第3話「世間知らずでヘタレな魔王様」

「ラードそのくらいにしておきなさい?

 魔王様のHPはゼロですよ?」


これまでのあらすじを声に出して読み上げていたオレを諌めたのは、内政を担当しているリッキーさん。


粗筋なんで敬称は省略してある。


ふと部屋の隅に目をむけると、背中を丸め小さくなっている魔王様が視界に入った。


魔王様の背中が小刻みに震えているので、泣いているのかもしれない。


リッキー様は銀色の髪に青い瞳の美青年で、魔王軍一の切れ者だ。


ちなみにオレの名前はラード。魔王様の側近で魔界一の情報屋を自負している。


だから魔王様とカトリーナ様の出会いから新婚初夜についても詳しく知っている。


リッキー様ほどではないが、赤い髪と瞳の美男子だ。


「だってリッキーさん、カトリーナ様は魔王様の恩人っすよ?!

 いくらカトリーナ様が魔王様の初恋の人でも、

 己の正体も明かさずにさらってきて、

 魔界に連れてきた当日に理由も言わず花嫁衣装を着せて、

 強制的に結婚式を挙げるとか正気の沙汰じゃないっす!

 いくら好きでも物事には順序があるっす!

 それなのに初夜に『俺はお前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!」って言うとか最低っすよ!」


「それはほら、魔王様にも何か深いお考えがあるのだろう。

 そうですよね、魔王様?」


リッキー様が魔王様に尋ねた。


「にっ……いて、あった」


王様が消え入りそうなほど小さな声で囁いた。


「はっ? 何ですか聞こえませんよ魔王様?」


言いたいことがあるならはっきり言って欲しい。


「小説に、書いてあったのだ……。

 婚約破棄の後、颯爽と現れた王や王子にヒロインは惚れると……」


魔王様がぼそぼそと呟いた。


魔王様がカトリーナ様を迎えに人間界に行ったとき、魔王様の背後には空を埋め尽くすほどの魔王の軍隊がいた。


なのでそのときカトリーナ様が「素敵な王子様が颯爽と現れて私を助けてくれたわ。うっとり(ハートマーク)」と思ってくれたのかは微妙なところっす。


むしろあの光景は人間にとっては地獄絵図だったのでは?


国王は玉座でおもらし、王太子とベティは涙と鼻水をべしゃべしゃと垂らしながらその場に尻もちをついて失禁してたっす。


できるならカトリーナ様をいじめていたカス共の頭を、ドラゴンにパックンとさせたかった。


ドラゴンはグルメだからゴミは食べないか。奴らを食べさせるならオークの方が適任だったかもしれないっすね。


「小説にはこうも書いてあった……。

 新婚初夜には、

『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』

 と言えって……。

 そう言葉にして相手に伝えることで、相手の記憶に夫の印象が強く残る。

 その後なんやかんやあって妻が夫の魅力に気づいて、なんやかんやあって最終的にうまくいくと……」


どこでそんな偏った知識仕入れたんですかね? うちの魔王様は。


その「なんやかんや」の部分が一番大事なのに、具体的にどうするか全然わかってないし。






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