第14話

 ふぅとコルネリアは満足げに息をつき、優雅に口元をナプキンで拭う。一口サイズのデザートまで、全てがコルネリアの好みだった。


【美味しかったわ】


 コルネリアは給仕に書いた紙を見せて、微笑んだ。若い少年の給仕は、頬を染めて喜ぶ。


 食事が終わりコルネリアが立ち上がると、すぐにカリンがそばに来る。


「ヴァル様。ご飯は今日だけでもいいので、少し相談に乗ってください」


 うるうると涙目のキァラが、立ちあがろうとしたヴァルターを止める。


「相談か?分かった。少しだけ時間を取ろう。コルネリアまた後で」


 食後の仕事、湯浴みが終われば、また同じ寝室で眠る二人だ。コルネリアはヴァルターを見つめて頷くと、そのまま食堂を出て行った。










(――お、遅すぎますわ!)


 絹でできた寝巻きを着たコルネリアは、ベッドの上で悩んでいた。いつもなら、ヴァルターが部屋に来る時間なのに、全く来る気配がなかったのだ。


(――気になるし、ちょっと様子見に行こうかしら?)


 コルネリアは立ち上がり、薄ピンクの寝巻きの上からガウンを羽織る。夜も遅くなり、カリンなどほとんどの使用人も自室や自宅に帰っていた。


 屋敷内はしん、と静まり返る。廊下の明かりは、等間隔に並んだロウソクだけなので薄暗い。あまり夜に出歩かないコルネリアは、少し不安になりながらも歩いた。


(――まだお仕事をされているのかしら?)


 執務室で仕事をしているか、もしくは浴室にいるのだろう。そう思い執務室へ先に向かったが、中は真っ暗でヴァルターの姿はない。


 ならば浴室か、とコルネリアは浴室へと向かった。浴室は1階にあるため階段を降りると、人の話し声が聞こえた。


(――お仕事が長引いたのね)


 浴室にいるのなら、すぐ寝室に来るだろう。そう思いコルネリアは、寝室に戻ろうと足を止めた。


 しかし、浴室から出てきたのは、キァラだった。瞳は潤み頬は赤く染まっている。また、胸元のボタンが開いており、豊満な胸も半分ほど見えてしまっている。


「コルネリア様」


 キァラはコルネリアに気がつくと、にやりと笑ってすぐそばまで寄ってくる。


「ヴァル様ってすごいのね。コルネリア様もよくご存知だろうけど」


 下品なセリフにコルネリアが眉を顰めると、勝ち誇ったようにキァラが笑う。


(言い返してやりたいけど、紙もペンもないわ)


 儚げな見た目から勘違いされることが多いが、コルネリアは好き勝手言われて、反論もしない女ではない。


 しかし、ヴァルターの様子を見にきた今は、何も書くものを持っていなかった。そのため、ただキァラの発言を聞くことしか出来なかった。


 敵意を向けられていることに気がついたコルネリアが、キァラを睨む。その反応が期待通りだったのか、キァラが意地悪そうに笑う。


「ダメですよ。私生児とはいえ聖女なんだから」


 くすくす笑ってそう言うと、耳元に顔を近づける。


「私はいつでもこの体で、ヴァル様のこと慰めるから。聖女様はみんなの怪我と病気でも治しといてよ」


 キァラはコルネリアの耳元でそうささやくと、そのまま自分の部屋に向かって歩いて行った。


(――なになに。どういうこと?)


 寝室へ向かうコルネリアの頭の中に、疑問がたくさん出てくる。


(――食事の雰囲気から考えて、ヴァルター様があの人に手を出すなんて有り得ないわ。でも、男性ってそういうところもあるのかしら?)


 ぐるぐる考えていると、すぐに寝室へと着いた。コルネリアは考えがまとまらないまま、ふらふらと寝室へ入りベッドに飛び込んだ。

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