第2話 出会いと不思議と

 とぼとぼと歩く。

行き先はないけど、起きた時の森に向かっているみたい。知っている場所もないからかしら。

 …魔物がいないといいけれど。多分いるとしても、会いたくない。そんなチートをくれていると信じていいですよね?神様っ!


 「それにしても神様は、前世でも異世界でも意地悪だよ…」

 ちくしょう、と、持ち歩いていた棒をブンブンと振り回してしまう39歳。


 途方に暮れる39歳。


 「もー!せめて水場に戻ろうかな…」と歩みを進める。今日、眠れるところあるかな。

 この世界のことは知らないけど、魔物って出るのが『異世界あるある』だよね。

 いやでも、今のところ会わないでいられたから。

 魔物と遭遇しない能力があると信じてみよう。


 だって。神様の前に魔物に会うのは、勘弁願いたいじゃない?


 「うわぁ!!!」

 木がガサガサ鳴った!!辺りが一気に暗くなる。

 なに?!魔物か!やっぱりか!!!わたしにチート能力はなかったのか?

 怖くても見てしまうのが人間のサガらしい。

 ビビりながらも見上げた先には…


 「え…?マジか……」


 黒いうろこに黒い翼の龍。ドラゴン。

 どんな風に見ても、言い方を変えてみても、あれはドラゴン。暗くなった原因を作ったのは、でっかいドラゴン。

 わたしは一飲みだな…。


 「あぁ、神様。わたしはここで終わりです。でも、少しだけでも異世界を堪能できて。

 1人だけど喋って、立って、走って。幸せでした。

 だけど少しだけ恨むのは仕方ないと思って、許してくださいね」


 半泣き状態。覚えてないけど一度死んだ身。寝たきりの時には出来なかったこと。

 やりたいことができたし。短い異世界ライフ。良かったね、わたし。


 …と、おや?ドラゴン来ないな。ここのドラゴンさんは優しいの?人襲わないの??


 恐る恐る観察。と、なんだか驚いている?ドラゴンが?


 「あのー」

 「なぜだ?」

 「え?」

 「なぜ我の言葉が分かるのだ。お前は人間だろう」

 「え?えぇ…一応人間ですね。

 会話…していますね。だけどなぜかは分かりません…」


 いやー!怖いよぅ。勇気が半端ない。

 けれど……待てよ?この世界で会話できたの、このドラゴンさんが初めてだよね?!


 「わー!!!うれしー!!」

 「な、なんだ突然!うるさいぞ人間」

 「わたし、異世界から来たの。きっと。

 それでここの世界の人間とは言語が違ってるみたいで話せないの。

 普通はね、神様とか出てきて、言語も少しでも生活できるお金やスキルの説明や、そもそも年齢とか外見も変えてくれるんだよ!

 多分だけど。それがテンプレなのに!現れなくってね!!

 やっと話せて嬉しいのー!!」

 嬉しすぎて、まくし立てる。今はドラゴンさんの方が少し戸惑ってるみたいに見えるのは、都合よく見過ぎだろうか?


 「おい、泣くな!わめくな!ゆっくり話せ!」


 なんだか、いいドラゴンさんみたい。怖さは吹き飛んでる。むしろ貴重な話し相手として、いっぱい伝えた(愚痴込みで)

 時折、質問されたけど、分からないことが多すぎて。むしろ教えてもらうことのほうが多かった。


 この世界【ヒトゥリード】


 ドラゴンさんがいるくらいだから、やっぱり剣と冒険、魔物がいる『ザ・異世界!』だった。

 ドラゴンさんも本来(といっていいのか)は、人を襲うらしい。

 「食料で」って言われた時はドン引きしたけれど。人間も魔物を退治して食糧にしているらしいので、生きていくには自然のことなのかもね。


 わたしのことは、話せる貴重…というかレア?な人間と認定してくれたみたいで、食べないでいてくれると約束してくれた。

 主にわたしが喋り倒してたら、いつの間にか暗くなってる。ここにきて疲れがドカッと。


 「やば!寝床ねどこ!襲われないような寝床ー!」

 「なんだ。眠いのか。なら我の翼に特別に入れてやる」


 シレっと、それでいてどこかドヤっと。

 そんなドラゴンさんの優しさに、クスッとしてしまいながら、ドラゴンさんの背に跨り安全な場所に移動の後に眠ることに。


 なぜだろう、初対面なのになんでこんなに信頼できるのかな?

 自分ってこんなに単純だったのかな?

 薄着のワンピース(厳密にはパジャマ)だったから大きな翼に包まれて暖かい。


 嬉しいな…。


 「ありがとう、ドラゴンさん。

 あなた、まるでオニキスみたいな綺麗な黒ね。鱗も艶やかで、それに本当に暖かい…」


 わたしが読んでいたラノベたちの『異世界あるある』からは大きく外れた今日1日。

 神様は現れなかったけど、ドラゴンと会ってこんな風に一日を終えるなんて。なんだか不思議。

 でも、嫌じゃない。このドラゴンさんは、とっても優しいドラゴンさんだよ。


 「オニキスか。ドラゴンさんじゃ言いにくいしな。じゃあキースかなぁ…ふぁぁ」と、ひとりごちる。


 神様がどんな人かはわからないけど、今のわたしにはキースの方がよほど救いの神で、とっても安心できる相手だ。


 これが始まりなのも、悪くないのかもしれないね。

 そのままキースの温もりに包まれて爆睡した異世界初日。

 「おやすみ、キース…」

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