第6話


 高田馬場にあるニューハーフ風俗、リブレ高田馬場は、賃貸マンションの一室を事務所兼店舗にしていた。

 マンションの玄関を開けると受け付けのカウンターがあって、その向こう側にリビングがあって、突き当りの引き戸を開けると、トラニー達の詰め所の和室になっていた。

 和室の外にベランダがあって、トラニーのアリスは、加熱式たばこを吸いながらスマホで喋っていた。

「そもそもこっちはちんぽを切って女になりたいんだから、元々は女でしょう? それをトラニーチェイサーというのは、ちんぽのついている状態を求めてくるんだから」

「うん」

「もう、歪んだ性欲をこっちに向けてくる段階でムカついているのに、それに加えて、遊びでホルモンやってみたい、なんて言っているのよぉ」

「えー」

「ノンケの癖にホルモンやろうなんて輩は許せないわよ。こっちはホルモンですごい苦労しているのに」

「私だって、タチのトラニーチェイサーに散々やられて、どうしても性転換手術でお金が必要だったから我慢していたけれども、アナルローズにされちゃって人工肛門になっちゃったんだから、あいつらは憎いわよ。だから、そいつを突きまくって、アナルローズにしてやればいいんだ」

「その前に、足場の下敷きになって死ねばいい、とか思っているのよね」

「えぇ、なにぃ?」

「そいつは警備員なんだけれども、現場に足場があって、崩れそうだって言うのよ。その下敷きに出来ないかなぁと思って」

「そんなの無理でしょ」

「でも、そいつは自殺願望があって、「ロボコップ」でも「ターミネーター2」でも「タイタニック」でもみんな死ぬから、死にたいのが普通でしょう、とか言っていて。プレイでも、「太陽にほえろ!」とかの殉職シーンを使っていたんだけれども、今は「ロボコップ」のDVDを貸していて、それをプレイに使っているのね。そうしたらさっきショートメールが来て、鉄骨の下敷きになるシーンみたいに足場の下敷きになって死にたい、とか書いてきたんだから」

「だったら、メスイキの状態とか、”ところてん”とかだったら、トランス状態で無意識の扉が開けっ放しだから、そこに、ロボコップが、鉄骨の下敷きになるシーンを埋め込んでやればいいのよ。そうすれば自分から下敷きになりに行くかも知れない」

「そんな事出来るの?」

「だって自殺願望があるんでしょう?」

「そうだけれども」

「特攻隊だって、そうやって背中を押されて死んだんじゃないの?」

「じゃあ、どうやってご指名ご来店してもらうかが問題ね。だって、まだこの前来てから1週間もたっていないもの。あいつはパートの警備員で給料も安いから、そう何回も来られないのよ」

「そこを来させるのよ」

「どうやって?」

「ドタキャンが入ったから今日なら遊べます、これを逃すと1ケ月は無理、旅行も行くし当分無理、とか言って」

「ふーん」

「なかなか手に入らないものほど欲しくなるものなのよ。売り切れ寸前のところで、1個だけ在庫がありました、とかいうと欲しくなるでしょう? ハードトゥゲット。簡単な恋愛心理学よ」

「じゃあ、ショートメール打ってみるか」

「やってみな」


>今日、まぐれに近い、キャンセルが出ました。

>それ以外は1週間先まで埋まっているし、

>その後は、タイに下見を兼ねた旅行に行くので、なかなか会えないよ。

>もしかしたらそのままタイで性転換しちゃうかも。

>そうしたらもうやってあげられなくなるし。

>どうする?

>今日来れない?

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