【リハビリ】 二年間ログインせず放置していたVRMMO、久々に復帰したらなぜか最強ギルドのマスターかつ『姫』になっていた件① 賞金2億円のイベント【プロローグ】
私こと
というのも、今日の昼のことである。
先輩の竹川ゆき子とランチの最中に、ある話題を投げかけられたことが発端だった。
「ねえ、ゆりちゃん。RoEってゲーム、知ってる?」
「あー、ええと、名前くらいなら……」
最先端技術を駆使し、ついに人類が夢見たフルダイブ型VRMMOを実現したゲームタイトルだ。
人間や精霊、魔物などが住む世界で、冒険やバトル、生活まで網羅されたアクションRPGといった具合は、今までのMMOとさほど変わらなかった。
けれど、店頭デモで体感したビジュアルと「入る」感じは圧倒的で、そこには新しい現実が広がっていた。
就活前の大学三回生というタイミングにもかかわらず、高価な専用の機器「
の、だが。
「ただ、あのゲームはいろいろ問題があったような記憶が……」
そう。
ゲームは本当に素晴らしかったのだ。
だが、運営がとにかく酷かった。
春にサービス開始したのだが、ところどころにバグがあり、その結果、緊急メンテを度々繰り返し、少し落ち着いてきたのが秋。
ただ、鳴り物入りで開催されたイベントでさらに大量のバグを出すと、その勢いは止まらず、年末まで一週間の半分はメンテという状況になった。
そして、最悪の事件が起きた。
――ユーザーデータ、ロストだ。
今までのユーザーデータが文字通り吹っ飛び、初期化されたプレイヤーが多数発生したのだ。
「へえ、ゆりちゃん意外と詳しいじゃない」
「あれだけ騒がれたら、さすがに覚えてますって」
「もしかして、実はやってるとか?」
「あー興味はありましたけど……どうでしょう」
データこそ無事だったものの、あの事件がきっかけで、私はRoEから遠ざかってしまった。
だから、『元』プレイヤーと言ってしまえばよかった気もするのだけど、全くログインしていないとはいえ、会社の人にやっていたゲームがバレると色々と恥ずかしいし、そういうのがきっかけでプライベートに踏み込まれるのが怖い。
そう思った私は、ごまかすことにした。
「それでね、そのRoEでこの前、大会があったんだって」
「大会……、お料理選手権ですか?」
「ナニソレ。確かにあっちでは生活関係も充実しているけれど……」
思わず口走ってから、ちょっとだけ後悔した。
お料理選手権は初期の頃、開催されたミニイベントだ。
指定されたテーマの料理を作るのだが、そのお題を運営が選ぶと面白くないというクレームが上がり、なぜか公式ライブ配信による、ランダム機械抽選となった。
その結果「魚の頭がいくつも飛び出している刺激的な臭みがある紫色のスープ」とか「緑色で謎の粘液が滴っている豚料理」とか、とんでもない課題を乱発し、例のごとく大炎上したのだった。
初日開始勢でもないとこのイベントを知らないわけだけど、目の前の先輩お姉さまがそうである可能性は否定できない。
「『精霊乱舞』っていう大会なんだけどね」
「へー……どんなものですか?」
「お、興味出てきた?」
「ちょっとだけ、ですけど」
私がやっていた頃にはなかったコンテンツだった。
どうやら、ギルド同士で戦うgvgといわれるもので、トーナメント式に行われるのだそうだ。
「で、凄いのはここから。このイベントは賞金が出るんだけど」
「賞金って、100万エリコインとかですか?」
「あら、ゲームの通貨を知ってるんだ。でも、この賞金はリアルのお金、つまり円で支払われるのよ」
「え……?」
「e-sportsみたいなものになっているからね。で、その優勝ギルドの総賞金額は、2億」
へ。
「におく?」
「うん、より正確には一人当たり1000万で、ギルマスとサブマスにそれぞれプラス2000万が与えられるのよ」
「えええええ、ちょっと私やってきていいですか?!」
あまりの金額に目がくらんだ。
私がプレイしていない間に、そんなすごいコンテンツが誕生しているとは。
「もうイベントは終わったけどね」
「そうですか……、残念。でも、よくよく考えたら始めてすぐにトップを競えるほど甘くないですよね」
「そうね。たとえ一人だけ強くなったとしても、戦略を立てて、個々が連携し、それぞれの役割を柔軟にこなす力が求められるし。――あと、正直ギルド運、みたいなものはあるから。1ギルド16人という枠が決まっているし、そういうギルドに恵まれることなんて、なかなかないからね」
「ですよねー……」
「でも、優勝したところ、実は物凄くてね」
「? なにが、ですか?」
「ギルマスが、長期不在なの」
「え、なのに優勝したんですか?」
「ええ。実質15人で優勝した、ということになるわ。だからこそ、凄いのよ」
「ギルマスはどれくらいログインしていないんですか?」
「700日以上。二年くらいかしら」
その言葉を聞いて、変な胸騒ぎがした。
「あのおー……もしご存じでしたら、そのギルドのお名前とか教えて頂いても」
「勿論いいわよ。ええと……『月夜に踊る猫さん団』ね」
私は目の前が暗くなるような気がした。
月夜に踊る猫さん団、それは、所属していたギルドの名前だったからだ。
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