第4話
カーテンの隙間からうっすらと、部屋の中に明かりが差す。聖女見習いの頃から早起きが身についているコルネリアは、そっと瞳を開けた。
起きてすぐ部屋の中をきょろきょろ、と見渡す。
(ーーヴァルター様は…いないわね)
部屋の中にヴァルターがいないことを確認すると、ぐっと両手を上げて軽く伸びをする。
神殿にいる頃であれば、朝の清掃を始めるのだが、コルネリアは初めての場所でどう動いて良いのかわからない様子だ。
紙とペンが置いてあるサイドテーブルには、昨夜カリンが置いて行った呼び鈴がある。
用事があればならすように、といって置いて行ったものだが、早朝から鳴らして良いのかわからず、彼女は鈴を手に取ったものの、再びテーブルに置いた。
どうしようかな、と悩んでいたところ、寝室のドアがそっと開いた。
「まあ。奥様。もう起きてらっしゃったのですね」
部屋の中に入ってきたのはカリンだ。既にアイロンがしっかりかけられたメイド服を着ているカリンは、カーテンの方へ向かう。
「まだお早いので、ゆっくりされても良いと思いますが。起きられますか?」
カリンの言葉にコルネリアが頷くと、カリンはカーテンを開ける。ぱっと、部屋の中が明るくなった。
「すぐに顔を洗うお湯をお持ちいたしますね」
そう言って、カリンはバタバタと部屋から出て行った。コルネリアは窓まで行くと、そっと外を見てみる。
寝室の窓からはちょうど、庭にある修練場が見える。そこでは、上半身が裸のヴァルターが一人で素振りをしていた。
(ーーなんて逞しいんでしょう。目の保養ですわ)
じー。と見ていると、ヴァルターは視線を感じたのか上に目線を上げる。
ばちっと二人の目が合うと、驚いた様子のヴァルターに、コルネリアは微笑んで手を振った。
(ーー毎朝の積み重ねがその良い筋肉に繋がっているのね!頑張って!)
がっちりした身体がタイプのコルネリアが、嬉しそうに手を振る様子に、ヴァルターはたじろいでいる。
そして、軽く手を上げて応えると、再び素振りを始めた。
「奥様。お待たせいたしました」
木製のタライにお湯を張り、カリンが戻ってきた。コルネリアを座らせると、そっと布をお湯に浸し、優しく撫でるようにコルネリアの顔を拭く。
(ーー法国では考えられない待遇だわ)
花の精油が入ったお湯は、ほんのりと良い香りもする。いつもは水で顔を洗うコルネリアは、気持ちよさにうっとりと目を細める。
「お湯加減はどうですか?」
カリンに向かって口パクで、ありがとう。とコルネリアが伝えると、カリンがにこっと笑顔を浮かべた。
「お着替えをしましたら、朝食にいたしましょう。ヴァルター様もご一緒されるそうですよ」
カリンはそう言うと、コルネリアの顔を再び優しく拭った。
ヴァルターの屋敷にある食堂は、国王の屋敷とは思えないほどこじんまりしている。
テーブルも大きさはそれほどないが、生花が飾られており雰囲気が良い。
コルネリアがカリンに連れられて、食堂に行くと既にヴァルターが座っている。
「よく寝れたか?」
コルネリアは頷いて、ヴァルターの向かいの席に腰を下ろした。
コルネリアの前には、オレンジジュースやパンなどが次々と置かれていく。
美味しそうなご飯にぱっと表情を明るくしたコルネリアは、どんどんと口に運んでいった。
聖女のマナーとして、テーブルマナーは完璧なので、側から見ると優雅な食事に見える。
嬉しそうにご飯を食べるコルネリアを、ヴァルターや使用人たちが嬉しそうに見守る。
「コルネリア。早速で悪いんだが、今日は一緒に病院の方へ行ってくれないだろうか。時間は、そうだな。昼過ぎくらいだろうか。帝国との戦争による負傷で苦しむ国民が、まだたくさんいるんだ」
【もちろんです】
紙に書いて答えると、ヴァルターはほっとしたようだ。
「癒しの力を使うのに、何か必要なものはあるか?」
首を横に振るコルネリアに、そうか。とヴァルターが頷く。
「何かあればマルコでも、カリンでも誰でもいいから伝えるように」
そう言うとヴァルターが立ち上がる。
「すまない。やることが多くて、これで失礼する。昼までには帰るようにするからな」
コルネリアが微笑んで見つめると、カッと頬を赤く染めてヴァルターが食堂から出て行った。
(ーーこれだけ歓迎してもらっているということは、この国は癒しの力を必要としているのね。しっかり働かないと!…んん。このムース美味しいわ!)
コルネリアが果物のムースに感動し、美味しいと口パクで言うと、カリンが嬉しそうにキッチンへ向かった。どうやら、料理長へ伝えに行ったようだ。
その後部屋で癒しの力が発動するのを確認したコルネリアは、時間までのんびりと自室で過ごした。
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