第2話「おとぎ話のようなハッピーエンドには……ならない」

カトリーナが絶体絶命のピンチに陥ったその時――!


強風が吹き荒れ雷鳴と共に黒衣を纏った黒髪の美青年が現れ、彼女を救ったのでした。


稲妻と共に現れた青年は、

「我が名はレオナード!

 魔界の王だ!

 王太子マテルよ、そなたがカトリーナをいらないというのなら私が彼女を貰い受ける!

 意義がある者は剣をぬけ! 

 我が魔剣の錆にしてくれる!」


人間たちは恐怖におののき、剣を抜くどころか声を上げることもできませんでした。


魔王様の背後に無数のモンスターが飛び、咆哮を上げています。


国王は玉座でおもらし、王太子とベティはその場で失禁した上に尻もちをつき、鼻水を垂らしながら泣きべそをかいています。


「異論がないなら俺がカトリーナを貰っていく!

 返してほしければ魔界相手に戦争を仕掛けることだな!

 最もその場合、この国は焦土と化し誰一人生き残ることは不可能だがな!!」


魔王はそう言い残すとカトリーナをさらい、漆黒のドラゴンに跨りその場を後にしたのでした。


魔王レオナードこそカトリーナが幼い頃かわいがっていた子犬のレオだったのです。


魔王がまだ魔界の王子だった幼い日、彼は先代の魔王と大喧嘩しました。


先代の魔王の逆鱗に触れた彼は子犬の姿に変えられ、人間界に追放されたのです。


レオナードは温室育ちだったので、力を封印され子犬の姿にされとても困りました。


食べ物にも寝るところにもことかき、野生動物にいじめられボロボロ。


そんなある日、野良犬に追われたレオナードは公爵家の庭に迷い込みました。


傷つき衰弱したレオナード様を救ってくれたのが、まだあどけなさを残すカトリーナだったのです。


カトリーナはレオナードの傷の手当をし、ご飯を食べさせ、温かい部屋にふわふわのベッドを用意しました。


レオナードはカトリーナに恋をし、いつか彼女に恩を返すことを心に誓いました。


ずっとこんな幸せな日々が続けばいいと思っていました。


しかしカトリーナの母親が亡くなり、レオナードは公爵家にやってきた公爵の後妻に森に捨てられてしまいました。


そんなとき先代魔王が急死。


先代魔王の死によりレオナードにかけられた魔法が解けました。


レオナードはすぐにカトリーナの元に行きたかったのですが、彼は先代魔王のたった一人の跡継ぎ。


先代魔王の配下に魔界に連れ戻されてしまったのです。


魔王の職を引き継ぎカトリーナを迎えに行こうとしたレオナード。


しかし、カトリーナには王太子という婚約者がいました。


婚約者がいる人間を魔界に連れ帰ることは禁じられていました。


レオナードはカトリーナが辛い日々を送っているのを知りながら、遠くから見守ることしかできなかったのです。


王太子がベティの策略にハマり、カトリーナの悪評を信じ彼女の身分を剥奪し、国外追放を命じたのはレオナードにとっては予期せぬ幸運でした。


婚約破棄や国外追放を幸運などと言っては失恋ですが、王太子と結婚してもカトリーナが幸せになれるようには思えなかったのです。


アホ王太子がカトリーナ婚約を手放してくれたおかげで、レオナードはようやく彼女を迎えに行く事ができました。


初恋の人と再会し、彼女のピンチを救ったレオナード。


二人は結婚し幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


本来ならそうなるお話だったのですが……。


魔王レオナードはヘタレだったのです。


レオナードは人間の世界の風習をよく理解していなかったため、人間界で薄幸された小説の文言をそのままカトリーナ様に言ってしまったのです。


「カトリーナ!

 俺はお前を愛してないし、これからも愛することはない!

 俺に愛されたいなど思うな!!」


この言葉は初夜に寝室で新妻に向かって絶対に言ってはいけない言葉です。良い子のみんなは覚えておきましょう。


人間界からさらってきて、魔王城に付くなりメイドにカトリーナをお風呂に入れるように命じ、

お風呂から上がったカトリーナにマッサージを施し、

着替えはウェディングドレスのみ。


困惑するカトリーナを教会に引っ張っていき、彼女に結婚の誓いをさせたのです。

(結婚の誓いは「この結婚に意義があるならここで申せ、沈黙は同意ととる」というタイプの誓いです)


かわいそうに、カトリーナは魔王にさらわれた恐怖で声も出せなかったのでしょう。


魔王が何も説明していないので当然、カトリーナは「魔王=子供の頃に飼っていた子犬」……ということもわかりません。


虐待する継母、意地悪な妹、無関心な父親、モラハラな元婚約者、それらのものからやっと開放されたカトリーナ。


しかし待っていたのは、魔王からの暴言。


心優しきカトリーナの運命やいかに……!



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