みなかた・ふらぐめんと

南方 華

夏、白い日傘の下で

 この場所に立つのは、何度目だろうか。


 いつかの頃は、日がな一日立ち尽くしていたこともあるし、私にとっては、どうしようもなく運命的な場所になったのは間違いない。


 横断歩道が青になったのを確認して、歩き始める。


 そして、渡った先のすぐ横にあるお地蔵さんの前に、白い花とおもちゃ、そしてお菓子を置き、手を合わせる。


 ちょうどここは、先にある公園の木々のかげで、先ほどから照り付ける強い日差しはなく、じっとりと汗ばんだ身体が肌着はだぎに張り付くのをより強く感じてしまう。



 ――あの日も、こんな暑い日だったのだろうか。



 いくら思いせようとも、その時のことがはっきりとは思い出せない。


 頭にモヤがかかったような感じだ。自分がその当事者だとは思えないように、あっという間に過ぎ去っていった。


 全ては、もう終わったことで、終わったその現実はこうしたおりに突きつけられる。



 長い間、もくとうしていたが、不意に子どもの声が聞こえ、来た道を振り返る。


 と、三人いる中の一人に、その子はいた。


 よく似ていた。


 私たちの子どもに、そして、あの男の子どもに。


 私は、彼女らが通り過ぎるのを見送ると、持っていた白い日傘を差す。


 中年男性の、しかも喪服もふくを着た私には、なんと不釣ふつり合いなものなのだろう。


 そのアンバランスさに苦笑いしつつ、私は公園の中へ足をみ入れる。


 ただの気まぐれで、暑さにやられて、少しベンチで休憩きゅうけいしたかった、というのは、間違いない感情だろう。


 だが、あの子を少し見ていたいという、感情の尖端せんたんに引きずられていくような、得も知れぬ情動に突き動かされたのも、おそらくは間違いない。



 ベンチに座った私は、別に何をするわけでもない、白い日傘の下で、子ども達や、母子が元気そうに遊ぶ姿を目を細めてながめていた。


 それは、私の失った光景そのものだった。

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