『ツン』と『デレ』が変動する幼馴染の取り扱い

月之影心

『ツン』と『デレ』が変動する幼馴染の取り扱い

 例えば、突然すぐ隣に居る幼馴染の海未うみの頭を僕が撫でたらどうなるか。


 登下校中だったり学校の中だったりすると……


「ひゃっ!?り、陸玖りくっ!?ちょっ!?な、何してんのよ!止めて!」


 ……と、僕の手を払い除けながらマジトーンで拒否ってくる。

 照れ隠しなのだろうとそのまま撫で続けようとすると真剣な顔で怒り出すので、いつもここで素直に止める。


 これが家の中だったり、休日顔見知りの居ない所へ遊びに出掛けている時なんかだと……


「ちょっ……や、止めてよ……もぉっ……」


 ……と、口では拒みながらもされるがままになる。

 ここで海未の『止めて』を真に受けて撫でるのを止めると……


「ぁ……」


 ……と、切なげな顔になって僕の顔を見詰める。

 だから、また頭の上に手を乗せて撫でてやる。

 すると、海未は頬をほんのり紅く染めながら俯いて……


「な、撫でるなとは……言ってないでしょ……」


 ……と、ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの声で文句を言いながら、決してその手を払い除けようとはしない。

 そのまま撫で続けると、海未の顔はどんどん紅くなっていきつつ、次第に『ふみゃー』だの『うにゅー』だの、甘ったるい声が出始める。


 要するに、海未は『外ではツン100/二人きりではツン10~90デレ90~10』の何とも言えない可愛らしい幼馴染なのである。







 例えば、学校で僕が海未以外の女子と話をしているところを海未が見たらどうなるか。


 校内ではクールな佇まいで我関せずといった雰囲気だが、学校が終わって帰ろうとする頃には必ず人目に付かない場所で僕が出て来るのを待っている。


「さっき話してた子……誰?」


「さっき……あぁ、クラスの子だよ。」


「何の話してたの?」


「今度の体育祭の話だよ。」


「ふぅん……」


 明らかに不機嫌になっているのは分かる。

 しかし、それを指摘すればさらに機嫌を損ねるのは火を見るよりも明らかなわけで、ここは何も言わずに海未の反応を待つ。

 と言ってもいつもと同じく、僕に聞こえるようにわざとらしく溜息を吐くだけ。

 それが海未の『何か言ったらどうなの?』のサインだ。


「嫌な思いさせちゃったか……ごめんな。」


 学校での役割り上必要な会話なわけで、後ろめたい事など全く無いのだけれど、ここは海未の機嫌を損ねてしまった事を謝る。


「べ、別に謝ることなんか……無い……」


「でも面白くは無かったんだろ?」


「そ、それは……」


 心理を追求するのはここまで。


「海未はそんな嫌な思いしながらも僕の帰りを待っててくれたんだよな。だからごめんな。」


「ん……」


 そう言いつつ、歩きながら腕と腕が当たるくらいに寄って来たら『もう言わない』と言っている証拠だ。

 手と手が触れると海未は周りをキョロキョロと見回し、顔見知りが居ない事を確認してから僕の手を握ってくる。

 そして、その手を何も言わずに握り返すのがテンプレになってる。







 例えば、僕の部屋で僕の斜め前に座っている海未の目をじっと見詰め続けたらどうなるか。


 最初は視線を感じてチラチラとこちらを見返しているが、その内勝手に頬を紅くして文句を言いたげな顔になっていく。


「な、何見てんのよ?」


 ここですぐに見ている理由を言うと、文句を言われて終わる。

 だから僕は海未の目をじっと見詰めたまま、海未が目を逸らすまで目線を外さない。


「な、何よ……もぉっ……」


 海未が目を逸らしたら僕の勝ち。

 僕は海未の方に体を寄せ、肩に腕を回して抱き寄せる。


「ひゃぅっ!?な、何?」


 海未は目を真ん丸にして僕の方に顔を向ける。

 驚いて慌てているようだが、決して突き放そうとする素振りも無ければ、抱いた肩にも体を強張らせた様子は感じられない。

 僕はそのまま海未の目をじっと見詰め続ける。


「も、もぉ……きゅ、急に……どうしたの?」


 場が持たないとばかりに感情を変えて冗談で終わらせようとしてきたら、頬に手を添えて逸らした目をこちらに向けてやる。

 そして泳ぐ海未の目に向かって言うんだ。


「海未、好きだ。」


「!?」


 この時の、一気に顔を真っ赤にして頭のてっぺんから『ぼふっ』っと煙でも上がりそうになっている海未を見るのが何よりも楽しい。


「なっ……何をいきなりい、いいい言ってんのよっ!?」


「好きだから好きって言ったんだよ。」


「だっだから!そそそそういう事を軽々しく……」


「言葉にしないと伝わらない事もあるから。」


 慌てふためく海未は本当に可愛い。

 ここで『ふふっ』と笑って終わらせてしまうと楽しみもそれで終わってしまう。

 だから追い打ち。


「海未は?」


「へっ!?」


「海未は僕の事をどう思ってるの?」


「ど、どうって……そ、そんなの言わなくても分かる……でしょ……」


 勿論、分かってる。

 でも、この場面で必要なのは『海未の言葉』。


「言ってくれなきゃ分からないよ。」


「!」


 明らかに僕の意地悪なのだけど、今の海未はそんな判断が出来る状態じゃない。

 紅く染まった顔は落ち着く事無く、肩に回した腕へも海未の上がった体温が伝わってきている。


「なっ何言ってんのっ!?い、言うわけないでしょっ!」


「そっか……」


 僕は諦めたような顔で海未から顔を逸らす。

 がっくりと項垂れ、小さく溜息を吐くおまけ付き。

 勿論、演技。


「あ、あの……えっと……」


 頭の中の台本通り、海未は狼狽え始める。

 僕に肩を抱かれたまま、こちらの顔を覗き込もうとしたり、部屋の中をぐるりと見回したり。


「ごめん……無理に言わせる事じゃないよね……」


「あ……」


 少し寂しそうな声で謝ると、海未は更に狼狽えて涙目にすらなる。


「ちっ違うのっ!そ、その……」


「うん?」


「い、いくら二人きりでも……その……急には……は、恥ずかしい……から……」


 ここは言い訳をする海未から目を離しちゃいけない。

 真っ直ぐに僕の目を見ている海未をじっと見詰め続けるんだ。


「わ、私も……陸玖のこと……す、好きだから……」


 偶にこうやって少し意地悪めかせながらお互いの気持ちを声に出し、愛情を注ぎ込むのも大事なイベントなんだ。







 例えば、並んで歩いている時に突然手を繋ごうとしたらどうなるか。


 無論、周りに見知った顔が居ない事が条件である。

 二人きりで居る時の海未は『ツン』が10~90で変動している。

 『ツン』が10や20くらいの時はほぼ『デレ』が出ているのであまり気を遣う必要も無いのだが、50を超えた辺りの場合は細心の注意が必要だ。


「手、繋ごうよ。」


「ば、馬鹿な事言ってんじゃないわよ。誰かに見られたらどうすんのよ?」


「別に僕は構わないけど。」


「私が嫌なのよ。」


 まぁこれは失敗のパターン。

 まずは歩きながら手の甲と甲が時々触れるくらいで。

 触れるたびに海未は手を自分側へ寄せるのだが、歩いている内にまた体の横に来るので同じ事を繰り返す。


「ちょ、ちょっと……近くない?」


 二人の距離が近くなって手が当たる事を強く意識し始めた時がGOサイン。


「近付けてるんだよ。」


「え……」


「手を繋いでくれないか?」


「ぁ……」


 そう。

 『ツン』が強めに出ている時の海未は人の提案を素直に聞こうとはしない。

 だから、お願いする形で僕がしたい事を伝える。


「し、仕方ないわね……陸玖がどうしてもって言うなら……」


 そう言ってから海未は手を差し出してくる。

 その白く細い手を優しく握ると分かる……海未の体温が急上昇している事が。

 顔は僕に見られないように反対側を向くが、『みどりの黒髪』という形容がぴったりの真っ黒ストレートの髪の間から見える首筋や耳は真っ赤になっている。


 どこまでも可愛らしい。







 『だから何だ?』という話ではあるが、これが僕の可愛い幼馴染の生態。

 もし、貴方の幼馴染が『ツン』と『デレ』を状況によって変動させてくるような子であるなら、僕が海未にしているような事を試しては如何だろうか?

 『デレ』が『ツン』を上回った時、きっと幼馴染の可愛らしい部分が見えて来るんじゃないかと思うよ。

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