第2話 ドケチ娘と料理王子(1)

 美月は、お嬢様学校と知られる・聖ヒソプ学園に通っていた。


 一応カトリック系列の女子校で、礼拝堂やマリア像なんかも学園にあるが、別にクリスチャンじゃなくても入学できる。


 この学校は、成績優秀者が全額学費が免除になるため、美月もいっぱい勉強して受験した。晴れて成績上位者になれたので、学費の心配はない。美月は勉強は嫌いだが、お金が絡むと事情が違った。連日ガリ勉をし、学費免除の特典を勝ち取った。ちなみに在学中に成績が落ちるとその特典にあずかれなくなるので、今も絶賛ガリ勉中だった。


 部活は一応全員強制参加になっているが、聖書研究会という地味な部活に名前だけを置いて幽霊部員をやっていた。


「おぉ、今日は卵が安いじゃない」


 そんな美月は、休み時間中にも近所のスーパーのチラシをチェックしていた。卵がタイムセールで安いので、今日の放課後はこれを買って帰ろう。たぶん争奪戦になるので、早めに行かなければ。


「美月ちー、何やってるの?」


 同じクラスの朝霧桜に声をかけられた。桜は超がつくほどのお嬢様だった。食品会社のお嬢様らしく、大きなお屋敷に住んでいる。その上、美人。その為か、クラスメイトたちに妬まれているようだが、誰でも平等に接してくれる陽キャだ。美月も桜に関しては、良い印象しかない。


「夕飯の食材をいかに安く買う事を考えているの」

「へぇ。あ、これ、お兄ちゃんやん」

「え?」


 桜はスーパーのチラシの一角を指差した。そこには、イケメン料理研究家の朝霧秋人が映っていた。カレールーの広告塔にまっているようで、チラシにもその顔写真が載っていた。整った顔立ちの爽やかなイケメンだった。垢抜けないエプロンの衣装もよく似合っている。逆にちょっとダサい格好の方が、主婦層は喜ぶのかも知れないとも思った。


「このイケメン料理研究家、朝霧さんのお兄さんだったの? 確かに苗字は同じね」

「うん。でも今は別邸に住んでいるし、仕事も忙しいみたいだから、毎日は会えないんだ」

「ふーん」


 別邸なんて単語がサラリと出てきて、やっぱり桜は次元の違うお嬢様のようだった。


「朝霧さんは料理好き?」

「うーん、そうでもない。料理はお兄ちゃんの方が専門だね。じゃあね〜」


 桜は友達に呼ばれて、騒がしいグループの方へ行ってしまった。


「うーん、お嬢様だわ」


 あまりのも次元が違うので、美月は嫉妬する気分にもなれない。それよりは激安卵を無事にゲットするのが、美月の心配事だった。


 こうして授業中は、放課後の買う激安卵の事ばかり考え、昼休みになった。


 一応新型インフルエンザ対策で、友達と話しながらの食事は禁止されていた。友達と昼ごはんを食べたいものは、外や部室へ行くという感じだった。


 美月はそこまでする気はないので、自分の机で昼ごはんを食べる事にした。


 お金大好きで節約している美月の弁当は、もちろん手作りだ。


 ご飯、卵焼き、唐揚げ、ほうれん草のお浸しが彩りよく詰められている。本当はプチトマトを入れればもっと彩りがよくなるが、そこは節約中なので我慢だ。


 食べる前に弁当の画像をとり、SNSにあげる。弁当の画像しか上げていない手抜きSNSアカウントではあるが、たまに「イイね!」ボタンが押されるとヤル気が出るものだ。本名でやっているので、母からコメントがつく事もあるが、概ね平和なアカウントだった。ろくにコメントも拡散もしていないので、炎上のしようもない。


「あら、星野さんもお弁当、とっても美味しそうね」


 SNSに画像を載せたあと、同じクラスの淡雲直恵に声をかけられた。


 一匹狼で怖い雰囲気の直恵だが、成績がよく、たまに美月も勉強を教えてもらっていた。塾にいく余裕のない美月は、成績の良い同級生は本当に頼りになる。


「本当?」

「星野さんは、いい奥さんになるでしょう」


 直恵はそんな事を言って、部室の方へ出かけてしまったが、褒められると嬉しくないわけがない。


「いただきまーす!」


 新型インフルエンザ対策で、黙食が徹底されてはいたが、美月はご機嫌で昼ごはんを食べた。


 こうして美月の学校生活は概ね平和だった。いじめなどの噂もあるようだが、一円の得にならない事が無駄だと思う美月のとっては無関係な話だった。


 新型インフルエンザ対策は面倒ではあるが、

 今のところその被害を受けているものはいない。そんな事を感謝しつつ、頭の中は、放課後の買う予定の激安卵の事で占められていた。

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