾してくれた。笑っちゃうほど現金だなぁ)


「さてさて。現実的にも予算的にも、こっちメインだよね。いくらくらいかなー?

 て、高いっっ!!」


 こちらの店舗でも、ティムさんからの紹介状パワーを期待させてもらいます。


 店主さんに話を聞くと、この世界の人たちは、壊れたら打ち直して使うため、基本的に新品は高いものなんだって。

 なるほど。物を大切にするのは素晴らしい心ね。


 フライパン(大きめ)2点と、スープ用にお鍋も欲しい。


 そして肝心の…コンロも!!


「あの、野外で料理をしたいんです」

 と聞いてみたら、ギョッとした顔をされた。

「冒険者なんで」

 ということも伝えてみる。

 またもギョッとした顔をされた。


 …失敬だな。ギルドマスターの紹介状渡したでしょうが。


 少しだけ、むくれていたらキースとパールが横に立ち

「客の要望に応えるのが店主の役割だろう」と睨む。


 怯む店主さん。

 だけど、2人を見て「冒険者だ」と納得したのか、コンロがあることを教えてくれた(なんか納得いかない!ムカムカ)

 でも、コンロ!見たい見たい!!


 実際見て見せてもらうと、薄いカセットボンベみたいだった。火はどうやって付けるのかしら?とマジマジ見ていたら

「魔石を使用するんですよ」

 と教えてくれる。


 魔石!!この世界にも!やっぱりテンプレ!!ムカムカしてた気持ちが一気にどこかに消えていく。

 わたしも大概、現金にできている。


 とりあえずお値段を確認したら、ひとつ金貨50枚!!!

 50枚?!

 びっくりして凝視してしまった。店主曰く「これでもギルドマスターの紹介だからお安いんですよ」と。


 はぁ…高い、最低でも2個欲しいのに。今のわたしには1個が限界。ひとまず1個でも買えて良しと考えよう。


 フライパンやお鍋、包丁、まな板なんかを揃えたら金貨85枚になった。

 えーい!買ってやる!まだ冒険者ギルドからオークの代金もらってないし!

 さっきもらったお金は、依頼達成のお金だし。


 なんなら、キースが駆りまくった、名前も知らないけど強そうな魔物もわたしのアイテムボックスには、山ふたつ分は軽くあるんだからっ!!


「買います!ください!!」

 自然と大声でお会計をお願いする。わたしは久しぶりの大口客だったようで、店主さんはニコニコしてる。


「コンロ、またもうひとつ買いますから!」

 と宣言までしました。いいの。こういうのは、口に出すことが大切なのよ。


 マジックバックに入れますー、というふりでアイテムボックスへ入れていく。

 隣のお店で取り置きの食器も忘れずに買う。こちらは木だからか、こんなに買っても金貨2枚で済んだ。安く感じる。

 もはや金銭感覚がわからないやー。


 調味料が欲しかったけど、宿代や、そもそもこの街に来た時の通行料も払ってない。一旦ギルドに戻ろうかね。


 それにしても、ザンビアは生活に困らない、あれこれそろった街だな。今日は買えなかったけど、調味料に関しては、買い付けにくる商人もいるらしいし。


 わたしでも扱える調味料ありますように。


 とりあえずギルドでオークも大量に買ってもらおう。あと、今日食べた、大きい鳥もね。


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