ゲーム世界の悪役に転生した俺、悪役ムーブしかしていないのに何故か人々に感謝され成り上がってしまう

にこん

第1話 悪役の俺、早速罪を重ねようとする

つまらない授業を聞き流す。

教壇に立つ魔法学園の教師から発される言葉の数々。


全て既知の内容だった。


(つまらん。こんなもの聞いていても時間の無駄だ)


心の中で呟いた俺は立ち上がった教室を出ていくことにする。

俺は転生者。


物心ついた頃にはそれを理解していた。


ファンタジー世界を舞台にしたゲームの悪役に転生したことも直ぐに理解した。

その悪役の名前はカイン。


ウザったらしい台詞や態度で主人公をおちょくりまくって、ゲーム序盤で主人公にボコボコにされて、主人公に踏み台にされるキャラさ。


ぶっちゃけカインのそんな扱いに俺は納得していなかった。


(ふふふ、本物の悪役になってやる。カインみたいな中途半端なやつじゃなくて。目指すは大悪党。くくく、ははは)


そのために努力した。

小さな頃から。


爪が剥がれた事もあった。

腕が折れたこともあった。


指なんてあらぬ方向を向いたこともあった。

しかし俺は努力した。


勉強だって勿論した。

そのため、この魔法学園で学ぶ程度のことは全て理解していた。


成績はトップを独走しており、教師にも一目おかれる人間。

それがカインという人間だった。


俺は教室を出て屋上へ向かう。

屋上から下を見下ろすと実技の練習をしている生徒たちが目に入る。


全て焼き殺したらどうなるんだろう?みたいな気持ちが過ぎるがやめておく。

俺は別に殺しがしたい訳では無い。


ただ退屈な日常に何か刺激が舞い込んでこないか、とか思う。

しかし、そんなこと訪れるわけもないんだが。


「カイン。またサボってるのか」


その時主人公様に声をかけられた。

このゲームの主役であり顔の人間。


フィオネ。


それが目の前の女の名前だった。


ブロンドの髪を伸ばした女。

原作のゲームに出てくる主人公様、だ。


「聞いたぞ。カイン」


そう言ってツカツカと俺に近寄ってくるフィオネ。


「また授業を途中で抜け出した、と」

「お前もだろうが」

「私はいいんだ。特待生だ。そもそも授業を受けに来なくてもいいのだからな」


この世界には冒険者と呼ばれる職業がある。

その職業に就いた人間は国のため人のため、まぁ何かのためにモンスターを狩る職業につく、という訳だが。


そしてこいつはそんな冒険者でもある。

しかも冒険者としてのランクはかなり高い。


だから学園の授業を受けずに狩りに行くことやギルドからの依頼を受けることだって許される。


そんな立場の人間。

一言で表せば人間の鑑だ。


凄く心が綺麗で、真面目で、誰にでも優しくできる美しい人間。


でも俺はこいつが嫌いだ。

だから皮肉気味に答えてやる。


「で、その特待生様はそんな貴重な時間を使ってこのような不良をお叱りに来たわけで?」

「ち、違う。私はお前のことを不良などと言ったことは1度たりともないし、思ったこともない」


こいつはこういう奴だ。

平気で授業を抜け出す奴に対してもこんな事を言う。


「その言動がイラつくんだよ」

「え?」

「イライラするんだよお前。俺に近寄るなよ。俺の嫌いな言葉知ってるか?

トップ3。上から順に当ててみな」

「知ってるわけないだろ?」

「説教、説教、説教だ」

「一つしかないじゃないか」


真面目に答えるなよ。

それだけ嫌いだということを強調しただけだろうが。


これだから堅物は困るんだよ。

もっと頭を柔らかくしろ。


「ちなみに嫌いな人間トップ3は分かるか?」

「知るわけないじゃないか」

「フィオネ、フィオネ、フィオネだ。だからお前はとっとと失せろ。俺の視界に入るな。雑魚が。馬鹿野郎」

「何故私が失せねばならんのだ?お前の嫌いな人間は私以外のフィオネだろう?」


もしかして自分以外のフィオネのことだと思ってるのか?こいつは。

自分が嫌われてるはずがないとでも思っているのだろうか?


はぁ、ほんと毒気を抜かれるわ、こいつには。


「分かったよ。俺が帰ればいいんだな」

「帰るのはダメだ。ちゃんと授業を受けるべきだ。お前は一応特待生ではないのだから」


そう言ってずいっと近寄って俺の顔を覗き込んできて注意してくるフィオネ。

その時に俺の体に、フィオネの胸が当たった。


(スケベな体しやがってこいつ。誘ってんのかよ?胸当ててきやがって)


このまま犯しちまおうか?

別にいいよな?


ここ俺ら以外いないし、そもそも俺は悪役だ。

悪役なんだから罪の一つや二つ称号ってもんよ。


そう思った俺はフィオネを押し倒した。


「え?」

「いいから黙って俺に身を預けろよ」

「ど、どういうことだ?や、やめてくれ、カイン」

「いいから抵抗するなよ。俺に従えよ。悪いようにはしねぇからよ」


暴れようとするフィオネを押さえつける。

胸に手を当てたその時だった。


俺の頭のすぐ上をファイアボールが通り過ぎていった。


「あづっ!あつぅい!」


髪の毛燃えてないよな?!

この年で地肌見えるなんてイヤだぜ?!と思って手を当てると


(おいおい、燃えてんだけど……ツルツルなんですけど?)


悪役のくせに悪いことしようとする俺への天罰かよ?神様。

そんなことを思ってから目の前のフィオネに目を戻すと


「か、カイン……お前……」

(あれ、怒ってる?)

「ファイアボールが来るのが見えていて、私を助けてくれたのだな?そうなんだな?」

(は?)


俺が呆気に取られていると俺の下から抜け出して立ち上がるフィオネ。

そうしてから俺の後頭部を見るために回り込んできた。


「す、すまない。私が抵抗したせいで髪の毛が燃えてしまったな。ここがハゲてしまっている!」


ハゲって言うなよぉぉぉぉぉぉぉ?!!!!!!

だいったいお前が抵抗するからだろうが!!!


お前が抵抗しなかったらハゲてねぇんだよ!!


「ちっ」


舌打ち一つする。

あーほんとイライラさせられるわ、こいつには。


「帰る」

「カイン、待ってくれ」

「話しかけんな」

「そ、それはどういう意味だ?」

「文字通りだよ」

「すまない。反省しろということだな」


1人で納得しているフィオネを置いて俺は何とかハゲを隠して家に帰ることにした。


やってらんねぇよ。

残りの授業も全部サボりだ。

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