第17話
「
「呪え」
二人がタイミングを合わせて魔法を放つ。
とはいえ同じ着弾までにある程度の
「同じ魔法じゃないとタイミングを合わせても着弾がズレますね。隊長が普通の魔法も使えたらよかったのですが」
「悪かったな、不器用で」
手当たり次第に氷を放ち、ジェストンが切り伏せていく。
エリフェンはそこに合わせた魔法を放つも、アナセマの氷と違い
「我とて斬らずとも避けられるのであれば避ける。まず当てられる魔法を撃つ所からだぞ」
まるで師匠が弟子に教えるように、攻撃のコツを二人に伝える。
「随分舐められていますね。隊長、もう少し魔法の密度を上げてください」
「無茶言うんじゃねェ!ほぼ
氷が四方八方から降り注ぎ、床からも棘が突き出る。
文句を言いつつも、エリフェンの要望を聞いて魔法の密度を上げるアナセマ。
流石のジェストンであっても、物理的に足の置き場すら無い密度の攻撃の対応に追われる。
彼女が欲していたのは、そんな隙だ。
「炎を統べる神よ、私の願いを聞き届けこの地を炎の海とせよ。包炎」
「その魔力は......ぐッ!」
エリフェンの握っている魔証は、
この魔証は魔力を自動的に生成するという性能上、魔証本体の魔力の色が魔法に強く出る。
己の弟子が好んで使っていた炎の魔法に、ほんの一瞬だけ気を取られたジェストンは包炎を斬るのが少し遅れた。
その一瞬で炎は彼を襲い、僅かに右の肩を焼いた。
「今のような短時間でダメージを負わせる熱量ですか。流石炎神の名を冠する魔証ですね」
「感心してる所悪いんだがよォ、俺が苦労してまき散らした氷が全部溶けちまってるんだが?」
今の熱量で、詠唱の短いアナセマの氷は全て溶けてしまった。
レーゲンのように
当然といえば当然だろう。
「そうですか。ではまた苦労してまき散らしてください」
「畜生が!凍てつき穿て!」
初めての詠唱で、氷に変化が現れる。
今まではただ床を這うように生成されていた氷が、棘の生えたものとなった。
つまり攻撃では敵の足を取る為だけに使われていた氷の床が、触れるだけでダメージになる武器と化したのだ。
「歩きにくい事この上ない。今までは放置していたがそうも行かぬか」
今まで無視していた氷の床を切り裂き、二人の攻撃魔法にも対応するジェストン。
斬らなくてはいけない場所が増えたという事は、隙が増える可能性が増したという事だ。
「らァ!!」
アナセマは凄まじい速度で前に飛び出し、両の爪を振りぬく。
「隙が出来たとでも思ったか。再び刻んでくれよう」
しかし可能性が増したというのは、今回で言えば隙を晒す確率が〇パーセントから一パーセントになったという事だった。
彼にとって手間が一つ増える程度で隙にならなかった。
アナセマが振るった爪を即座に粉々に消し飛ばし、再び彼を切り伏せようと剣を構える。
「それをさせない為の私です」
エリフェンは彼が構えた手の部分に電撃を走らせ、コンマ何秒のズレを生じさせる。
その隙に......逃げられない。
アナセマは勢いよく飛び出した為、戻るのにはそれと同じかそれ以上の推進力が必要だった。
致命傷を避ける為にわずかに身体をよじる事はできたものの、胸の部分に剣が入り込んでくるのを感じる。
「呪え」
肉を切らせて骨を断つ、アナセマの接触魔法。
魔法を無効化する剣と言えど、完全に消滅させるまでに時間差がある。
ジェストンが剣を握る手に僅かに氷が這う。
その時、ほんの一瞬剣から手が離れる。
魔法というものの、絶対的なルール。
それは
自分以外を媒介に魔法を放つことは出来ない。
一度剣を離せば、媒介とつながっていた魔力の接続が切れるのだ。
剣は即座に凍り付き、剣に直接触れられない状態になる。
魔力の多い者なら無理やり氷の中を通せるかもしれないが、彼の魔力量は一般人レベルだ。
剣を封じたと言っても良いだろう。
「隊長!」
「分かってる!凍てつけ!」
魔法を斬られることが無くなったと分かった瞬間、エリフェンが叫びアナセマが冷気を放った。
その冷気は少しずつジェストンを凍らせていき......。
「我の剣が一本とは言ってないぞ」
彼は懐から取り出した短剣をぐるりと一周して振るい、冷気を消し飛ばした。
通常、
それゆえに魔証をいくつも持つことは不可能に近いのだ。
「我にとっては、剣の一切合切が我と共にある」
「反則だろうがよ......」
せっかく無力化したと思った男に与えたダメージは、背中に与えた冷気と一本の剣のみ。
剣は短くなったが、最も厄介な魔法を斬る能力は現在も問題なく使えている。
不利な戦いが再び始まるかと思われたが、エリフェンがとある提案をする。
「隊長、
アナセマはその言葉の意図を読み取ろうと思考する。
______今まで言ってこなかったって事は今なら通じると思ったってことだ。今までと違う箇所......剣の長さか。なるほど。
剣が長ければ、
しかし、短い剣ならば刃をいくつも同時に壊すことは不可能。
「だがなァ、あいつは普通に話してる間はこうやって待っててくれるが自分が危ないと思ったら即座に詠唱を止めに来るんだ。あいつが止めるに来るまで、2秒も無ェんだぞ?どうすんだ?」
詠唱にかかる時間がネックなのだ。
「私が単騎で戦います」
「......正気か?」
そのアドバンテージがない状況で、あの男との一対一をすると言ったのだ。
「私にはスピードはありませんが、
「そうか、あいつの剣は
エリフェンはアナセマの気付きに頷く。
一般人程度の魔力しかないジェストンの魔力を読むなど、本来であれば難しい。
しかし、剣に魔力を込めている以上、身体の動きに引っ張られる魔力から読み取れることは多い。
もしかすると、数秒時間を稼ぐ程度なら出来るかもしれない。
「じゃあ、任せるぞ」
「はい。大地よ、武器を私に。
此処が中庭であることが幸いし、地面に手をつくことで魔証の代わりとする事が出来た。
エリフェンは岩で出来た細剣を手にしていた。
「ほう、我と剣技で戦うか?」
剣を見て、少し興味がわいた様子の彼に突撃するエリフェン。
その瞬間にアナセマは詠唱を開始し、ジェストンはこの行動の意味を理解する。
敵を切り裂くその刃は、私の喉を掻っ切らんとす。
彼はエリフェンを突破するため、最小の動きで細剣の刀身を狙う。
______彼の剣と鍔迫り合えば、魔法で生成しているこの剣は崩れ落ちる。つまり、彼の剣に触れずに時間を稼がなくてはなりません。
ジェストンの胸を突こうとする彼女の剣を中央から叩き切ろうとした所に、無詠唱の風魔法によるアシストで即座に引き戻すエリフェン。
しかし、一度勢いよく引き戻してしまっては再度前に出すのに更なる力が必要になる。
敵を貫くその刃は、私の心臓を一突きにせんとす。
その刺突より自分の突撃の方が早いと判断したジェストンは、まっすぐアナセマの方へ向けて突進する。
アナセマは詠唱をやめない。
______ボン!
エリフェンは自分の真後ろで小さな爆発を起こし、無理矢理推進力を得てその突進を横からつこうとする。
「魔法使いなら、きっとついてくると思ったぞ!」
それを読んでいたジェストンは、自らの突進を右足の踏み込み一つで止めてエリフェンの突撃のタイミングをずらす。
エリフェンは爆発で推進力を得ていた為、細かなカーブなどが出来ない。
次の爆発でジェストンを止めなければ、詠唱をしきる前に彼がアナセマの下へ辿り着いてしまう。
ボボン!
二つの爆発音と、先ほどとは比べ物にならない速度で突撃するエリフェン。
流石のジェストンも、一度足を止めて彼女と戦わなくてはならないと判断して剣を構えた。
この状態からであれば、先ほどの風魔法による駆け引きをもう一度行うだけで詠唱の時間を稼げる......そう思った時だった。
一閃。
騎士王の短剣がほんの一瞬消え、彼は剣を突き出したような体勢で停止する。
上段に構えていた筈の剣は、既にエリフェンの胸に突き刺さっていた。
短剣を狙うと思っていた上、今まで見せなかった剣の速度。
それは彼女の目に映ることすらなかった。
「がふ......」
血を吐き、膝をつくように崩れ落ちるエリフェン。
惜しむらくは、その刃が冷たい氷の刃であることか。
なおも、詠唱をやめないアナセマ。
「終わり、だ。詠唱をやめ......ぐッ!?」
こちらに向き直り、詠唱を止めるために剣を構えようとしたジェストンの腹に岩の細剣が突き刺さる。
「魔力耐性の無い貴方は、魔法に気付かなければ斬る事も出来ません。これは
彼女は
「ここ、です。貴方の敗因は魔法使いの知識が乏しかった事と」
呪われた私には、到底届くことのない刃なのだから。
「二対一をしちまッた事だ。
氷の花弁が舞う。
全ての刃がジェストンに、不規則な軌道を描いて発射される。
「まだ、だ。我の剣は全てを切り裂くのだ」
吹き荒れる氷の刃を一つ一つ叩き切っていく。
短剣という、全力を出し切れないであろう武器でジェストンが耐える事の出来た時間は、およそ五秒。
肩を裂き、背中に刺さり、足を貫いた。
彼は膝をつき、剣の
「......殺せ。貴様らの勝ちであろう」
ジェストンの呟きに、アナセマは不満げな表情を浮かべる。
騎士としての最後、彼の求めた死はこれで良かったのだろうか。
誉でなく、意地の為に死ぬことの何が騎士か。
アナセマは、彼の死生観に若干の理解を示すようになっていた。
「断る。お前はまだやることがあるだろう。それに、俺は一対一で勝てるようになるまで勝ちだとは思わねェ」
アナセマの言葉に、エリフェンは神妙な表情で頷く。
そんな様子を見たジェストンは、思わず小さく微笑んでしまう。
「今からでも、償えるのだろうか。我のこの愚かさを」
「馬鹿言うな。生き物なんて多かれ少なかれ罪を背負って生きてンだ。それをお前だけ手放そうなんて許さねェ。死ぬまで馬車馬のように働いてもらうからな」
彼の突き放すような言葉が、今の騎士王にはいやに心地よかった。
△▼△▼△▼△▼△
ミュール帝国・第四十二代皇帝が登壇する。
広場には数々の人間が集まっている。
皇帝に近い場所にいるのは上位貴族か、豪華な服装をしている。
広場の外側には、平民や民間の記者、吟遊詩人などが発表を今か今かと待っている。
夜中にあれだけ事を荒立てたのだ。集まりが良いのも頷ける。
「余はミュール帝国皇帝である。今まで魔薬を流通させ、他種族の子供を売ることで傭兵を雇う金を賄っていた」
人民は驚きの声を上げる。
貴族らはそれを発表してしまって良いのかという驚き。
平民らは皇帝が変わっていた事と、そんなことをしていたのかという驚き。
含む意味合いは異なったものの、同じように驚いていた。
しかし、民衆の驚きは更なる境地に到達する事になる。
「そして、ボク達『
そう言って空から降り立った始隊長は、皇帝の首を斬り落とした。
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