マリア
俺は薄暗くなった住宅街をライトの光を頼りに落し物を探した。
「よりによってお札を落とすなんて・・・」
フゥッとため息が思わず漏れた。
ため息は暗闇でライトに照らされ白く光った。
まだ12月なのに今晩は凍えそうな寒さだ。
俺のライトを持つ手がかじかんできた。
ライトの金属ボディーがまるで氷を掴んでいるみたいに感じる。
俺は落とし物を探すのを諦めようか迷ってしまった。
「だいぶ寒くなって来たな。もともと何処かで使おうと思ったモノだ。もし見つからなくても少し予定が変わっただけで大した影響はないハズだ。」
探すのを諦めて帰ろうとしたところで声をかけられビクッとなった。
「ねぇお兄さん。もしかしてこの1万円札を落として探してるの? 」
道路に面する公園から急に女の娘が現れ、その娘は俺を観察するかの様に眺めた。
歳は俺と同じ高校生くらいに見えるが薄汚れたスウェットを着て髪もボサボサの娘だ。
一瞬どう対応したものか俺は悩んだ。
だか、わざわざ一万円札を拾った事を自白するなんて悪い娘ではなさそうだ。
「確かに俺は一万円札を落として探していたが・・・ 黙っていれば分からないのにどうして? 」
彼女は『何でそんな事を聞くのか分からい』とでも云う様にきりだした。
「いや普通の事でしょ? コレ落として困ってると思ったから・・・」
彼女の身なりを見ればそんな事を言ってる場合ではなさそうだが・・・
「コレがあれば暖かいモノ食べて風呂入ってフカフカのベッドで眠る事が出来るんだぞ? 」
彼女がお金に困っているのは一目で分かるのでつい言ってしまった。
「他人のモノを盗んでまで欲しくありません。」
彼女がキッパリ言いきる姿に俺は驚いた。
俺の指先やつま先は冷たくてジンジンしているのに・・・
そしてなんだか聞かずには居られなかった。
「こんなに寒いのに? 今晩泊まれる場所があるの? 」
「泊まる場所? この公園でテント張って寝るよ。寝袋もあるし・・・」
まるで『心配いらない』とでも云う様に彼女は「エヘヘ〜」と笑った。
ドキッとして俺は彼女のその姿をその笑顔をずっと見ていたくなってしまった。
そして気つけば彼女の笑顔をずっと見られる方法なんか考えてた。
頭の片隅に『俺の下僕にしてしまおうか?』なんて考えが浮かび上がる。
「そのお金は俺より君の方が必要じゃないか! 是非君に使って欲しい。」
俺は悪魔なのに何を言ってるんだろうか?
「私、何もして無いのに貰えないですよ。」
彼女は不審そうな目で俺を見た。
「それじゃ一万円を君にあげる替わりに対価を貰う事にするよ。」
「えっ、対価って? 『カラダで払え』って事ですか? 」
「ハハハそんな事言わないよ。君の髪を5〜6本くれないか? 」
彼女は今度は不思議そうな目で俺を見た。
「髪の毛ですか・・・? 何に使うのですか? 」
「あぁ、編んで靴紐にしようと思っている。丁度、靴紐が切れそうになっていたんだ。」
髪の毛とかは呪術とかでも使われるモノだ。
俺は彼女の何かを持つ事で関係性を持ちたかったのだ。
「別にそれだったら・・・ でもそんな物で本当にいいの? 」
「昔、『髪は女の命』とか婆ちゃんが言ってた。大切に使うから頼むよ。」
俺の想いが伝わっのか彼女は少し考える様な仕草をした後、髪を両手でたくしあげた。
彼女の長い髪は右に左に振子の様に揺れた。
恥じらいながら髪を触る彼女の仕草が可愛かった。
そして長い髪を手でとかし毛先を摘んで引っ張る。
「イタッ! ホントに『髪は女の命』だね。」
痛がっておでこにシワを寄せる彼女が面白くて笑いそうになるのを必死に抑えた。
抜いた長い髪の毛を俺に渡すと、彼女は持っていた一万円札を小さく折り畳みだした。
そしてバッグに付けてある御守りを手に取り、折り畳んだ一万円札を中に入れた。
「ふふふっ、私の御守りにするね。そして、どうしょうもなくなったら中から出して使わしてもらうよ。それまでなんとか頑張ってみる。」
「分かった。それじゃ今日は帰るね。明日また会おう」
結局俺は落とし物が見つかったのに持ち帰る事も無く来た道を帰って行った。
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