第3話 ドケチ娘と料理王子(2)
放課後、美月は掃除当番の仕事をしゃかりきに終わらせていた。廊下を掃き清め、雑巾でゴシゴシ磨いて完了だ。
他のクラスメイト達は鬼のようなスピードで掃除をこなす美月にドン引きしながらも、早目に掃除が終わらせてくれて助かっていた。美月はケチでお金が大好きだったが、案外働き者でクラスの中では嫌われてはいなかった。
まあ、こうして掃除を終わらせるのもスーパーで激安卵をげっとする為なのだが。
掃除が終わった美月は、脇目もふらず、近所のスーパーに直行した。
先着100名様限定の激安卵目当てか、すでに行列ができていた。列に並ぶ客は主婦層ばかりで、制服姿の美月は浮いていたが、そんな事は気にしていられない。ざっと見たところまだ100人は並んでいない。とりあえず卵はゲットできそうで、ホッとしてきた。
卵が買えたら何を作ろう。ゆで卵にして煮卵にしても良いし、もやしで炒めてもおいしい。オムライスやだし巻き卵玉子もいいし、小麦粉に混ぜてパンケーキも良いだろう。中華風に味付けてスープを作っても美味しい。作るメニューを考えていたら、あっという間に列が進み12個入り激安卵をゲットした。
「わぁ、めちゃくちゃ嬉しいです! ありがとうございます!」
興奮気味に御礼を口にする美月に店員はドン引きしていたが、卵をゲットしたからと言って安心はできない。
缶詰コーナーに行き激安鯖缶をゲットし、チルドコーナーで納豆や油揚げを買ったら、野菜コーナーに向かった。
本来なら野菜コーナーから見て行った方が動線的には良いが、節約を考えると反時計周りに見ていったほうが節約になるらしい。
その効果かわからないが、買う予定の無いものをカゴにいれずにすんだ。お菓子やペットボトル、惣菜コーナーは誘惑が多いので見ないようにしていた。
ただ、惣菜コーナーの近くにカレールウの特設コーナーができていて華やかだった。テンションの高い音楽がモニターから流れていた。
「料理王子、朝霧秋人のおすすめはこのトロトロ煮込みカレーだよ♫」
主婦たちは、そのモニター画像にキャッキャと騒いでいた。確かに整った顔立ちや爽やかな雰囲気は、妹の桜によく似ている。
しかし、ケチでお金大好きな美月は、こんな販促には騙されない。この新製品のカレールウは、他の製品より20円ほど高い。しかもグラム数も少なめだ。原材料も食品添加物をどっさり入れているので、コスパが悪い。確かにイケメン料理王子の写真がついたカレールウのパッケージは、ちょっと見た目は良いが、見た目でお腹が膨れるわけではない。
このカレールゥを二個買うと料理王子・秋人の顔写真つきのクリアファイルが貰えるらしいが、こんな派手な文房具は学校で使えない。メルカリ で売っても良いが、こういった販促物は出品している人が多い。ファンもとっくにゲットしているのか、最低金額で出してもなかなか売れない。
という事を計算したら、このカレールウを買う旨味はほとんど無い結論になった。
「いやね、こんな料理王子って」
気づくと隣にいた主婦らしき女性が、このカレールウの特設コーナーを見ながら眉を顰めていた。
女性は40歳ぐらいだったが、麻のシンプルなワンピースを着ていた。夏から秋に切り替わったこの時期は着るものの困った感も出たファッションだったが、全体的にナチュラル思考が伝わってくる女性だった。髪も染めていないのか、グレイヘアで纏めている。マスクもつけておらず、カバンにはワクチンの危険というメッセージが書かれた缶バッチをつけていた。おそらく自然派ママといったジャンルの女性だと思われる。
「料理王子嫌いなんですか?」
クラスメイトの兄が嫌われているっぽい理由はちょっと気になる。
「ええ。あの人のレシピは、食品添加物まみれの『美味しさの素』をいっぱい使ってるから。このカレールウも添加物まみれ。買わない方がいいわ」
女性は、そう吐き捨ててレジの方へ行ってしまった。
こんなカレールウの広告塔になり、人気があるような料理王子・秋人だったが、アンチはいるらしい。美月もどちらかといえば食品添加物は取りたく無いが、全部を避けているわけでもない。「美味しさの素」も時短を考えると便利なのでよく使う。
「アンチがいるなんて、意外とコスパ悪いじゃん」
美月は、特設コーナーのモニターに映るイケメン料理王子を見ながら、呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。