第5話 いざ!街デビュー!!

 はい。現在も森。

 キースが捕獲しまくった魔物をせっせとアイテムボックスに収める作業中。

 キースも手伝ってくれるけど、とんでもない量で終わらない。


 突然パールが

 「あ、わたしも行ってくるわ。暇だし。お金になるんでしょ?ウズキも嬉しいでしょ」と、フェンリルの姿になってダッシュで走り出した。

 「あ、パール!」声をかけた時は既に視界にパールの姿は見えない。

 「どこいったのかな?」

 「多分だが。オークの群れだろうな。さっき見かけたが、数だけで手応えもないしな」

 「へー。ちなみに群れって?」

 「200くらいか。それより手を動かせ」

 「…はい」

 …それなら、フェンリルのパールにとっても瞬殺のヤツでは?

 とりあえず今は目の前の名前も知らない魔物たちを収納しないとね!!


 キースの捕獲した魔物たちを全部アイテムボックスに入れ終わり、ドラゴンになったキースの背に乗りパールの元へ。

 キースは迷いなく進み、徐々に下降していく。思わず「うげぇ」と声が出てしまった。

 大量のオーク。

 そして凛々しいフェンリル姿のパールが、こちらに気付いて見上げている。なんだか満足気に見える。

 「これも回収…だよね。せっかくパールが頑張ってくれたんだもの」

 「パールなら相手にもならんザコだが、オークは人間たちはよく食す。街に行くのだろう?売れるはずだ」

 「そう、お金!!頑張ります!!」


 それから2人に手伝ってもらって、またもやせっせとオークをアイテムボックスに。

 よく見ると、少し違うの何種類かいる。どうやらそれらが群れのリーダーだとか。

 「統制が取れているのね、実物のオークを見たのは初めてだけど、オークの情報もラノベのままなんだな」


 「収納終わりっ!235匹〜!」

 「お疲れ様。じゃあ街に行きましょうか」

 人型のパールが微笑みながら、わたしの頭を撫でる。

 「ではパールに乗って行くか」

 「なんでよっ!キースでもいいじゃない!」

 「ここからは街も近い。我が行くと人間が攻撃してくるぞ。そうするとウズキが困る。

 2人くらい乗せられるだろう」

 正論だったからか、ゔっ、とパールの顔に少しの嫌悪感。けれど即、凛とした表情で

 「仕方ないわね、ウズキのためよ」

 とフェンリルの姿になる。

 「ありがとう、パール。重くない?」

 「平気よ、ウズキは軽いし気にしないで。キースも早く!

 ウズキ、スピード出すから、わたしにしがみついてなさい。

 キース、ウズキを落としたら承知しないわよ!!」

 「そんなヘマはしない」

 「じゃあ行くわよー!」

 「うひゃーーー!!!!」

 パールの速さにびっくりして、しがみつく。加速が半端ない。

 後ろにいるキースがわたしの腰に片腕を回してホールドしてくれてるのを感じて、安心感が湧き上がる。

 だけど。だけど!怖いー!

 絶叫系と縁が無かった人生だったのーーー!!!


 うひー!と思っていることしばらく。ピタリとパールが止まる。

 キースも「こんなものだな」と私の手を取り抱っこして降ろしてくれた。

 イケメンに抱っこされたというのに、へにゃりと膝に力が入らず座り込んでしまう。

 人型になったパールが「大丈夫?」と声をかけてくれるけれど、正直怖すぎたよ…。


 「ここから少し歩くけど、我慢してね。これ以上行くと人間の気配がするわ。

 さすがに私たちが揃っている姿を見られると騒がれるし、なによりウズキが危ないわ」

 「同感だ。歩くぞ、ウズキ。…仕方ないな」

 「うわわわっ!」

 お姫様だっこ!これが!お姫様抱っこ!!いや、これはこれで騒がれそうな気もするよ…。


 イケメンにお姫様抱っこされてる39歳。

 介抱されてると思われたとしても、睨まれるのは間違いない。

 抗ってみたけど、腰が抜けてるのは確かなので、せめておんぶで進むことに。

 ふたりとも歩くのが早い。

 「リーチの差か?これは…」

 「なんだ?」

 「いや、なんでもないよ。あ、あれ門?」

 昨日の街の入り口が見えてきた。

 あの兵士さん?門番さん?いるよね…言葉通じないんだけど、どうなるのかな。

 また怒られる?いや、そうしたらこの2人が黙ってない気もする。

 ラノベあるあるでいうなら、この2人が本気出せば、戦争じゃん…穏便にひとつ。

 

 門の手前で降ろしてもらって、門番さんを見つめると

 「あんた、昨日のおばさんだな。どうした?そんな美男美女連れて。犯罪は許さんぜ」

 おや?聞こえる。言葉だ!!

 てゆーか!おばさんってムカつくな!!

 確かに美男美女連れてるおばさんは不審に見えるかもしれないけど!

 事実でも女性には優しくしろや!!!


 「あなた…それウズキに言ったの?」


 ムカっとしてたら、横から黒いオーラの気配。

 はっ!いけない!パールが怒ってらっしゃる。

 はっ!キースからの圧も凄い。美男美女からの圧に門番さんは狼狽えているっ。


 「わたしたち、旅してて。冒険者登録したいんですけど、この街でできますか?」

 「あ?あぁ。できるぞ。この街のモンじゃねぇよな。通行料、3人で銀貨15枚だ」

 「お金持ってないんです…それで冒険者になって稼ごうと思って来ました!!

 魔物も狩ってきているので、それをギルドで売った後に必ず戻りますから!お願いしますっ!!」

 ガバっと頭を下げるわたし。お願いします。逃げません!!お金の元はあるのです〜!


 「はぁ?そんなのバックれる言い訳だろ。許される訳が…な…い…。

 いや、分かった。今回は特別だ。許す」

 「へっ?」

 頭を上げて門番さんを見ると目線はわたしの背後。振り返ると、睨みつけるキースとパールが…。

 怖いよ美男美女。素がいいだけに圧がひどい。ごめんなさい、門番さん。

 美男美女ペア、今回はありがとう。次から極力やらないでね。


 問題は少しありつつも、教えてもらったギルドを目指す。

 「門番さんの言語、理解できたよ。ふたりからもらった鱗と白銀の毛の力?」

 「そうだな」

 「話せてよかったー」

 「わたしたち2人の力が宿っているのよ。当然よ」

 パールがわたしの頭に腕を回してポスっと寄りかかる形になる。

 「おい」

 今度はキースが片手でわたしの腰に腕を回す。

 なんていうか…2人ともわたしへの密着?接触?よしよし的な?あ、過保護!なんだよね。

 テイムするとこうなるの?それとも2人が世話好きの、良い人(魔物が正しいの?)だから??


 すると…

 「きゃーーー!」とか

 「うわーーー!」とか

 「なに、あのおばさん!」

 「羨ましい!!」

 「離れろおばさん!」とかとか。


 いや、街に入ってからずーっと聞こえてたけど。

 2人に対する黄色い声と目線と、わたしに対する妬みの声。『おばさん』の連呼。

 あぁ、街も怖い。

 この状況を作っているキースは外野完全スルーで、手はわたしの腰にあるまま離さないし、パールもパールで『よしよし』と頭を撫でてくれている手を離さない。


 嬉しいよ?心強いよ?わたしも2人が好きだしね。けどねぇ…この先が怖い。

 あと、さっきからずっと出てくる『おばさん』呼ばわりはやめてほしい。

 おばさんだけどっ!!みんななるのよっ!!

 

 「あ、ここだね」

 冒険者ギルドに到着。ギィと扉を開けたら、中にいた方々。全員と言っていい。分かりやすい、漫画みたいな二度見して、そこから視線が動かない。

 当然、その視線の先にはキースとパールがいる訳だけど。

 ここまでの美男美女だと声も出ないのね。ムキムキ鍛えてる男性陣も同じく冒険者らしい女性陣も、お酒を飲んでた人たちも。

 「冒険者ギルドって、ラノベみたいに酒場も併設してるんだね」とちょこっと感動。

 そして受付に向かおうとしたら、バババッと道ができた。

 え?みんな並んでたんじゃ?


 「さっ、さっ、先にどうぞ」

 「どうも」

 髪をなびかせて、さも当然の如く歩くパール。「ウズキ、ほらっ」と手を引かれる。そこで初めて、みなさんわたしの存在に気付いたようだ。

 「なんだあのおばさん」

 「おばさんがなんであんなハイスペックな2人といるの?」

 「おばさんに譲った訳じゃないんだけど」


 あぁ、またか。聞こえているよ。ギロリとキースが睨みつつ圧を出したんだろう。ザワザワしてたギルド内が再び静かに。

 平和主義なの、わたし。2人とも、ありがたいけど程々にね…。


 受付のお姉さんに、冒険者になりたい旨を伝えたら、キースに見惚れていたその子は「え?」と「誰がですか?」と。

 一応仕事モードも忘れてないようで感心。そりゃ聞き返すよね。

 「わたしです」

 「…え?」

 「テイマーです」

 「あの…失礼ですが冒険者になるには少しご年齢が。

 やはり危険を伴いますし、特にテイマーとなりますと、かなり特殊な力が…」


 ですよね。そもそもテイマーって言いながら従魔連れてないですしね。

 人型になってますから、気付けないですもんね。けどね、元の姿にはなれないのです…。

 ドラゴンとフェンリルだもの…。

 これは、ラノベ定番のギルドマスターに会うしかないのでは?!


 「あの…ギルドマスターっていらっしゃいますか?」

 「え?…えぇ」

 「お会いしたいんですが」

 「失礼ですが、それはちょっと…」

 「なに?あんた。ギルドマスター呼んできなさい。早く!」

 「きゃ」

 

 美人の強気発言にビビる受付嬢。

 そりゃそう。そうなんだけど、受付嬢の言ってることも当然なんだよなぁ…。

 うーん、お金いるし魔物買い取ってくれないだろうか。

 でもそれって説明いるのかな、わたしが自力で…って誰も信じないよね。そもそも嘘になるし。

 

 「これを」

 「ん?」

 頭上から伸びてきた手はキース。そして、一枚の紙。

 キースたちからもらった鱗と白銀の毛で会話は理解できるようになったけど、文字はブツブツ途切れてる。難しいのはまだ無理みたい。不思議。


 「これをギルドマスターに。我々が依頼達成したからな」

 「あ、あれね。そうね、早く呼びなさい」

 強気の2人。いや、いつもブレない2人なのだけど…なんだろう、読めないところがある用紙は何が書いてあるのだろう?

 「え?これ…お待ちください」

 パタパタと走る受付嬢。ギルドマスターのところに行ってくれたと信じよう。


 「あれ、なぁに?」

 2人に聞くと頭を撫でられた。また聞こえる、悲鳴と怒号。そしてわたしへの嫉妬まじりの悪口。

 キッと並んだ2人にまた静まるギルド。何回やれば気が済むの?このやりとりは。無限ループか…。


 「あれは討伐依頼書だ。ちょうど、パールが全滅したオークの集落のものがあったからな」

 「そうなんだ?わたし、会話は分かるようになったけど、文字は分からないところが混ざってるから、きちんと読めなくて」

 「わたしたち2人分の力の入ったものでも完璧にならないなんて。ウズキはますます興味深いわ。

 けど私たちは人間の言葉や文字なんて元から理解できるし、安心して」

 笑顔でなでなでするパール。

 …そういえば、ラノベあるあるではフェンリルって人間の言葉をフェンリルの姿のまま話せたりしなかったっけ?

 聞いてみたら

 「できるけど、話してやるほどの人間はいないからしないの」

 とシンプルかつ、ぶった斬る返事が。

 横でキースも『同感だ』みたいな顔して目を閉じる。

 「魔物も人を選んでる、当然よ」だって。


 じゃあ、そんな2人が認めてくれたのが、わたしなんだって思ったら…やばい、嬉しい。顔が勝手に笑う。

 ニヤけちゃう自覚があるから顔を手で覆ったら「どうした?」とキースが覗き込んできて。周りがギャーギャーいうのをパールが睨んで収まって。このループが、嬉しさを倍増させた。

 「わたし、2人に会えて良かった!大好きよ!ありがとう」

 「なに、可愛いわね。わたしのご主人は」

 「唐突だな。主人を守るのは当然だ」

 2人の笑顔の破壊力。またうるさくなる外野。わたしへの悪口も含まれているけど。

 今はいいや。嬉しいから。

 優越感に浸っておこう。


 羨ましいでしょ、へへーんだっっ!

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