第8話 さよなら、ピンクワンピース!!

 「洋服店はどこだろ。自分の識字能力が低すぎる。

 せっかくティムさんが書いてくれたのに」

 まさかの読めない事を思い出す。

 そう、わたしは異世界転生人だけど、なんでもイケる、そんなラノベではある意味常識?が通用しない。


 良くも悪くも。


 「なんだ?ウズキはどこに行きたいのだ?」

 覗き込みつつ話しかけてきてくれたのは、黒髪、黒目が綺麗。服装も黒基調で背も高く、少しだけ『気軽に声を掛けるな』オーラを出しているイケメン、キース。


 一見すると、どこのお家族様?みたいな、近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼は、わたしには甘い。

 そんな彼。本来の姿は黒龍。この世界の伝説級の魔物。


 「洋服店」

 と、答えると


 「先に洋服ね、いいじゃない。わたしも一緒に選んであげる」


 笑顔が妖艶。赤みがかった瞳は一見すると冷たい印象だけれど。

 感情がよく顔に出るので、すごい美女なのと同時に、とっても可愛らしいパール。

 こちらも本来は伝説級の魔物、フェンリルだったりする。


 白銀のロングの髪をなびかせて、スリット入りの体に沿ったワンピースにストール。全く嫌味なく似合っている。


 そんな2人を従魔契約をしたわたしは、自分のステータスもほぼ見れないし、定番の鑑定スキルもできないから、キースが黒龍と知ったのもついさっき。


 ラノベあるあるの神様にも会えてない。

 年齢や見た目も変わっていない。鏡を見たわけではないけど、手足を見る限り、少しはふっくらしたかもしれない…

 「しかし若返りたかった…くそう」


 森で会った2人をテイムできたのも、偶然が重なったのと、2人の優しさからだと思っている。

 本来、これはなかなかの非常識だとも感じている。

 魔物たちに助けられるラノベものは数あれど、1日で伝説級の魔物に立て続けに会い、そのおかげで自分が生きているとは…。

 自分は、基本的に弱いらしいから、即死パターンもアリだったわけで。


 その幸運スキル(どうやら高いらしい)に感謝。

 人間とは不可能なのに、高レベルの魔物と会話できるという謎スキルにも感謝。

 わたしと従魔契約すると人型になるという謎はあるけど、そのおかげで人型になっている2人は人間界も面白がっている様子。


 そして、現在も街中から熱い視線を独占中だ。

 (キースへの)キャキャーと、

 (パールへの)ワーワーと、

 (わたしへの)おばさん邪魔!!!なんだ?あのおばさんはっ!!!

 が付きまとう。


 「ほんと、神様っていないわ。わたしにとっては、キースとパールが神様だなー」


 「神はいるぞ」

 「そうよ、わたしたち加護を受けてるわ。もちろん、ウズキも。

 生ける者、全てにね。あ、もちろん、大小の差はあるわよ?」


 「…は?」

 神様、いるの?


 「だからみんな加護は受けているわよ。ウズキ知らなかったの?」

 「知らない!知らない!会ってない!」

 「神は会えるものではないぞ。我もお会いした事はない」

 「わたしも、お会いしたいけど神様だから。さっ!洋服店に着いたわよっ!」

 「そこ、もう少し聞きたいんだけどーー」


 わたしの服を選ぶということが楽しみで仕方ない、というテンションのパールにはこれ以上は今は聞けそうにない。


 それにわたしも、39歳にしてピンクのフリルパジャマのままでいるのは、勘弁したい、もう無理。

 という気持ちも、正直なところ。

 先に洋服や装備を整えることにする!

 神様には会えない、と分かったのなら、悪目立ちの洋服を変えなきゃね。


 「こんにちはー」

 「いらっしゃいませ」

 店員さん笑顔。主にキースとパールにロックオン。

 …わたしのこと見えてるかな?


 「すみません、これを」

 と、ティムさんがくれた紹介状を渡す。一瞬ギョッとした店員さん。

 それはギルマスからの手紙だけではなく、明らかにわたしの服装とか年齢とか(認めるのはしゃくだけど)その他もろもろに対するものだろう。

 そういうのを見逃さないキースとパールがキッっと睨みをきかせた。


 「すみません。少々お待ちくださいませ」

 パタパタとお店の奥へ。責任者を呼びに行ったのかな?

 「さ。選ぶわよー!」

 なんだかパールの気合いが。テンションが。…楽しそう。


 「パールの着てるようなのは無理だからねっ。無難ぶなんにしてねっ」

 「ウズキは我らに乗って移動することもある。動きやすい方がいいだろうな」

 「確かに」

 キースの助言に頷くわたし。パールもパンツスタイルを選ぶようで、ひと安心。

 

 すると、奥から店長さんらしき人が。

 「お待たせしました。ギルドマスターからの紹介状をいただきました。

 ここの店主のスタンドと申します。ご要望にお応えできるよう、頑張らせていただきます」


 「あら!じゃあウズキのためのパンツスタイル基調で探しているの。どこ?」

 パールが返事。ノリノリだなぁ。

 わたしは長いこと与えられたパジャマを着続けた人生だったから、センスには自信ないし。選んでくれるのは本当に、ありがたいのです。

 

 案内されたところで物色。パールだけじゃなくてキースも見てる。

 「へぇ、キースも興味あるのね」と思っていたら

 「これはウズキに似合いそうだ」

 と、カーキのカーゴパンツを差し出してくれた。

 …キースもわたしの服を選んでたのね。


 受け取って触ってみる。うん、ラクそうでいいな、色も合わせやすそう。


 「ちょっと!地味よそんなの。ウズキはこっちが似合うわっ」

 パールが差し出したのは、ベージュのショートパンツ!!

 「パール!これ無理!短いよっー!」

 「そぉ?ウズキは細いし似合うわよ?」

 「いや、わたし39歳だからー」

 「「それが?若いじゃない」か」


 …ドラゴン年齢とフェンリル年齢からしたら若かった。それで子供扱いみたいなのがあるわけね。なるほど。

 何も知らないという意味では子供には間違いないけれど。

 

 パールにはなんとか諦めてもらって。

 でもせっかく選んでくれたし…ということでもう少し丈が長くて(膝上なのは譲れないポイントらしかった)下にピッタリしたスキニーを合わせることで、納得してもらった。


 上は汚れてもすぐ洗えるような、黒、ベージュ、ブラウンのタンクトップ各1枚と、その上から重ね着用のオフホワイトとグレーの半袖を1枚ずつ。

 あとは同じ長袖シャツも2枚。肌着と下着、靴下を3枚ずつと靴!!

 この世界の人たちは靴はそうそう買うものではないみたいで、割としっかりした作り。特に冒険者はよく歩くし。


 そして、ティムさんから助言を受けた、アイテムバックもどきの斜め掛けバックも忘れずに。


 キースやパールに洋服を、と思って聞いたら「いらない」だって。

 どうやらわたしと契約したことで人型になっているから、問題ないらしい。

 

 んー、でもいつか。2人に必要なものができた時はプレゼントしたい。貯蓄もしよう。


 あれこれ買って、お会計。

 金貨8枚と銀貨5枚。これでもティムさんの紹介状のおかげで、ずいぶん安くしてくれたみたい。ありがたや。


 この世界のお金はだいたい、


金貨1枚が10,000円

銀貨1枚が1,000円

銅貨1枚が100円


 という、なんとも初心者にわかりやすい優しい換算方法だった。

 

 金貨より上のお金もあるみたいだけど、あまり流通してないみたい。

 それこそ大きな取引をする商人とかくらいらしい。

 ちなみに月金貨4枚あれば3人くらい余裕で生活できるんだって。


 そう思ったら、この街に入るお金は高くついてるな…証明証で金額が変わるっていうし。

 あれか?観光地では景観を守るために多く払うのと同じ感覚なのかな。

 「忘れずにちゃんと払いに行かなきゃ」

 門番さん、ビビってたし、怒られても可哀想。


 着替えて出ていく旨を伝えたら、このピンクワンピースを買い取りたいと言われた。しかも金貨10枚で!

 「なんでそんなに高いの?!」

 と思ったらピンクやフリルそのものが珍しく。生地もいいため、

 「参考にしたいし、ゆくゆくは貴族様用に量産したいのです!!」

と言われて納得。


 正直、少しだけ悩んだ。お金は大事だから。貧乏ですし。

 でも、結果的に「ごめんなさい」


 …姉が選んでくれたもので思い入れもあるし、なにより意外だったのがキースとパールが売ることに反対した。


 「「似合ってる!」」


 と2人が強くわたしに訴えてきた時は、どうしたことやら…と頭を抱える。真剣だから反応に困るんだよ。

 だって、わたしの感覚では39歳がピンクのフリルのワンピース(しかもパジャマ)を

 「「似合う!」」と強く言われちゃうと、どうしたらいいんだか。


 今は、キースが選んでくれたカーゴパンツの方を履いているけど、こっちの方が馴染むというか、なんというか。

 あと、純粋に、パジャマ以外を着ていることも久しぶりで嬉しい。


 「次はどこに行くの?」

 本当にノリノリのパール。

 女性ならではなのか。買い物が楽しいのは。

 いや、その割に実は楽しそうなキースもいるから、人間界の買い物が楽しいのかもしれないな。


 「武器と防具も買わなきゃ。あとは生活用品と、食品…お野菜とか調味料かな?」

 「武器と防具…ウズキには不要ではないか?」

 「そうよ、わたしたちの結界もあるし」

 「そうなんだけどね。一応最低限は揃えないと。じゃないと、他の人から見た時に怪しまれるでしょ?」

 「人間とは面倒だな…では行くか」

 「わたしが見繕みつくろってあげるわ」


 結果的に武器は軽い刀としっかりしたナイフを。

 防具は胸当てとグローブ、腰にさっき購入したナイフを入れることのできるベルトを購入。全部で金貨48枚。

 できるだけ安いものをピックアップ。だって本当は2人が言うように不要なものだし。

 そのうち金貨15枚がナイフ代金。高いわぁ。せっかく買ったし、いつか戦闘以外で使いたい。


 しかし出費がかさむなぁ…でもまぁ、初期投資は必要だよね。

 ここでもティムさんの紹介状が大いに役立ち安くなったようだし。ティムさんの力ってすごいなぁ。


 「じゃあ生活用品…食器とかいろいろ見たいんだけど、先にご飯にしようか?お腹すいたよね??」

 「そうだな。人間の食べ物はどんなものか」

 「興味あるわ」

 「2人ともずっと食べてないし、いっぱい食べてね」


 こうして、遅い昼食を取るべくわたしたち3人はご飯屋さんを目指す。

 2人とも、どのくらい食べるんだろう?それにこの世界の料理、興味ある。

 わたしも食事は久しぶりだし。楽しみだなー!!


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