第2話「奇想天外なおっぱい」


 

 おっぱいを揉ませてあげる代わりに、私を居候させてほしい。

 つまり、俺が島崎さんを家に止めろってことか!?


 そんなあからさまな、こっちにしかメリットがない話にこの俺がまんまと騙されるわけがない。


 と言うよりも、騙されちゃダメだ!

 絶対、騙されては



 —————そう、俺が我慢できるわけなかった。


男という生き物は単純なのである。


「え、ほんとですか?」

「えぇ、ほんとよ? 私の胸、巷ではマシュマロみたいらしいわよ?」

「な、なぬ⁉ マシュマロだ……とっ⁉」


 い、いや待て! 

 踏みとどまれ釜石陸斗!

 こんなの絶対に何かの罠に違いない!


 こんな、可愛い女の子が、それも関係値なんて1ミリもない美少女転校生が俺に虫のいい話をしてくれるわけがない!




「——っだめ、かしら?」


 背の高さはほぼ一緒。

 そんな彼女が一歩俺に近づいた。


 まっすぐこっちを見つめてくるスカイブルーの瞳と目が合い、胸がキュッと引き締まった。


 そんな引き締まった胸に彼女は追い打ちをかけるようにもう一歩身を寄せて、胸と胸がくっついた。


 ふにゅっ、もふっ。


 胸と胸。

 俺の約17年間の人生で味わったことがない感覚が上半身を襲っていた。


 なんて言ったって近い。近すぎる。鼻息が口に当たってる。くすぐったい。


 っき、気持ちいのが屈辱的だ。

 くそぉ、なんなんだこの仕打ち。


 訳が分からない!


 普段から植物ムーブかまして誰にも声掛けられないように努力してたのにどうしてこんな綺麗な人に目を付けられてるんだ!


「ねぇ、駄目?」


 目が——甘い。

 声が——甘い。

 

 くらくらしてくる。

 駄目だ。ここで了承してしまえば何か悪いことに巻き込まれてしまうんじゃないかって――そんな気がする。


 でも、それでも――俺はっ————おっぱいは死ぬ前に一度揉んでみたい!


 あまりコミュ力がないから、別になりたいものなんてないし、一人で生きるのが楽しいとさえ思っていたが——譲れない。


 おっぱいだけは揉んで死にたい!

 これで何か危ういことに巻き込まれてしまったとしても、たとえ何か裏があったとしても、おっぱいがもめるならそれでいい。


 そんなことを心の中でつらつらと連ねている悪魔一色。


 頭の中はお花畑になってしまった。


「ほ、ほんと、なんですよね?」

「えぇ、させて居候くれたら」

「じゃ、じゃあ——よろしくお願いしますっ」





 πππ



 その後はとんとん拍子で俺は島崎さんと家に向かった。

 いつもはイヤホンで音楽を聴きながら帰る道のり、心おきなく落ち着いて歩けたはずの道のりも今回ばかりはそうとはいかなかった。


 横を歩く島崎さんの胸が上下に揺れている。

 そして、それを隣でチラチラっとチラ見してしまう俺。


 いや、だってさ、あそこまであからさまに揺れたら見ちゃうもん見ちゃうでしょ。

 てか、見てない方が男じゃない!

 なんかこう、好奇心で見ちゃうし!


「どうかしたかしら?」


 俺のほうを向いて優しそうな笑顔を向けてくる彼女。

 いやぁ、ほんとよく俺はこんな人に壁ドンされて倒れなかったものだ。こんな可愛くも純粋で美しい眼差しで見つめられたら今朝教室みたいになってもおかしくはない。

 世の中、ミルハラだとかいう人も増えてきたけど、うん。これは見ざる負えないって。


「い、いや、なんでもないです」


 ちょっとおっぱいが気になって……なんて個と言えるわけがない。そんなこと言ってしまったら孤高の陰キャから変態の陰キャにジョブチェンジしてしまうからな。俺よ、俺を留めてくれ。


 高校から大体数キロ。

 歩いてからかれこれ数十分の位置にあるボロアパート。階段を登って一番端の部屋のカギを開けて彼女を中に入れる。


 ちなみに、俺は田舎を飛び出して一人暮らしをしている。そのため、こんな感じで女の子を入れることができるのだが今回だけは後で怒られるのが嫌だったので両親に連絡を入れることにした。

 しかし、両親は簡単に許してくれた。もちろん、そのまま送ったわけじゃない。おっぱいを揉みたいからだなんて言えるわけがない。


  だからこそ、嘘込みで彼女が家に泊まるという旨を伝えた。でも、両親の反応はなんて言ったって簡素。というか、どちらかと言えば歓迎していた。


 「女の子を泊まらせるだなんて大きくなったんだね」だとか「羽目を外しちゃだめだからね?」だなんて言われる始末。


 挙句の果てには「結婚までしちゃってもいいのよ?」と言ってきて目が飛び出るかと思った。なんなんだそのご都合主義展開はと思わず神を揶揄してやりたくなるし。


 でも、当の本人は本当にスンとしていて、立ち振る舞いに美しさすら感じた。


「あの、そこら辺に腰かけてください」

 久々に話をする女子を家に上げていつも以上に緊張していた俺は台所でお茶を淹れて島崎さんに手渡しをする。


「ありがとう。おかまいなく」

「は、はいっ」


 なんだよ、その笑顔。惚れちゃうからやめてくれよ。

 すると彼女はマグカップを口付けて喉にごくごくと飲み込んだ。プルッとした艶やかな唇を目で追いかけてしまいそうになり、下を向いていると彼女は呟いた。


「おっぱい、揉みたい?」

「……も、も、もみたい、です」


 断ろうと一瞬考えたがその強大な胸を見て嘘を付けられるわけがない。

 

「それじゃあ、ほらっ」


 正直に告げると今度は色っぽい笑みを浮かべて俺の両手首を掴んだ。


「あっ」


 やばい、このままでは本当に揉んでしまう。触ってしまう。

 頭の中での葛藤。良いのか俺。そんな声がしたがこのときにはもう手遅れだった。悪魔と天使の戦いで悪魔が大勝利を飾っている。もはや抵抗できない。


 グイグイと引っ張られる手。

 触っちゃう。揉んじゃう。

 いいの、触っても、いいんだな、触っても!


 そして、残り数センチのところで俺の手は動きを止めた。


「えっ」

「まだ、駄目」

「で、でもっ、居候させるならいいって」

「ごめんね、私が言葉足らずだったかも」


 そう聞いて少し胸が引き締まった。

 もしかして、既成事実で詐欺でもされたかとビビったが表情を見る限りそうではなかった。


「――もう一つ、条件があるの」

「な、なんですか!」


 止まらない。口は止まらなかった。


「約束、守ってくれるの?」

「は、はい! 絶対に守ります!」

「それじゃあ――私を国家機関から守って匿ってほしいの」

「……はい?」


 予想の斜め上。

 想定外な返答に今度は口の動きが止まった。


「あ、あの――国家機関?」

「うん。私はね、実は――宇宙人なんだ。遥か彼方の人工星『ファイナリーゼ』から逃げたきた宇宙人、なんだよね?」


 おかしな話には裏がある。

 おっぱいの裏には闇がある。

 どうやら、彼女――島崎カエデさんは奇天烈な少女だったらしい。


 こんなの聞いてねええええええええええええええええええええええええええ!!!!!





 

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