第11話


 蛯原が通報して救急車と警察が来た。

 ガイシャは、足場の下敷きになっていて、既に死んでいるのは明々白々だったが、警察と消防で引きずり出して死亡を確認した。

 救急搬送は行われず、警察が現場検証を始めた。

 事件の可能性もあったので、刑事課に連絡が行った。

 刑事課の小林達也巡査部長、加藤凡平巡査部長、佐伯明子巡査が臨場した。

「こりゃひでーな」遺体を見下ろして小林が言った。

「スマホもめちゃくちゃ」と加藤。

 右のズボンのポケットから飛び出しているスマホはバリバリにヒビが入っていた。

「上着のポケットから何かの破片が飛び出しているな、なんだ」と小林。

 加藤が片膝をついて摘まみだしてみる。

「DVDですね。「ロボコップ」。割れているんで見られませんね…、ん?なんか名刺みたいなのが挟まっている。なんだ、これ。風俗の割引券ですね。ニューハーフリブレ高田馬場」

 小林、加藤が遺体を見ている間、佐伯巡査は事情聴取を行っていた。

「絶対に近づくなって言っていたのに」と福山。

「小川さんがそう言っていたんですか?」と佐伯明子巡査。

「でも、ここで下敷きになって死にたいって言っていたんだ」

「え、そんな事言っていたのか」と主任管理員蛯原が顔を突っ込んできた。

 その背後から石松が覗いている。

「あなたはいいから、ちょっとこちらの方に話を伺いたいから」

 言うと、佐伯明子巡査は福山の袖を握って、規制線のところに突っ立っている制服警官の向こうまで引っ張って行くとそこで聞いた。

「どっちなの?。下敷きになりたいと言っていたの?。それとも、近づくなって」

「近づくな、でも自分はガレキの下敷きになって死にたい、ロボコップみたいに」

「映画の「ロボコップ」?」

「そう」

「何時そう言っていたの」

「昨日かな」

「それから」

「うーん ホルモンをやりたいと言っていた」

「ホルモン? 焼肉のこと」

「そうじゃなくて、ニューハーフのやるホルモンだよ」

「あの人、ニューハーフだったの?」

「そうじゃないけど、そういうのが好きだったんだよ。こういうのだよ」

 福山はスマホを出すと、シーメールの画像を表示した。

「Ellahollywood(エラハリウッド)っていうんだよ。顔はエマワトソンだけれどもちんぽが生えていて。これがニューハーフの中では一番いいらしい」

 小林と加藤もこっちにくるとスマホを覗いた。

「それで、自分もそうなりたいからホルモンを?」

「そうじゃないけど、ホルモンをやれば、石松さんや西武と戦わなくて済むからって」

「石松さん?」

「あそこにいるコンシェルジュだよ」福山は規制線の向こうで野次馬をやっている石松を指さした。

「西武というのは」

「今度ここの警備会社が西武系に変わるんだけれども、俺らもそっちに雇われる予定なんだよ。だけれども小川は西武を嫌っていたんだ」

「何で?」

「分からない。石松を嫌っていたのは無視するからだって。アップルウォッチで録音までしていたよ。シカトの動かぬ証拠だと言って」

「ふーん。それが昨日の事ね? 昨日はそれで退勤したの?」

「あ、電話がかかってきた」

「なんて」

「金を貸してくれって。ニューハーフヘルスに行くから。好きなニューハーフがドタキャンされて急に会える事になったって」

「それでお金を貸したの」

「うん」

「いくら?」

「paypayで2万。それで夕べ風俗に行って”ところてん”でトランスしたって」

「”ところてん”?」

「”ところてん”というのは勃起しなくても精子が出てくる技らしくて、それでトランスして、「ロボコップ」のシーンをインストールされたって」

「どういうシーン?

「ああやって、ガレキの下敷きになるシーン」福山は倒壊した足場を指さして言った。

「ふーん。それで」

「それだけだよ。俺の知っているのは」

「分かった、ありがとう」


 証人を返してしまうと刑事3人になった。

「ロボコップが鉄骨の下敷きになるシーンを風俗でインストールされて、それを自分でやったって?」と小林が言った。

「後催眠といって、催眠が解けた後にも催眠の効果が残っているのがあるんです」と佐伯明子巡査。

「それじゃあ、これは自殺じゃなくて、風俗嬢が催眠をかけたって事か」

「分かりません」

「臨床心理士、佐伯明子巡査の出番だな」

 佐伯明子は、私立大の心理学科院卒で、臨床心理士の資格を取得していた。

「どうするんですか?」明子巡査が聞いた

「ガイシャのヤサに行ってみよう。免許証から住所が分かったよ。西川口だ」と小林。

「ニューハーフ風俗の方は?」と加藤。

「西川口の後だな。令状なしで任意の事情聴取だな」

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