第4話 またもや!やってしまった!!

 そのあと、キースの狩場で降ろされて

「ここにいろ」の指示を受ける。


 けれどひとりぼっちは怖いんです…。


「結界とか張れない?」

 とラノベあるあるを告げてみる。だって弱いって、キースが教えてくれたしさぁ。


「そうだな」といとも容易たやすく結界を張ってくれて、あっという間に飛んで行った。


「やっぱり、結界あるんだな。ファンタジーな世界だよっ。…ならちょっとくらい動いていいかな?

 怖くないわけじゃないけど…キースの結界なら信用できるしね」


 それに、ちょっといろいろ見たいという好奇心がむくむくと。守られていると思えば、恐怖はしぼんでいく。



 ガサガサガサッ。



「え?なに?早速魔物??」


 武器もなにも持ってないですけど!

 いや、ここはキースの結界を信じつつ、キースの帰りを待つしかない。本当にヤバかったら、キースなら気付いてくれるよ。


 ゴクっと喉が鳴る。足が震える。


 やっぱり音が鳴った方から目は離せないのが人間か…昨日のキースとの出会いと同じ。逃げたいけど、体は動かないし、目も離せないものなのね…。


「ん?」


 おや?犬が。


「て!デッカ!!大型犬なんて比較にならない。でっかいよ!大型犬からガッツリ見下ろされてる…。何メートルあるのかしら?」


 犬はただ、わたしを見下ろしているだけ。


 …だけど犬だよね?わたし背中に余裕で乗れそうなサイズだ。


「本当に犬?あの、もふもふで艶々な毛並みは犬??

 うわー、触りたい。あの毛並みに顔を埋めてみたいー!!」


 なんだか微妙な顔をされている。うんうん、動物は警戒心あるよね。


「……」

「怖くないよー。この子、触らせてくれるかな?」


 と、まずはセオリーに従い、自分の匂いを嗅いでもらおうと手の甲を差し出した途端。


 シャーーー!!!

 ガチン!!!!!!!


「うわぁぁ!!」


 ん?あ、やら…れていないわ。キースの結界のおかげで助かったみたい。

 そうか、ここ異世界だった。それにあのサイズ。

 動物ていうか、魔物だよね。緊張感がなさすぎる自分。しっかりしないと。


 でもなぁ。


「…見た目の美しさから緊張感取れちゃってた。やばいなぁ」


「あなた、なぁに?わたしが怖くないの」

「へ?なんか声がきこえる…」

「わたしの攻撃かわすし、それ結界でしょ。ただの人間には無理だわ。

 それに、わたしの声聞こえてるんでしょ」


 声の主は、目の前の大型犬でした。女性なのね。触りたい欲求は、迷惑だったかも。


「あ、うん。聞こえてるよ。さっきは突然触ろうとしてごめんなさい」


 きちんと自分の非礼はお詫びをしないと。ペコリと頭を下げる。


「結界はキースに張ってもらってるの。あ、黒いドラゴンなんだけど。

 今、狩りに行っててね。帰りを待ってるところだよ」

「あなた!まさか黒龍を従魔にしてるの!?本当に?」


 あ、めちゃくちゃ驚かれてる。

 やっぱりこの世界の頂点に近いのか、ドラゴンは。異世界もののテンプレだよねー。それとキースは、黒龍って種族なんだね。


「そうなの。昨日会ってね。すっごくカッコいいんだよっ!!」

「…あぁ、そう。

 それにしても簡単に言うわね、あなた…変な人間だわ」


 なんだかちょっと引かれてる。なんと!やっぱり、この世界では非常識なのかなぁ。魔物と話せる能力は珍しいらしいし…。

 だけどこんなモフモフのかわい子ちゃんから、そんな目で見られるのは悲しかったりする。

 だって、本当に綺麗なんだもの。この子(魔物だけど)


「わたし、異世界から来たんだ。

 この世界の人間の言葉がわからなくて。途方に暮れてたら、キースと会ってね。

 あ、さっき話した黒龍なんだけどね。

 人の言葉は通じないのに、キースとは言葉が通じて。

 いろいろ教わって。従魔になってくれたの」


 一方的に話すわたし。聞いてくれる、大型犬のかわい子ちゃん(きっと強い)


「ふぅん。異世界ねぇ。魔物と話せるなんて、変わった人間ね」

「強い魔物とは会話できるんだって!そういう能力があるってキースが教えてくれたの」


 嬉々として返事をする。が、また「ふうん」と言われ、じろじろ見られている。このピンクパジャマがおかしいですかね?わたしも同意見だけどね。目立つしね。


「わたし、ウズキ。

 あのね、もしよかったらでいいのだけどね。

 …触ってもいいですかっ!?」


 出会った時から、触りたかった。抑えきれないこの衝動。直接、許可をもらうしかないっ!


「はっ??????」


 思いがけないことを言われたのか。ちょっとポカンと気の抜けた返事が戻ってきた。


「いやー、そのモッフモフに触れたいなーって思ってたの。綺麗な毛並み!!

 だからここが異世界で、あなたが魔物なのを忘れて手を出しちゃったのだけどね」


 少し恥ずかしくて、誤魔化すように自分の髪を触りながら、告げる。すると大きなため息が聞こえた。


「あなたわたしが怖くないの?本当に変わった人間だわ。

 …いいわよ、言っておくけど、普通人間は触れないのよっ」


 ツンっと、けれど自分の毛並みに自信があるのか褒められたことは嬉しそう。

 ドヤっとまんざらでもない感じ。


 おぉ「触って良し」の許可もらえた!

「ありがとう!嬉しい!」

 そっと腕を伸ばして触れる。


「キースが張ってくれた結界があるけど、あなたに触れられるかしら?…あ、大丈夫みたい。良かったぁ」


 自分の意思があれば結界に守られている今も魔物に触れるみたいだ。便利!!


「うわぁー。感動!思った通りモフモフでサラサラで。それに綺麗な色ね。

 よく見ると白銀だわ、光に反射してキラキラしてる。

 あなたの赤い瞳と合ってるわ。真珠みたいな毛色なのね。真珠…パールね」


「パール?」


 パァァァァ!!!!


 辺りが光で包まれる。眩しくて目が開かない。

 さっきまでしていた、森の騒音が遠のいていく。


「え?え?なんだかデジャブ感が…」

「一体なんなの?!」

 

 やっぱり……。


 光が収まって目を開くと、目の前には背の高い超美女がいた。

 体のラインにそったノースリーブワンピース(スリット入り!!)にストール。スタイルのよさが際立きわだつし、色気も漂っているみたいな。

 白銀のロングヘアに瞳は赤みかかっている。


 あぁ。

 これはもしや…またもや、相手の同意なしで従魔契約してしまっているのかもしれない。

 確認するのが怖いです。


 わたしには鑑定スキルがないから、自分では確認できないけれど。

 確信だって持てないけれど。このパターンはよく覚えているよ、だって今朝の話だもん!!

 キースの時と、全く同じ!!


 やっちまった……。でもどうしてこうなっちゃうの?さっきまで普通だったのに!


 頭を抱えるしかないわたしに

「どういうことなの?!」

 と詰め寄る美女、パール。


 当然だ。どうしよう…従魔契約してしまったの?なんで言えばいいの?!

 自分でもさっぱり分かっていないものを説明する能力は持ち合わせてないんだよー。

 どうしようどうしよう、と思っていたら突然空が陰り、その影はどんどん大きくなる。

 

「今の光は何事だ?!大丈夫か、ウズキ!…なんだお前は」

「キース!」


 わたしに詰め寄るパールから庇うようにして割って入る。着地してすぐに人型になった。

 どこまでもイケメンなキースよ。心強い。

 だけどね、きっとここまでの一連の流れを聞くと、パールの味方になると思うよ。


「えっとね…」


 わけがわからない、という顔のキースとパールふたりに、

 実は…と説明していく。

 するとキースはため息をつき、パールは理解がついてきてないからか、キョトンとしてる。

 美人のキョトン顔、すっごい可愛い!キリッと美人とキョトンの可愛さ。このギャップ。

 表情がくるくる変わる。美人枠でもモテるだろうな、パールは。


「つまりまた契約したのか…しているな」

 

 キースはわたしのステータスを見たんだろう。そしてパールも。

 

「ちょっと!わたしは契約した覚えはないわよ?!」


 パールのお怒り、ごもっともです。すみません。

 わたしも何がトリガーなのか分からないんだよ。


「…やはり名付けだろうな」

「「え??」」


 キースの言葉に、わたしとパールの声がかぶる。


「ウズキが名付け、それを我らがその名を口にする。

 すると、契約とみなされ、人型に変身するのだろう。

 ウズキの契約は、普通のテイマーとは違うからな。我ら魔物が高レベルであるほど会話が成り立ち、また契約もしやすいのかもしれない」

 我の時も、そうだったしな。とキースが付け加えた。


「じゃあ…」

「ごめんなさいっっ!!」


 言いかけたパールに全力で頭を下げる。契約解除ってできるの?パールの意思は??

 わたしの従魔になっていいなんて、パールはひと言も言ってない。

 キースが従魔になってくれたのだって、すごいことなのに。


「ふーん、分かったわ。良いわよ」

「え??」


 今、「良いわよ」って聞こえた。聞きたいという願望からのわたしの空耳?


「わたしも、自分で言うのもなんだけど高レベルよ?

 誇りだってあるし、本来なら人の下につくなんて冗談じゃないわ。

 だけど…人型になるなんて、面白いじゃない?それに会話ができるなんてね。ウズキ、変わってる。

 それにわたしの毛並みの良さを理解できてるし、フェンリルのわたしを怖がらないし」


「ええぇぇ??」


「なに?まさか不服なの?」


 ちょっとプクッとなるパール、可愛い。いやいや、今はそう言う問題じゃなくて。


 「パールってフェンリルなの?」

 

 フェンリルって、あの、どの話でも出てくるフェンリル?!


「なによ今更。この高貴なわたしがフェンリル以外なにに見えるのよ」


 と、髪をなびかせた。とんでもなく様になってる。モデルみたい。

 人型姿も気に入ってくれたのなら、とても嬉しいことだけども、どうだろう?


「わたし、異世界あるあるの鑑定ができないから…わからない事が多くて。

 そっか、パールが噂に聞くフェンリル!」


 言われてみれば、納得。綺麗だし、気高さも感じる。


 「うーー!ありがとう。パール。これからよろしくねーー!!!」


 思わずギュウっと抱きついた。


「なによ、くすぐったいわ」


 と笑ってわたしの頭を撫でてくるパール。突然のことだったのに、それを許してくれてるパールは心も美人さんだな。


 しかし、黒龍に次いでフェンリル…異世界冒険モノの強者の定番に相次いで会ってしまった。(他の魔物は見かけてすらいないというのに)

 それどころか、従魔契約までしてしまった…すでに無敵なんじゃなかろうか、わたしは。


 目の前の人間姿のパールは人型姿も気に入ってくれたみたい。良かった。すごい美女だもんねぇ。

 そして、わたしのステータスを見て「変わってる」と笑ってる。

 わたしのステータス、なんなんだろう。自分じゃ読めないからわからない。

 気にはなる。聞きたいけど聞くのが怖い。


 落ち着いたところで、キースの収穫を確認に移動することになり。

 移動した先には、ドーンと魔物の山がふたつばかりできてた。


 これ全部?!この短時間で倒したんだよね…やっぱり黒龍って凄いな…。


 あとこの量どうするの?こんなに食べるの?生で??今??

 と思っていたら、わたしにもありました。あのラノベで散々読んできた、アイテムボックスが。やっほー!!


 異世界転生をしみじみと浸りつつも、せっせと名前も知らないサイズも色も形もバラバラな魔物たちを入れまくりました。

 「怖っ」とか「気持ち悪っ」とかよぎったけど、あまりの量にもう何も感じない。無ですよ、無。


 この世界で生きて行くためのお金であり、食べ物だもの。ありがたくいただきます。肉は美味しく食べたいです。

  あ、まずいものとかはキースたちが教えてくれてるから、そういうのは売らせていただきます。合掌。


 引っ掴んで入れても(大物はキースに手伝ってもらって)入れても入れてもまだ入る、アイテムボックス。無限に入りそう。


 魔物が全部回収できるだなんて、小説と一緒だわ…と。ラノベって当たってることもあるんだなぁ。って思っていたら


「ウズキのアイテムボックスは時間制限がないぞ。量も関係ないな。ただ他の人間にバレないようにしろ。異世界人だとすぐバレるだろう」


 と、キースが教えてくれた時は、まんまじゃんね、と読んでたラノベの数々がよぎる。

 

「でもわたし、解体できないし生でも食べられないよ。街に行かないと。

 冒険者登録?ギルドはあるよね、きっと。そこで解体も依頼して…あ、お金ないけど街に入れる?

 あ!それに、人間とそもそも言葉も通じない…」


 生きていくには、解決しないといけない問題がたくさんあるじゃん…。


「それなら、ほら」


 キースが差し出したそれ。


「鱗?この綺麗な黒は…もしかして、キースの??」

「そうだ。これを身につけておけ。人間と会話の助けになるはずだ」

「そんな力があるの?!あ…だけど、痛くなかった?鱗、わたしのために取ってくれたんでしょう??」

 

 なんだか申し訳ない。痛くないわけがない。それに綺麗なあのドラゴン姿のキースを思い出すと、胸が痛い。

 しゅんとしているのが全身に出てたんだろう、キースが優しい声で


「構わない。痛みもないし、すぐに戻るから」

 と頭にポンと手を置いた。


「ちょ、わーわー!キース、それは!イケメンこそれは!

 いい?誰にでもやってはダメよっ!女の敵になる、いや男の敵か?!とにかく嬉しい。ありがとう。でも誰にでもやらないって約束してね!」


 こんなことされた経験ないんですよ!クールイケメンのキース。眩しい、眩しすぎるっ!でも大事なことだから伝えなきゃ。


「あ?あぁ。よくわからんが」

「あははっ!」


 照れながら早口で言うわたしに、本当に分かってないキースの返事。

 そんなやりとりを見てパールが爆笑してる。


 ボンっとフェンリルの姿になって、艶々な白銀の毛を少し足で掻き取ったと思ったら、また人型に戻る。


「はいこれ。私の毛も持っているといいわ。これも加護があるはずよ」

「そうなの?パール、痛くなかった?」

「ふふ、痛くないわよ」


 はい、と手渡された。

「ありがとう」

 と目を見て告げると

 「どういたしまして」

 とやっぱり頭にポンってされて、同姓でも照れるほどの笑顔。


「…美人がやるのも同じくらい敵を作りそう…。威力半端ない……」


 うーん、と考え込む私を見て、また笑うパールに一見クールにみせかけて、よーく見ると少し笑ってるキースの姿。


 ひとりぼっちで神様も現れなかったわたしに1日でキースとパールという心強くて優しくて、楽しい仲間ができた。


 案外、神様はいて、わたしを見守ってくれているのかもしれない。と頭の片隅で思うわたしなのだった。

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