第3話 え?もしかして、これがわたしのスキルなの??

 「おい」

 ……

 「おい、起きろ。朝だぞ!」

 「うー、あとちょっとー寝させてよ、キース…」

 「キース?」


 パァァァァ!!とその瞬間に辺り一面が眩しくなった。

 「え?なにごと!?!?」

 ガバっと飛び起きるけど、眩しすぎて目が開かない。しばらくして光は小さくなっていった。


 「なにあれ?キース!…え?あれ?キースはどこ?」

 キョロキョロ見回す。

 けれどいない。むしろ自分の目の前にいるのは…

 「…えと…どちら様ですか?」

 言葉が通じるかどうか。この世界の人間ならまた、怒鳴られ追いかけられるのかしら。


 「キースとはなんだ?」

 あ、言葉通じた。

 「なんだ、と聞いている」

 「え?もしかして昨日のドラゴンさん、なの?

 えと、キースっていうのはね。わたしが呼びやすいように付けたの。黒が綺麗だったから、宝石のオニキスでキース。センスいいでしょ?」

 今度はわたしが、ドヤッとなってたみたいで。そんなわたしを見て、はぁ、とため息をつかれてしまう。

 更に頭に手を充てている。


 「なぜ我が人間の姿になっておるのだ」

 「え?キースの能力じゃないの?」

 「そんなものはないし、聞いたこともない」

 「そうなの?ドラゴンには戻れないの??」

 「む。やってみよう」


 キースが目を閉じてしばらく。ボンッと昨日から見慣れたドラゴン姿。

 ドラゴン姿もかっこいいキース。だが、人間になってもかっこいい。この世界の常識は分からないけど、絶対イケメン枠なはず。


 ん?キースがずっと見てる。なんだ?寝癖?なに?言ってよ。


 「お前」

 「うん、なに?寝癖?寝言?うるさかったとか??」

 「名付けたな。わたしも承諾したようだ。契約が結ばれた。普通ならそれだけだが…」

 「え?それってテイマー?わたしの職業、でいいのかな?テイマーなの?」

 「最後まで聞け!普通のテイマーとは違う。

 第一に我は問われていないまま契約している。だが自由がある。

 第二に…むしろこちらの方が稀有けうだが、人間に変身できるようだ」

 

 もう一度目を閉じ、ボンッと人間になるキース。

 うん、やっぱりイケメン。イケメンドラゴンだったのね。黒髪が艶やかで、洋服も黒がベースになっている。

 

 そして若い…。成人男性くらい?わたしより年下に見えるだろうな。

 ドラゴン年齢では年上だろうけどさ。ハハハハ…。


 「ねぇ、わたしと契約したってことは一緒にいてくれるの?キース嫌じゃない?ドラゴンって強いよね、やっぱり。

 王者みたいなものじゃないの?

 そりゃわたしは、キース居てくれたら嬉しいし心強いし、寂しくないし…」

 「トリイウズキ…お前、やはり人間と違うとは感じていたが、異世界の者だったのか」

 「わっ、名前呼ばれた!…て、名乗ってたっけ?でも嬉しいな〜」

 「契約すれば名も分かる。ステータスも見ることが可能だ」

 「え?今なんて??」

 「名もわかる」

 「そのあと!」

 「ステータスも見ることが可能だ」

 「それー!!」

 思わず大声が。キースが何事か、と顔をしかめてる。

 「わたし、この世界の言葉がわからないの。ステータスも見られない。キース、わたしのステータス見られるんだよね?教えてくれない?」


 キースがわたしと居てくれるかどうかの話が思いっきり逸れていることは理解してるけど、どっちにしても必要なのは自分を知ること!ごめん、こっち優先させて!

 苦情は現れない神様に!!


 「ふむ…レベルは低い。人間とは弱い者だが…魔物とよく遭遇しなかったな。即死だぞ」

 マジか…やっばりね。そりゃね。会わないで良かった、幸運に感謝っ!


 「ん?お前に与えられている能力は変わっているな。お前、魔物と遭遇しても余程でない限り死なんぞ。

 テイマーとしての資質が高い。幸運の数値も高いしな。

 なにより『言語能力』だ。我々と話せる。これはかなり珍しい。初めて見たぞ。

 しかも、高レベルの魔物ほど会話が成り立ちやすい。我々も高い知能を持っているのは、やはり高レベル且つ、強者ならではの能力だからな」

 「そうなんだ…幸運が高くて、強い魔物さんとは話せる…それ、喜んでいいのかまだ分かんないけど…。

 うーん、人間と会話できないと困る。冒険者は確定路線っぽいし、街に行かなきゃ!テイマーとして生きていくためにも!!

 そうだよ!その能力のおかげで、キースと会えたし寂しさや怖さが紛れたのは事実だもの。

 あ!今更だけど、キースいいの?わたしと契約ってことはイメージ的に一緒にいるってことだよね?それでもいいの??」


 グルグルする頭。声に出したらいろんな感情が出てくる。

 大切なこと。聞かないと。

 目を閉じたあと、ドラゴン姿に戻ったキース。大きい。物理的なサイズだけでなく、威厳もある。

 まっすぐキースの目を見る。キースもわたしを見てる。不思議。怖くない。むしろキースの黒い瞳が綺麗で、わたしの心深くまで見られてるみたいな感覚に陥る。


 「構わない」

 「え?」

 真っ直ぐ見つめられた後、短く告げられた言葉。

 「構わない。お前と一緒にいよう。面白いことが起こりそうだ。ステータスからも、お前のその弱いのか強いのか分からないところも。全て含めてな、気に入った」

 「…っ。ありがとうーーーー!!!」

 「おいっ!」

 ドラゴン姿のキースにガバッと抱きつく。涙もでてる。

 嬉し涙なんていつぶりなのか思い出せない。それをまさか、異世界で。ドラゴンにもらえるなんて。ありがとう、ありがとう!

 キースに抱きついて泣くわたしに、ブツクサ言いつつ許してくれるキースの優しさにまた泣ける。

 けれどこれだけは言わなきゃ!

 「グスッ。ありがとう、キース。それでね、わたしは『お前』じゃないよ。『ウズキ』だよ。名前で呼んでほしいな」

 涙でベショベショな顔だと思う。それでもキースを見つめ告げる。

 「ウズキ。いい加減泣き止め。腹が減ったから、狩りに行くぞ。乗れっ」

 「うわぁ」

 昨夜のように、キースの背中に乗る。飛び立つキースの背から見る景色が違って見えるのは夜と朝の違いだけじゃない。


 この世界にきて初めて1人じゃないって思えたから。きっと問題はいっぱいある。

 わたし自身はまだ言語能力もなさそうだし、人とコミュニケーションが取れるのか不安もある。

 ギュッと抱きついた手に力が入ると、「どうした?」と声が聞こえた。

 なんて心強いんだろう。ドラゴン姿のキースはとんでもなく大きい。きっと人間からは恐れられ、倒すべき対象なんだろう(と、思う。なんかドラゴンってボス級な印象だし)

 わたしも。キースといたいから、守るよ。弱くても。キースといたら、無敵な気がする。自然と笑みが溢れる。わたし、この世界で生きてやる!!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る