■アパート_自室/11/12/04:15■
「名前と年齢と性別と彼氏彼女、配偶者の有無を教えて下さい‼」
俺の問いに少女はしばらく固まり、視線を逸らしてカタコトで答えはじめた。
「名前はャタァㇿ。
ャタァㇿ・ガァルァティㇲ。
他の事には答えタクナイ…カナ」
姓名を教えてもらえたようだけど、さっぱり発音できそうに無い。
それにしてもどうやら俺は相当怪しまれたようだ…。いやそうですよね…。
「何でも聞いて欲しいというのは…」
「個人情報は含マレナイ…カナ」
「い、いや、違うんだ。警察に届けるとかに必要な情報だと思って」
「彼氏彼女、配偶者も?」
「そ、それは言葉を間違えたというか、家出とかなら頼る所があればそっちに連絡も可能かなとか?住所を聞けばよかった気もしますね…ハハ」
「ふぅん?」
怪訝な表情で腕組みをする少女、目をつむり頬を膨らませたり口を尖らせたりしている。いや、あなた…そんなに表情豊かなんですか?
血色の良くなった少女からは最初に出会った頃の凍えて弱りきった姿を想像できない程だ。
「ま、とにかく話しをすすめよっか」
「それでは」
「プライベートは教えませんヨ」
一気に顔が警戒モードになる。俺のモヤモヤは解決しなさそうだ。
「では、その、ええと。yatARo…。すみません、うまく発音できなくって。
弥太郎と呼んでも良いですか?あだ名みたいな感じで」
「ん…まぁあだ名なら良い…カナ」
どこか嬉しそうな表情を見せる弥太郎。
見惚れそうになっていた自分に気が付き、キツく言い聞かせる。
弥太郎はオトコ!!男だ!!男なんだ!!!
便座が上がっていただろう!?絶対に男だ!!
もはや暗示と思えるくらいに俺は言い聞かせた。
「それとですね、この会話を録音しても良いですか?なんだか現実感が無くって」
俺は携帯のボイスレコーダーを作動させてコタツに置いた。
「用心深いね、いいよ」
弥太郎は感心したように笑う。
「ありがとうございます。それと、あの…迷子?とか成人かだけでも…保証みたいなの発言も頂けませんか?」
「……迷子でもないし、成人もしているよ…tabunn」
「ありがとうございます」
何かゴニョゴニョっと聞こえたが、弥太郎の名前がしっかり聞き取れない類のなにかだろう。俺はひとまず、目の前の不安を無理やり押さえつける事に成功した。
しかしこれは仮初でしかない。
そもそも『私と深く関わり過ぎてしまったから、世界の変貌を理解できない』という弥太郎?の言葉がどうにもおかしいのだ。
まさに厨二病みたいな話というか、電波ちゃんというか…妄想癖とか?
いや普通に考えてですよ?
信じられない状態を信用ならない相手に説明されるってのが全く説得力が無いといいますか…。
でも、今はワラにもすがりたい気持ちが良くわかる程、追い込まれてるから。
頭の中がいっぱいだった疑問をひとまず吐き出してしまう事にした。
「それでは弥太郎…ちゃん?俺が気になる事をいくつか話すから、とりあえず全部聞いてから答えて欲しいんだ」
「分かった。ただ、その、ちゃんづけは…むずがゆい、ヤタでお願い。私はなんて呼べば良い?」
頬を染めながら話すヤタ…ヤタ…弥太郎のあだ名だ。
「了解、ヤタ。俺の名前は
「…変わった名前だね」
「よく言われます」
「それじゃあ…ナイナイ…カナ」
「初めてのあだ名ですけど、それでお願いします。それで気になる事なんだけど―――」
俺はヤタがつけてくれたのあだ名の事など特に気に留める事なくヤタに悩みをぶつける様に今までの疑問や不安、違和感を話し始めた。
理解できない事が多すぎる。
ヤタの正体。
コンビニでの出来事。
バッタ怪人。
なぜベッドで靴を履いて寝ていたのか。
本当に、理解できない事で頭がパンクする寸前だった。
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