■アパート_自室/??/??/04:01■

 頭が混乱している。


 現状を把握するために俺はまず腕時計を確認しようとして気付いた。


 ダウンコートを着ている…。


「あ、れ?」


 ま、まあいい。

 とりあえず時間の確認だ。


 【4時1分】


 袖口を捲り視線を落とし時間を確認すると問題が見つかった。


 靴を履いている…。


 俺は無言で靴を脱ぎ、玄関に置きに行く。

 寝室に戻る最中にダウンコートを脱ぎハンガーにかけ、ポケットから携帯を取り出した。


 【11/12/04:04】


 日にちは変わってない。


 あのバッタは何だった?

 俺は白日夢を見ていたのか?


 携帯があるという事は少なくともコンビニに取りに行った事は事実だ。眠すぎて知らず帰宅し、少女がいるベッドに潜りこんで意識を失った?コンビニから帰ってきた時間を考えると特に不自然ではないのだが…。


 とにかく落ち着こう、俺は自室のゲーミングチェアに座ると膝に手を置いた。黒のジーパンからひんやりとした冷気を感じる。


 まだ冷たい…だと?俺は目覚めたらベッドで寝ていたんだぞ?それで冷たい?


 俺はグレーのパーカーのポケットに暖を求めて両手を突っ込んだ。


「…!?」


 右ポケットで硬く冷たい何かが指先に触れた。


「…どうしたの?」

 

 先ほどから放置されていた少女は俺の挙動を不信に思ったのか声をかけてきた。


「え、いや、何かがポケットに入ってて。財布…かな」


 財布など入れた覚えは無いが、俺は落ち着くために少女に答えながらポケットの中を改めて確認する。


 L字っぽい黒い何かがある。質感からも財布でない事は確かだ。


 俺は少女に気取られないようにおそるおそるそれを取り出す。


「…え、なんで」


 俺は『ゴトリ』という硬い音を響かせてそれをコタツの上に置いた。


 銃だ。

 

「ベレッタM1919、可愛い趣味だね。ジェームズ・ボンドが好きなの?」


 途端に饒舌じょうぜつになる少女。


「え、可愛いのこれ?」


 突っ込むべき所はそこじゃない気がするが、頭が追い付かない状態の俺はバカな事を聞く。


「M1915を.25口径にしてポケットサイズの護身用に小型化したものだけど、そのぶん威力が非常に弱い銃だから。犬で言うとチワワかな」

「チワワ…」


 舌を出してシッポをフリフリし、つぶらな瞳で舌を出している犬の姿が目に浮かぶ…。


 いやいやいやいや!?


 この日本でその会話は無いんじゃない!?

 アメリカとかならワンチャンあるかもしれない話だけど?犬だけに?


 いや、違う、銃だよ‼‼


 俺は両手で頬を『バチンッ⁉』と音がなる様に叩く。


「痛い…」

「夢じゃないよ」


 少女は俺は思っている事を先読みするかの様に言葉にし、再び饒舌に語りだす。


「さっきは、その…ごちそう様、あたたかくて美味しかった」


 少女は語りながらワンピースの裾を押さえコタツに入り、電源を入れた。


「え?」

「うどん」

「あ、ああ」


 うどんね。

 だめだ、頭の混乱が未だに解けない。


「どこから話したら良いか分からないけど、私はこの状況を説明できるよ」 


 説明…できる?どういうことだ?

 俺はポカンと間抜け面を晒しながら少女を見つめる。


「たぶん、あなたは私と深く関わり過ぎてしまったから…。

 世界の変貌を理解できないんだと思うから。何でも聞いて欲しい」


 俺はやはり夢を見ているのではないか?

 それならまず、心のモヤモヤを晴らしてしまおう。


「名前と年齢と性別と彼氏彼女、配偶者の有無を教えて下さい‼」


 『バキーンッ‼』そんな少女の時が固まる音が聞こえた気がした。

 

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