■コンビニ _喪失11/12/10:25■

 ゴンさんが休憩室から出ていくと入れ替わりにトクさんが戻ってきた、白の半袖Tシャツ姿をしていてさっき呼びに来た時に着ていた制服を脱いだようだ


 身長190cmという巨体のシルエットは逆三角形で、半袖から伸びる丸太の様な腕はボディビルダーのようにムダ毛処理されていてヒゲもしっかり処理されてる。

 身長と筋肉だけでも威圧感があるのに、髪型はアッシュグレーのアメリカンオールバックでイケメンという、どちらかというと近づきにくい人だ。

 

 男から見てもイケメンという事が特にヤバイし、彼女の話を聞いたことが無かったのも不思議だった。ゴンさん同様3年の付き合いになるが、いつ見てもヤバイマッチョだ。


「雨森!これ!」

「え、これ何ですか?」 


 太いのに手入れされた綺麗な腕が突き出される、指先にA4のコピー用紙。手首に何かがどっさり入ったパンパンのビニール袋をぶら下げている。スイカくらいのサイズ感だ。


「早く受け取れ、これから必要なものだ」


 コピー用紙をまずは受け取りヤタに手渡した。そしてビニール袋。


「ぇ、おっも!?」


 スッと差し出してくるような重さじゃないよこれ!?


「店長から簡単に話は聞いてる、緊急事態だから話は飛ばすぞ。それでヤタ様『この子を頼みます』」

「え、何ですかそのチョイス。というか、緊急事態?」

「うん、分かった」


 何かを快諾かいだくするヤタの反応に俺は驚き、現状を理解していないのは俺だけなのかと不安になり視線をヤタに移そうとした瞬間。視界を遮るように何か大きな物がうつっ―!?!?


「あ…」 


 何だ!?何が起きた!?

 頭が固定されている?身動きがとれないぞ。

 瞼が押さえられて目も開けられない。


 叫ぼうとした瞬間、唇に何か柔らかい感触を感じる。


「ナイナイ…」


 不安そうなヤタの声が聞こえる。


 そして柔らかな感触に交じる、あと少しチクチクした感触…。


 チクチク?


 う、おぇ!?


 予想される内容が拒否反応を引き起こす、とにかく必死にもがくとやっと拘束から開放された。


「ちょ、何するんですか!」


 やはり犯人はトクさんだった。

 まるで何事もなかったかの様な顔をしている。何を平気な顔をしているんだ!?


「緊急事態だ、文句を言うな」

「文句くらいでますよ!痛いじゃないですか!?」

「あぁ、そっちか。視線を感じたくなくてな、とりあえず目を覆わせてもらった」

「いや!そうじゃなくて!え、そ、その、し、したんですか!?」


 あまりの出来事に唇を押さえながら訴える、声は焦りからか裏声になっていた。


「『祝福のキス』をしたんだよ、一度だけランダムで経験値が入るスキルだ」

「トクさんと俺がキス!?」


 思わず俺は叫んでいた。


「何だ?もしかして初めてだったのか?」

「な、そ、そ、そ、そ、んなこと、あるわけなかろうもん」


「「「 ……… 」」」


「そ、そうか、悪い事をしたな…」

「ナイナイ…」

「ま、まぁなんだ。軽い方のキスなんてカウントに入らないって!」

「そう…ですかね…」

「私ならいれる…」


 俺とトクさんは青い顔をヤタに向ける。

 ヤタは冷静な顔でトドメをさしにきたような暗殺者の顔をしていた。


「グッ…ま、まぁとにかく!『祝福のキス』の効果を確認しておけ!」

「ぐすん…」

「言い方…」


 ヤタがトクさんにチクチク言っている。さすが店長を圧倒しているだけある。


「悪いが説明したりのんびりしてる暇は無い。いいか、今は本当に一刻を争うんだ。とにかく雨森は逃げる事だけ考えろ」

「…逃げる?」

「今は考えるより動け。あと、店内の物で必要な物は好きにもってけ。じゃあな!」


『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』

『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』

『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』

 

 あまりに強烈な出来事だったから騒音が分からなくなっていたが、さっきまでとは比べ物にならない音になっていた。

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