【リハビリ】王宮を追放された元第二王女ですがニーソを売って生活しています、たまに王国も救います(仮題)【プロローグ】

 ポポミララ王国。


 マレンスタ大陸の北東に位置するその国は、冬の知らせを告げるモミジドリの鳴き声が夕闇に紛れる頃になると、急激に冷え込んでくる。


 足元から立ち上ってくるその寒さはとても厳しいもので、女性はおろか、男性も足回りの保温は必須だ。


 そして、そんな時期に一人の少女が広場に立って、かごの商品を道行く人々に売ろうと、声をかけている。



「ニーソ、ニーソは要りませんかー……」



 ニーソとは、近年『異世界の商人』から輸入された、機能的な足元保温用の靴下くつしただ。


 国内でも膝下ひざしたまでのものは存在していたが、異世界の商品は太もも近くまで長さがあり、繊細せんさいなつくりで、高価なものは裏に起毛が施されている。


 そんなわけで、こういった少女が街頭で販売することが増えてきた。


 しかし、彼女のように路上販売をする者、すなわち信用力が低い身分は、売るために店頭販売にはないサービスが必要だった。



「お嬢ちゃん、ニーソを一つくれ」

「はい、ありがとうございます!」



 少女に近づいてきたのは、無精ぶしょうひげを伸ばした中年の男だ。


 だが、彼は太ももが丸太のように太く、しかもすでに防寒タイツをいており、少女のサイズのニーソは明らかに必要のない客であった。


 が、しかし、彼女の品を求める。


 少女も勝手知ったるというべきか、視線に対し小さくうなずくと、いそいそと自らが履いている黒のサイハイニーソを脱ぎ出す。


 凍てつく寒さのこともあり、ほかほかの湯気が立ち上るそれを軽く折りたたむと、その中年男に手渡す。


 気を良くしたのか中年男は下卑げびた笑いを上げながら、銀貨五枚――これは一般的なニーソの五倍の金額である――、と渡し、それを鼻に当てながら去っていく。


 このように、本来の目的とは異なる売買も行われている。


 それにも関わらず、少女は嫌な顔をせず、むしろやや満足そうである。



「よし、売れた……!」



 そう、生計を立てることが大前提。


 もしそれが叶わなかったら、それこそもっとをしなくてはならない。


 それは、彼女の元の肩書きからして、決して許されるものではなかった。


 だからこそ、たとえ自身の脱ぎたてニーソをぐ変態野郎に売れたとしても、それはアリなのである。



 と、この生活に身をやつした当初に比べ随分と考えが丸くなった、”元ポポミララ王国第二王女”のアメリアであった。


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