第37話
ブーテェ法国のクーデターは、首謀者であるパトリックと支持者の逮捕で幕を閉じた。
国王は第一子であるパトリックが行った暴挙の責任をとって、王の座をレオンハルトへと譲った。宰相など逃げ出した者については、報奨金をかけて捜索中だ。
首都に戻ったレオンハルトがまず行ったことは、パトリックとその支持をした貴族の断罪だった。
多くの国民が亡くなり、そして住む場所を失った今回のクーデター。民の心を鎮めるために、公開処刑を行うことにしたのだ。
「コルネリア。君は見なくてもいいんじゃないか?」
処刑台の貴賓席に座るヴァルターとコルネリア。近くには、ゲーラ国王やサルシア国王、カタリーナやラウラもいる。貴賓席の先頭にはレオンハルトが立っており、集まった国民相手に演説をしている。
「いいえ。見届けたいのです」
「そうか。無理だったらすぐに言ってくれ。途中でも一緒に席を立とう」
ヴァルターの気遣いがくすぐったくて、コルネリアが嬉しそうに微笑んだ。その女性らしい笑顔に、これから首をはねるのを直視できるのか、とヴァルターは心配そうだ。
「では、処刑を始める!」
レオンハルトがそう言うと、集まった国民たちが大きな歓声をあげた。処刑台に連行されていく貴族の最後尾に、パトリックとマリアンネの姿がある。
よろよろと歩く二人の表情は対照的だ。怯えたように涙を流しているパトリック、マリアンネは国民や処刑人を睨みつけている。
きょろきょろとあたりを見渡しているマリアンネが、貴賓席のコルネリアを見つける。コルネリアの方を見て何かを叫ぶと、そのまま睨んだ。
死ぬ直前まで聖女として全うしてほしかったのに、とコルネリアは残念そうにため息をついた。
貴族たちがどんどん処刑台に上がり、国民たちの歓声が響く。悪趣味だな、と思いながらコルネリアはまたため息をついた。
「大丈夫か?出るか?」
「ふふ。大丈夫ですわ」
ひどい状態の患者を治してきたコルネリアは、人が死ぬところも見たことがある。処刑が行われている様子は気分の良いものではないが、全く問題はなかった。
むしろ、隣に座るヴァルターが処刑が進むにつれて、落ち着かないようだ。コルネリアはヴァルターの手をぎゅっと握って、笑顔を浮かべる。
「それでは、手をお借りしていてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ」
ぎゅっと手をつなぎながら処刑台を見ると、ついにマリアンネの番だ。
「侯爵令嬢かつ、聖女でありながら国民の苦しみに寄り添わず、王をいさめなかったその罪は大きい」
処刑人が罪状を読み上げていくが、マリアンネはふてぶてしく不満そうな表情で聞いている。とてもこれから死んでしまう人とは思えない態度だった。
「コルネリア!早く私を助けないと、私死んでしまうわよ!」
処刑台に上がる直前に、マリアンネがコルネリアの方を見て声を張り上げた。
「驚いたな。ここまできて、まだ君に助けてもらおうとしているなんて」
ヴァルターが呆れたように言い、コルネリアは無言で首を振る。マリアンネはコルネリアが立ち上がらないのを見て、これから本当に自分が処刑されると知る。
「え?コルネリア?嘘ですわよね!コルネリア!!」
その場で暴れ出したマリアンネを、処刑人の男性が二人がかりで押さえて断頭台へ頭をのせる。
「嫌!嫌ですわ!コルネリア!助けて!」
「刑を執行する!」
処刑人が声をかけ、剣を振り下ろした。その瞬間、思わずコルネリアは目を閉じる。
わああああ!と歓声が沸き、マリアンネの声が聞こえなくなった。
(――ああ、マリアンネ。最後まであなたは変わらなかったわね。せめて、安らかに眠ってほしいですわ。女神様よろしくお願いいたします)
コルネリアが握っていたヴァルターの手をほどき、祈るように両手を組んだ。
「コルネリア!」
断頭台へ頭をのせられたパトリックが、涙でボロボロの顔でコルネリアのいる方を見つめた。
コルネリアは瞳を閉じて祈りをささげている。その隣にいるヴァルターが、パトリックからコルネリアの顔が見えないように手で隠す。
「執行する!」
処刑人が叫び、今までで一番大きな歓声があがった。わああああ!国民の熱狂する声を聞きながら、コルネリアは祈りを捧げ続けた。
こうして、パトリックによるクーデターは幕を閉じた。
帝国も1か月降り続いた雨により、大きなダメージを受けていた。そのため、ネバンテ国に有利な形で終戦条約を結ぶことができ、ネバンテ国の戦争も終了を告げた。
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