第6話 ギルドマスターとご対面

 しばらく待っていたら、受付嬢がパタパタと戻ってきた。

 その後ろに、ガタイのいいおじ様が。わたしより、少し年上なのかな?


「この依頼書が片付いたというのは、本当か?」


 おぉ。ギルドマスターなの?眉間に皺がよっている。その顔…信じてない感じがありありと出ている。

 きっと隠すつもりもないんだと思う。

 少しムッとしたけど、なんせ、初のギルドマスターご対面?なのでちょっとワクワク。

 やっぱり元は高ランクの冒険者だったのかな??


「なに?我が嘘をつく訳ないだろう」

「この人間、失礼ね。…ウズキ、こいつ蹴飛ばしていい?」

「うわぁ!絶対ダメッッ!」


 不機嫌モードな2人。

 パールに関しては、不穏なことを堂々と。一応、わたしに許可を求めてくれただけでも良しとておこうかな。もちろん却下だけどね。


「あの、ギルドマスターですか?」

「あぁ。ここザンビアの街のギルドマスターをしている。ティムだ」

「わたしは、ウズキです。こっちが、キースとパールです」


 2人を紹介するも、2人とも、ちっとも和やかさがない。むしろ敵意が全面に出てる。

 

「あのー、依頼書受ける前に終わらせてはダメでしたか?

 そもそもわたしが冒険者登録前なのが問題ですか?」


 とりあえず話を進めないと、生きていくすべを。わたしだけじゃない。

 大事な2人をやしなう為にも、しっかりしないと!


「いや、そうじゃない。依頼をかけたのは今日だし、オークの群れだ。正確な数も分かっていない。

 Cランク冒険者に、正確な情報を得る偵察の依頼だけでも、複数のパーティーが必要だった案件だ。

 それでも正確な規模は分からなかった。

 …簡単に信用できん、というのが正直なところだ」

 

 おぉ!Cランクとな!!異世界冒険の空気だねっ!!やっぱり一番上はSランク?


 ちょっとテンション上がったわたしの横から、なんだか殺気にも似た空気が。


 あ!そうか。

 2人からしたら…特にパールが全滅させたのに「疑ってますよ」と断言されたも同じなわけで。

 頂点に近いであろう、フェンリルの、そして黒龍のプライドが傷付けられているんだから、そりゃキレる。やばい!!!

 ギルドマスターもさすがに、この2人から出る強者の圧に気押されている。


「あのっ!場所変えたいんですけどっ!!できれば証明できる広いところにっっ!!」


 ティムさんに伝えてすぐ、2人の顔を見上げて「落ち着いて!お願いー!」と片方ずつ腕に触れて必死でなだめる。

 2人はわたしが触れたことで、少し落ち着いた様子。

 といっても、ティムさんの発言を許したわけではなさそうだけれど。


 …これは、証明するしかない。バレてもいい。いや、バラさないと話が先に進まない!


「お願いですから、早く移動を!証明しますからっ!」


 ギルドマスターのティムさんを見つめながら、大きな声を出して必死に頼む。

 2人にキャーキャー言っていた、周りに群がる冒険者たちも、圧倒されているみたい。


 わたしに対しての『おばさん』呼ばわりの怒りとはまた違う、自分たちのプライドをかけて2人は怒っている。

 さすがに危機察知能力が高いのね、冒険者のみなさん。今は何か言ってこの2人の逆鱗に触れない方がいいですよ…。


「…じゃあ、こっちだ」

 と、奥へご案内。念のため2人の手を握って進む。

 

「あの、できるだけ広い場所にお願いします!!

 オークもお渡ししたいし、証明しないと」

「…俺の部屋じゃなく、解体部屋に行こう」


 うん。それがいいです。オークは235匹いる。全部一度に出さずとも、ある程度は渡したい。お金が欲しいし、解体後の肉も欲しい。


 何より。

 キースとパールの本当の姿を見せて、わたしがテイマーとして、正式に冒険者登録をしてもらわないとならない。


 解体部屋の扉が開く。中は結構な広さ。

 2人一度に元の姿になるのは無理だけど、1人ずつなら…キツキツだけどなんとか?なる??分からんけども、やるしかない。

 壊れたら、壊れた時に考えてもらおう。


 なんせ2人とも本来の姿は大きいんだもの。でも、なんといっても美しいから、許される!(はず)


 …どんな反応なんだろう。悪い方の予想が出てくる。ちょっと…いや、かなり怖い。

 わたし、危険人物とみなされて、捕まったらどうしよう。そんなことになったら、2人がキレるのは目に見えている。


 えっと…まず暴れるでしょ、最悪この街壊すでしょ。

 そしたら、わたしたちに懸賞金でもかかるんじゃないかしら…黒龍とフェンリルを相手に戦いを挑んでくる強者つわものが、そうそういるとは思わないけど。平和な日々が送れないのは困る。

 

「ティムさん。あなたが、うまく話が通じる方でありますように、と願います。本気で」

 ボソッと願いを口にする。


 うちの2人の正体を知って、喧嘩を売るバカはギルドマスターになれるはずないと信じていますっ!


「できるだけ、人払いもお願いします。

 これはティムさんを信用して打ち明けるんです。お願いします」


 真っ直ぐ目を見て。2人を握っている手に、力が入った。

 わたしを見つめた2人。わたしの思いを察したに違いない。

 キースが、パールが。わたしの手を握り返す。2人を見つめれば、笑顔が返ってきた。

 心強いな。

 

 そんな私たちの無言のやり取りを見ていたティムさんは、解体責任者かな?1人だけ残して全員外に出てもらっていた。そして施錠も。


「なにごとなんだ?ギルマス??」

「トム。これから見ることは内密に。

 もしかしたら、すげぇ場面とご対面かもしれねぇ」


 トムさんというのね。不思議そうな顔をしている。この人もガタイがいいから元冒険者かもしれない。


「ティムさんを信用して、お話しします。本当の事を伝えないと、理解して欲しいなんて言えないから。

 えっと…ここに出しますね」

 

 そう告げて、その辺の机にオークをアイテムボックスから引っ張り出す。

 こういうのは見せた方が早い。どんどん出す。

 途中でオークの強いヤツとか出てきたけど、結果的にはその方が都合がいい。

 

 40匹ほど適当に引っ張り出していた。予想通り、ティムさんも、トムさんも言葉を失っている。


 でもこれだけでは終わらないのよ。


「わたしはテイマーです。

 あの依頼書にあったオークの群れですが、殲滅せんめつさせたのはパールです」


 改めてティムさんとトムさんに紹介する。

 パールは、さも当然とばかりに「雑魚ざこだもの。こんなの」と言ってのけた。

 …かっこいい、パール!


「お前さんは、テイマーだと言ったな。なぜ人間をテイムしている。それだと奴隷と同じ理屈だろう。

 あと、パールと言ったか。あんたの強さはどれほどなんだ?Sランクじゃないか…」


「ティムさん、これは秘密にして欲しい事ですが…パールの本当の姿は別にあります。

 人にもなれるけど…誓って奴隷なんかじゃない!

 パールも、こちらのキースも、わたしの大切な大好きな家族なんですっ!」


 パールにもキースにも、本当の事を打ち明ける許可を明確にとってはいないのに、勝手に話してる。

 初対面のティムさんが本当に信用できるかどうかも分からないのに。

 2人は怒るかもしれない。だけど、奴隷なんて言われて黙ってもいられない!!


 どちらにせよ、本当の事を言うと覚悟していたことだ。


「…キース、パール、事後報告になって、ごめんなさい。でも本当の事、伝えたい。

 わたし、2人とこの世界で生きていくって決めたから。だからこそ、先に伝えなきゃ。

 逃げたらダメって思うから」


 2人を見つめる。初めて会った時と同じ深く深く心の底まで見られている感覚。


「いいわよ。わたしはわたしの意思でウズキといるんだから」

「我も構わない。ウズキを守ると決めている。それに…なにかあれば、潰せばいいだけだ」

 

 凛としたパールと、キースがわたしを見てた。


「キース!怖い事をサラッと言わないでー!…でも、ありがとう2人とも」

 嬉しくてニヤニヤしちゃうと、2人も一緒に笑う。


 さて。覚悟も決まりました。2人がいれば、怖くない!!

 よしっ!と、手を握る。そして、ティムさんと真っ直ぐ向きあい、そして、パールを見る。


「パールの本来の姿です」

 

 パァァァァ!!!と一瞬の光のあと、現れた白銀の、フワッとなびく綺麗な毛並み。

 凛々しく美しいフェンリル姿になった。


「あ、やっぱり少し狭いな。ごめんね、パール」

 と、その美しい毛並みを触る。


「ティムさん!…て、あれ?」


 いない!!どこ?!

 キョロキョロしてみる。と、いた!!トムさんと共に腰を抜かしてる。


「ちょっと待て!…もしかして…フェンリルか?伝承レベルだぞ。本当に…?」

 あ、見抜いてる。やっぱり高ランク冒険者だったんだな、ティムさん。


「パール、狭いよね。人型になる?」

 ポンっと現れた美女は

「狭いわね。人型はその点はラクね」と、ごちている。そして。

 

「そういうこと。わたしの主人は、このウズキ!立派なテイマーよっ!!

 この子を貶めるのは許さないから」


 と、わたしを抱きしめながら言い切る。

 どうしよう、嬉しい。すっっごく嬉しい。

 

 抱きしめられたまま「あ、ショックは早い方がいいな」と思ったわたしは、キースにも話しかけた。


「キース、狭いけど大丈夫?本当は外がいいけど…あ、あそこ開けてるよ?」

「ああ。我もウズキの頼みを断る理由はない。構わない」

 

 キースと一緒に、屋根が高い場所に。大物の魔物を解体するところなのかも。

 わたしのアイテムボックスにもキースが狩ったデッカいのいたもんな…。なんてことを考えてたらキースから「ウズキ」と、頬を撫でられた。

 はっ!いけない。そんなこと、今はどうでもいいことだ。


 キースを見つめたら、キースは頷く。

 

 また光。美しいと、何度も思う。ティムさんが

「今度はなにが出てくるってんだ!」

 と叫んでる。


 …ごめんなさい、黒龍です。

 黒く綺麗な鱗は艶やかに。大きな翼は安心感を与えてくれる。

 そんな美しい黒龍なんです。


 キースの元へ駆け寄る。やはり狭い。重そうな机が容易くガガっとすみへと移動していく。


「キース!」

 呼びかけるとゆっくりわたしを見つめて、

「大丈夫だ」と翼で包み込んでくれた。その姿でティムさんに視線をうつしてから、人型に戻って、わたしの髪を撫でてくれていた。


「今度は黒龍…か?おいおい。勘弁してくれよ…。

 お前さん、いったい何者なんだ…」

 起き上がれないティムさん。

 ひとことも発しないトムさん。

 

 信じてもらうため、この世界で生きていくために見せた。これから先の話が本当の正念場になる。

 わたしは、ぎゅっと手を握りしめていた。






 

 

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