武のこれから

俺達は工場を出ると家までの道のりでこれからの事をいろいろ話した。

「武様はこれからの事についてどの様にお考えですか? 」


「これからか・・・? 俺はこれからを創ろうと思っている。お金と宗教は共通する部分があると思わないか? よく解らないモノに価値を見出している事とか? 俺は円に代わるお金として、新たなお金を創ろうと思っている。そうだなそのお金をemy(エミー)とでも呼ぶか?」


「なるほど、良いお考えですね。私も是非お手伝いさせていただきたいです。」


「その教団の中で労働の対価としてクーポンみたいな形でエミーを配るんだ。エミーは働いた時間によって差別なく均等に配られる。」


「面白いと思います。でも、今この国では円が当たり前の様に流通しています。果たして私達のエミーは受け入れられるんでしょうか? 」


「お金って何によって支えられてると思う?」


ミカエルは首を傾げた後、分からないとでもいうかの様に首を横に振る。

「何でしょうか? 」


「信用だ。信用の無いお金は紙クズになる。」


「紙クズですか? 」


「そう、人の顔が描いてある紙クズだ。あの輪転機で円を刷ってバラ撒いてやれば円は価値のない紙クズになるだろう。そして円の価値が下がった時、俺達のエミーが十分に流通していれば円に代わる通貨となる事が出来る筈だ。」


「いよいよこれまでの苦労が報われる時ですね。頑張って成功させましょう。」

ミカエルは俺の顔をジッと見て幸せそうな笑みをこぼした。


「でも、お金って不思議ですよね~? 世界に沢山流通しているのにその時々で価値が変わってしまう。お金って何でしょうね? 」


「お金はトレンドの象徴だよ。人気がある人の所には黙ってても集まってくる。逆に一般人は右から左に流れていくだけ。お金はトレンドという世界を流れる水みたいなモノだと思う。そして人気のある人の所に集まって泉、湖、大海の様に溜まって行く。これがまた、雨と成って一般人に降り注ぎ循環して行く世界さ。」


ミカエルは興味深そうに俺の話しを聴いて頷いている。

「私達もそのトレンドの頂点にたちましょうね! 」


「あぁ、俺は悪魔だからな。やってやるよ。」


俺の実家の前までやって来るとミカエルは俺と別れるのが寂しいかの様に微笑んだ。

「それでは今日はこれで失礼します。明日からも宜しくお願い致します。」


律儀な執事に俺は敬意をはらわなばなるまい。

「あぁ、こちらこそよろしくお願いします。今日はお疲れ様。」


彼女はかるく会釈して去って行った。

俺は玄関の鍵を開けようとポケットにてを入れた時、重大な事に気づいた。

無い。

お札が一万円札が無い。

何処かで落としたと思い俺はライトで下を照らしながら来た道を戻って行った。

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