第9話 魔物肉、食す!…うまっ!

 3人で適当に歩いて、決めた店。

 2人が「「ここ!」」と言ったお店です。魔物だもの、そういう美味しそうな店センサーが働いていると信じて、いざ。


「こんにちはー!」

 扉をあけると、楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。


「いらっしゃいませ!」


 あら?全員に笑顔。贔屓がない!

 初めてだよ、わたしにだけあからさまな態度とらなかったの!それだけでもポイント高いお店だ!!

 期待大だね、普通のことができる。素晴らしいよ。


 案内された席に着く。

 内装は適度に雑多。なのに妙に落ち着く…それに常連さんで賑わっている。お昼からしたら遅い時間でもこのお客さんなら食事ピーク時間はもっと多いだろうなぁ。

 

「メニューはお決まりですか?」


 はっ、見てなかった。そもそも読めないわ。お勧めを聞くと

「うちはオークが人気ですよ。お客さんからも褒めてもらって嬉しい限りです」

 と、接客の鏡のような笑顔で応えてくれる。


 おぉ、やはり人間はオークよく食べてるのね!人生初の魔物を食べる時がきた!郷に入っては郷に従え。よし、食べようじゃない!


「じゃあ、オーク肉で。お勧めのものでお願いします」

 こういう時は、お勧め一点張りでいいはず。聞いてもピンとこないしな。


「キースとパールは?」

「「肉」」

 

 …だよね。キッパリ言い切る2人はメニューも見ない。


「肉の…どれ?」

「「全種類」」

 

 全メニュー制覇ってこと?どのくらいの品数があるのかな?人型でも食べる量は変わらないのかね、2人ともめちゃくちゃスタイルいいし、わりと服装もタイトだけど…お腹でない?


「…えっ??」

 店員さんは少し慌ててメニューを指差す。


「肉のメニューはここからここまでですが…よろしいのですか?結構な量になりますが…」

とキースとパールを見た。


 その説明を聞きつつ、読めないメニューを覗く。ほぼ肉じゃん、なラインナップ。


「平気だ」

「えぇ、大丈夫」

 キースに続き、なんてことない、と。追い打ちのパールの優雅な笑み。

「かしこまりました…」

 と少し呆然とした様子の店員さんが厨房に戻っていく。


 呆然としているのは、店員さんだけじゃない。わたしだってそう。肉全部か…。やっぱり、がっつり肉食なんだね、2人とも。


「そんなに食べられるの??」

 ちょっと確認してみる。


「何を言う?我は黒龍だぞ、ウズキも知っているだろう。どのくらいの量を言っているのかは分からないが、どうもない」


「そうよ。なんせわたしたち魔物は、ずーっと生肉を食べてきたのよ。人間って料理するんでしょ?どんなのかしら?楽しみね」


 いつもと同じように見える2人だけど、やっぱりどこか嬉しそう。

 そっか、食べる楽しみは人も魔物も同じだよね!

 2人とも美味しいって思ってくれるといい。人型になった甲斐もある。


 …ところでさっきのキースの言葉が引っかかる。どのくらい食べるんだろうか。お金はあるけど(多分)

 食べ尽くしたらごめんなさい。

 オークならギルドにいけばありますから。なんならわたしがすぐにおろしますから(まだ200近くはオークあるんで安心してください)



「わー。でっか!!」


 目の前にはオーク肉の乗ったお皿がドーンと。言われなければ、オークの外見は想像つかない。美味しそうないい匂いがする。

 全部食べられるのか?これがこの世界の一人前?普通量なんだとしたら、大サービスだわ。


 キースとパールの料理はまだこない。待つつもりでいると、2人から声をかけられる。


「気にせず先に食べろ」

「そうよ。ウズキもお腹すいてるでしょ?」

 ふんわりと優しい眼差しを2人から向けられ告げられる。


「相変わらず優しいなー。ふたりもお腹すいてるだろうに…ありがとう。お言葉に甘えて。いただきまーすっ」


 ぱくっ。


 ん!美味しいっっ!!

 この世界に来てはじめての食事。記憶をさかのぼったところで、口からの食事摂取はいつぶりか。


 もっとこってりしてるかと思ってたけど(オークの外見的なアレでごめん)意外や意外。食べやすい。味付けはお塩のみなのに美味しいとは。

 添えてある野菜スープ…玉ねぎとにんじんかな?やっぱり塩味だけど、これも美味しい。

 ここのお店が繁盛してるのと、2人が即決した理由がわかるなぁ。

 

 気付けばもぐもぐ食べ進めてる。自分が思っていたよりお腹すいてたんだなー。

 美味しいって幸せだ!!!


 そんなわたしを見てなぜか笑顔の2人。

「ん?顔についてる?」ペタペタと顔を触ると

「いや、我の主人は可愛い」

「ゆっくり食べなさいね」

「………んぐっ!」


 こっちがとろける笑顔を向けられて、とんでもないセリフが返ってきたっ!思わずむせる。

 …あぁ、恥ずかしい。いい大人なのに子供扱いされちゃった。


 なんといってもこの2人、自分たちが美男美女で注目されている自覚が薄いんだよね…こんな会話、怖すぎて他の人にうっかり聞かせられないよ!!


 と。なんだか、ざわつきはじめる店内。

「ん?なんだろ?」

 と思って見ると、大量の肉・肉・肉・肉が盛られたお皿を持った店員さんがいる。


 キースとパールのだ…すっごい量!!店員さんフル稼働してるだろうな。申し訳ない。

 でもね、2人もお腹すいてるし、人間界のものを食べるの楽しみにしてるの。

 それが証拠に、ほら。目が輝いてるもん、2人とも。

 しかし、大量。テーブルに乗り切らない。肉料理全種類を2人分、とんでもないな。まさに圧巻!!


 次々と運ばれてくる肉料理。隣のテーブルもくっつけても、あっという間にテーブルの上は肉料理でごちゃごちゃに。


「これがオークか?意外と悪くない」

「生肉のままより、美味しいじゃない」


 と、ノンストップで食べ進める2人。テレビで見た大食い番組みたいな光景になっている。お店の常連さんも、そんな2人のギャラリーと化している。


 その細い体のいったいどこに入っているのか。どれだけ運ばれてきても、食べる食べる。

 さらに食べるスピードも早くて(それでもしっかり味わっているからすごい)すぐにお皿の上のお肉は消えて下げてもらって…の、エンドレス。


 あまりにお肉だけ食べるから

「野菜も食べてね。体にいいよ」

 と言ってしまった。


 2人とも野菜にそこまで興味はなさそうだったけど、残さず食べてくれています。偉いぞ、2人とも。

 魔物は野菜とか食べる習慣なさそうだよね、勝手なイメージだけど。


「ウズキ、手が止まってるわ」

 わたしが残しているのに気づいたパールが話しかけてきた。


「うん、お腹いっぱいでね」

「じゃあ、我がもらおう」

「わたしも!」


 …なぜか、こんなに肉があるのに、わたしが残した肉の取り合いになっている。やっぱり魔物の2人からしたら、足らないのか。


「そうだよね、元のサイズから考えても足りるわけないよね…お金稼ごう!

 それとわたしも作れるようにならなきゃいけないなー」


 うーーーん。フライパンとかは売ってるとして、外でも調理できるコンロとかあるかなぁ?ひとつじゃ足りないよね。

 しかし料理…ほとんど作ったことないから、ハードルが高い。不安。だけど、頑張らなきゃ!2人のためにも!!


 昼食後の買い物リストを考えつつ、料理のことに気をとられてたら


「ウズキ、あーん」とパールが言うから

「?あーん?」


 思わず口を開けて、ぱくっとね。ギャラリーから「ぎゃーぎゃー」と声が聞こえるけど、まぁ…もう慣れつつあるから少しくらいならスルーできる。それより…


「これ、オークじゃないね。鶏肉っぽいなー」

「それは、ビックバードだぞ。うまいか?」

「うん、美味しいね」


 へぇ。ビックなバード。大きな鳥。そのままの受け取り方でいいなら、なんかキースが狩った魔物の山にもいたような?

 …まぁ大きい鳥なら他にもいっぱいいたけど。色もたくさん、なんなら首が2個ある鳥もいたけど。あれは違う気がする…。


「これもよく群れでいるからな。気に入ったなら、また狩ってやる」

 ふんわりと笑うキース。


 また、「ぎゃー!!」っと叫び声が聞こえる。いい加減、放ってくれないかなぁ。…いや、無理だな。これは。


 破壊力抜群なキースとパールの笑顔、大食い選手権と化した店内。楽しそうに見学してるお客さんと、大忙しの店員さん達。


 2人があれこれ感想を言うのを聞きつつ「2人ともとっても楽しそう。やっぱりわたしも作れるようになりたいな、いや、何事も努力あるのみ!」と決意する。

 

 さっきの「神さまはいる」発言を信じるとするなら、2人が美味しく食べられるように、わたしが料理上手になれるように料理本とか調味料とか。いろいろ欲しいなぁなんて。

正直、わたしのためより2人のために活かせる能力が欲しいんだよね。


 加護の話も聞きたいけど、落ち着いてからでいいか。今は2人が美味しそうに食べてるのを見てるのが嬉しいから。



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