解離

スケルトン男爵

1日目

 どうやら人が死んだらしい。僕は急いで部屋


を出て先生のもとへ行った。先生は有名な探偵


で僕はその助手をしている。人が死んだという


現場に向かうと、この旅館に泊まっているほと


んどの人が野次馬となり自分の意見を口に出


し、まさにカオスそのものであった。死んだの


はこの旅館に二日前から滞在していたYという若


い女性だった。Yには主な外傷はなく死因は何か


持病があり、それが悪化したのだろうと考え


た。

 

 死んでいたYを最初に見つけたのは、この旅館


の女将さんだったらしい。女将さんに話を聞く


ために僕と先生は受付へと向かった。そこにい


た女将さんは長年の経験から身につけたであろ


う、心を落ち着かせるためのコーヒーを片手に


持っていた。女将さんとの距離が人二人分くら


いになってからコーヒーの匂いが明確に感じら


れた。その匂いからは、コーヒーなど作り慣れ


たであろう女将さんが作ったものとは思えない


ほどの雑味(ここでは不安とでもいうべきも


の)が混濁していた。女将さんがこちらに気づ


きコーヒーを机上に置いた。女将さんは平生を


装うため手を下ろしたが、下ろされた手を見て


みると親指は他の指の内側に隠れていた。僕と


先生はそんな女将さんに僕たちの職業を明かし


詳しく話を聞くことにした。始めは女将さんも


戸惑いを見せていたが少しずつ死体を見つけた


時のことについて説明をしてくれた。まず朝食


の時間を過ぎてもYが部屋から出てこなかったこ


とを女将さんが不審に思い部屋まで行ったとい


う。部屋の前に立ちドアをノックしたが返事は


なく中に人がいるか心配になるくらいドアの向


こうに静寂を感じ、その部屋のマスターキーを


取りに一度受付まで行った。そして部屋に戻


り、手に持っていたマスターキーでドアの鍵を


開け中に入ると、Yがベッド付近で仰向けで倒れ


ていた。というのが女将さんの証言だ。女将さ


んの証言からは一切怪しいものは感じられなか


った。僕と先生は一応この旅館にいるすべての


人からアリバイを聞き早急な事件解決を目指し


たが事件の解決に繋がりそうなものはなかっ


た。そうこれは殺人事件なのである。僕と先生


はそれに気づき旅館にいるすべての人のアリバ


イを集めたが徒労に終わった。ちなみに僕は殺


人が起きたと思われる時間帯はまだ寝ていた。


殺人だと気づいたのにはもちろん理由があっ


た。Yの周りから金目のものがなくなっていた


のだ。それだけで殺人事件だと判断していいの


かと言われると違うかもしれないが、僕にはこ


れが殺人事件だという根拠のない自信があっ


た。だが次の日にはその自信は確信に変わって


いた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

解離 スケルトン男爵 @hsccw

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ