第8話 さよなら、ピンクワンピース!!
「洋服店はどこだろ。自分の識字能力が低すぎる。
せっかくティムさんが書いてくれたのに」
まさかの読めない事を思い出す。
そう、わたしは異世界転生人だけど、なんでもイケる、そんなラノベではある意味常識?が通用しない。
良くも悪くも。
「なんだ?ウズキはどこに行きたいのだ?」
わたしの手元を覗き込みつつ話しかけてきてくれたのは、黒髪、黒目が艶やかで吸い込まれそうに綺麗。
服装も黒基調で背も高く、少しだけ『気軽に声を掛けるな』オーラを出しているクール系イケメン、キース。
一見すると、どこのお貴族様?みたいな、近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼は、わたしには甘い。
そんな彼。本来の姿は黒龍。この世界の伝説級の魔物。
「洋服店」
と、答えると
「先に洋服ね、いいじゃない。わたしも一緒に選んであげる」
笑顔が妖艶。赤みがかった瞳は一見すると冷たい印象だけれど。
感情がよく顔に出るので、すごい美女なのと同時に、とっても可愛らしいパール。
こちらも本来は伝説級の魔物、フェンリルだったりする。
白銀のロングの髪をなびかせて、スリット入りの体に沿ったワンピースにストール。全く嫌味なく似合っている。
そんな2人を従魔契約をしたわたしは、自分のステータスもほぼ見れないし、定番の鑑定スキルもできないし、多分、前の世界で死んだであろう39歳のまま。…この世界でも、しっかり「おばさん」年齢だ。
ラノベあるあるの神様にも会えてない。
自分の外見も、きっとそんなに変わっていない。鏡を見たわけではないけど、手足を見る限り、少しはふっくらしたかもしれない…。
「しかし若返りたかった…くそう」
森で会った2人をテイムできたのも、偶然が重なったのと、2人の優しさからだと思っている。
本来、これはなかなかの非常識だ。
魔物たちに助けられるラノベものは数あれど、1日で伝説級の魔物に立て続けに会い、そのおかげで自分が生きているとは…。
自分は、基本的に弱いらしいから、即死パターンもアリだったわけで。
その幸運スキル(どうやら高いらしい)に感謝。
人間とは不可能なのに、高レベルの魔物と会話できるという謎スキルにも感謝。
わたしと従魔契約すると人型になるという謎はあるけど、そのおかげで人型になっている2人は人間界も面白がっている様子。
そして、現在も街中から熱い視線を独占中だ。
(キースへの)キャキャーと、
(パールへの)ワーワーと、
(わたしへの)おばさん邪魔!!!なんだ?あのおばさんはっ!!!
が付きまとう。
「ほんと、神様っていないわ。わたしにとっては、キースとパールが神様だなー」
「神はいるぞ」
「そうよ、わたしたち加護を受けてるわ。もちろん、ウズキも。
生ける者、全てにね。あ、もちろん、大小の差はあるわよ?」
「…は?」
神様、いるの?
「だから、わたしたちみんな加護は受けているわよ。ウズキ知らなかったの?」
話を続けてくれるパール。強者の2人に加護があるのは理解できる。
…わたしも?!えぇ?!
「知らない!知らない!会ってない!」
「神は会えるものではないぞ。我もお会いした事はない」
「わたしも、お会いしたいけど神様だから。さっ!洋服店に着いたわよっ!」
「その話、もう少し聞きたいんだけどーーー!!」
わたしの服を選ぶということが楽しみで仕方ない、というテンションのパールにはこれ以上は今は聞けそうにない。
それにわたしも、39歳にしてピンクのフリルパジャマのままでいるのは、勘弁したい、もう無理。
という気持ちも、正直なところ。
先に洋服や装備を整えることにする!
神様には会えない、と分かったのなら、悪目立ちの洋服を変えなきゃね。
溶け込めないピンクのワンピースから、普通の服に変えなきゃ。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
店員さん笑顔。主にキースとパールにロックオン。
…わたしのこと見えてるかな?
「すみません、これを」
と、ティムさんがくれた紹介状を渡す。一瞬ギョッとした店員さん。
それはギルマスからの手紙だけではなく、明らかにわたしの服装とか年齢とか(認めるのは
そういうのを見逃さないキースとパールがキッっと睨みをきかせた。
「すみません。少々お待ちくださいませ」
パタパタとお店の奥へ。責任者を呼びに行ったのかな?
「さ。選ぶわよー!」
なんだかパールの気合いが。テンションが。…楽しそう。
「パールの着てるようなのは無理だからねっ。
「ウズキは我らに乗って移動することもある。動きやすい方がいいだろうな」
「確かに」
キースの助言に頷くわたし。パールもパンツスタイルを選ぶようで、ひと安心。
すると、奥から店長さんらしき人が登場。
「お待たせしました。ギルドマスターからの紹介状をいただきました。
ここの店主のスタンドと申します。ご要望にお応えできるよう、頑張らせていただきます」
「あら!じゃあウズキのためのパンツスタイル基調で探しているの。どこ?」
パールがグイグイいっている。わたしよりも楽しそう。
わたしは長いこと与えられたパジャマを着続けた人生だったから、センスには自信ないし。選んでくれるのは本当に、ありがたいのです。
案内されたところで物色。パールだけじゃなくてキースも見てる。
「へぇ、キースも興味あるのね」と思って眺めていたら、
「これはウズキに似合いそうだ」
と、カーキのカーゴパンツを差し出してくれた。
…キースもわたしの服を選んでたのね。
受け取って触ってみる。うん、ラクそうでいいな、色も合わせやすそう。
「ちょっと!地味よそんなの。ウズキはこっちが似合うわっ」
パールが差し出したのは、ベージュのショートパンツ!!
「パール!これ無理!短いよっー!」
「そぉ?ウズキは細いし似合うわよ?」
「いや、わたし39歳だからー」
申し訳ない、気持ちは嬉しい。けれど全力でごめんなさいさせてください…。痛々しい人じゃないか。子供は履いていたけど、そんな大人はまだ、すれ違ってないよ?!
「「それが?若いじゃない」か」
…ドラゴン年齢とフェンリル年齢からしたら若かった。それで子供扱いみたいなのがあるわけね…なるほど。
この世界の常識を何も知らない。という意味では子供には間違いないけどさ。
パールにはなんとか諦めてもらって。
でもせっかく選んでくれたし…ということでもう少し丈が長くて(膝上なのは譲れないポイントらしかった)下にピッタリしたスキニーを合わせることで、納得してもらった。
上は汚れてもすぐ洗えるような、黒、ベージュ、ブラウンのタンクトップ各1枚と、その上から重ね着用のオフホワイトとグレーの半袖を1枚ずつ。
あとは同じ長袖シャツも2枚。肌着と下着、靴下を3枚ずつと靴!!
この世界の人たちは靴はそうそう買うものではないみたいで、割としっかりした作り。特に冒険者はよく歩くし。
そして、ティムさんから助言を受けた、アイテムバックもどきの斜め掛けバックも忘れずに!
キースやパールに洋服を、と思って聞いたら「いらない」だって。
どうやらわたしと契約したことで人型になっているから、問題ないらしい。
んー、でもいつか。2人に必要なものができた時はプレゼントしたい。そのために貯蓄もしよう。
あれこれ買って、お会計。
金貨8枚と銀貨5枚。これでもティムさんの紹介状のおかげで、ずいぶん安くしてくれたみたい。ありがたや。
この世界のお金はだいたい、
金貨1枚が10,000円
銀貨1枚が1,000円
銅貨1枚が100円
という、なんとも初心者にわかりやすい優しい換算方法だった。
金貨より上のお金もあるみたいだけど、あまり流通してないみたい。
それこそ大きな取引をする商人とかくらいらしい。
ちなみに月金貨4枚あれば3人くらい余裕で生活できるんだって。
そう思ったら、この街に入るお金は高くついてるな…証明証で金額が変わるっていうし。
あれか?観光地では景観を守るために多く払うのと同じ感覚なのかな。
「忘れずにちゃんと払いに行かなきゃ」
門番さん、ビビってたし、怒られても可哀想。
着替えて出ていく旨を伝えたら、このピンクワンピースを買い取りたいと言われた。しかも金貨10枚で!
「なんでそんなに高いの?!」
と思ったらピンクやフリルそのものが珍しく。生地もいいため、
「参考にしたいし、ゆくゆくは貴族様用に量産したいのです!!」
と言われて納得。
正直、少しだけ悩んだ。お金は大事だから。貧乏ですし。
でも、結果的に「ごめんなさい」
…姉が選んでくれたもので思い入れもあるし、なにより意外だったのがキースとパールが売ることに反対した。
「「似合ってる!」」
と2人が強くわたしに訴えてきた時は、どうしたことやら…と頭を抱えた。真剣だから反応に困るんだよ。
だって、わたしの感覚では39歳がピンクのフリルのワンピース(しかもパジャマ)を
「「似合う!」」と強く言われちゃうと、どうしたらいいんだか。
今は、キースが選んでくれたカーゴパンツの方を履いているけど、こっちの方が馴染むというか、なんというか。
あと、純粋に、パジャマ以外を着ていることも久しぶりで嬉しい。
「次はどこに行くの?」
本当にノリノリのパール。
女性ならではなのか。買い物が楽しいのは。
いや、その割に実は楽しそうなキースもいるから、人間界の買い物が楽しいのかもしれないな。
「武器と防具も買わなきゃ。あとは生活用品と、食品…お野菜とか調味料かな?」
「武器と防具…ウズキには不要ではないか?」
「そうよ、わたしたちがいるし、結界もあるし」
えぇ、わたしもこの2人が一緒にいるのに、武器や防具が必要だなんてね。使い道なさそうと思うけどね。
「そうなんだけど、一応最低限は揃えないと。じゃないと、他の人から見た時に怪しまれるでしょ?」
「人間とは面倒だな…では行くか」
「わたしが
結果的に武器は軽い刀としっかりしたナイフを。
防具は胸当てとグローブ、腰にさっき購入したナイフを入れることのできるベルトを購入。全部で金貨48枚。
できるだけ安いものをピックアップ。
…だって本当に不用品だしね。
そのうち金貨15枚がナイフ代金。高いわぁ。せっかく買ったし、いつか戦闘以外で使いたい。
しかし出費がかさむなぁ…でもまぁ、初期投資は必要だよね。
ここでもティムさんの紹介状が大いに役立ち安くなったようだし。ティムさんの力ってすごいなぁ。
「じゃあ生活用品…食器とかいろいろ見たいんだけど、先にご飯にしようか?お腹すいたよね??」
「そうだな。人間の食べ物はどんなものか」
「興味あるわ」
「2人ともずっと食べてないし、いっぱい食べてね」
こうして、遅い昼食を取るべくわたしたち3人はご飯屋さんを目指す。
2人とも、どのくらい食べるんだろう?それにこの世界の料理、興味ある。
わたしも食事は久しぶりだし。楽しみだなー!!
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