第14話 ルークとゆかいな仲間たち

 ピーターとリタ、そして四人は立ち話もなんだからと冒険者ギルド内での喫茶店のテーブルに座っていた。



「改めて、よろしくお願いします。俺はルーク、ジョブは〈暗殺者〉っす!」



 十五歳程度と思われる、少なくともピーターよりは年下であろうと思われる金髪の少年。

 黒い軽装鎧を着て、腰には短剣を二本差している。

 やや口調が砕けていることもあって、親しみやすい雰囲気である。



「……〈狩人〉のミーナ、よろしく」



 浅黒い肌と眼鏡が特徴の少女。

 年のころはルークと同じだろうか。

 あまり好意的ではないが、こちらをまっすぐ見ているので、ピーターとしてはあまり気にならない。

 武器はおそらく、背中に背負った弓と矢筒だろう。

 斥候兼遠距離アタッカー、先日の立ち回りを見ても、おそらく彼女が頭脳担当か、とピーターは推測した。



「〈剣士〉のイスラだ、よろしくナ」



 背中に、彼女の身長ほどもあろうかという体験を背負った赤髪の少女。

 落ち着かない様子で、体が動いている。

 それがピーターがそばにいるからなのか、それとも彼女の性質なのかは、彼には判別がつかなかった。 



「〈司祭〉のフレン、です」



 最後の一人は、おびえる修道服の少女だった。

 金髪で目が隠れており、表情は見えない。

 だが、声と態度でどう思われているかはなんとなくわかる。



 一人は、聖職者だったか、とも思う。

 冒険者で、聖職者は珍しい。

 たいていは、教会か騎士団で働くからだ。

 攻撃こそされないものの、少なくとも彼女には確実におびえられていることが見て取れる。

 危険がないとは到底言えない。

 そもそも、ピーターに害をなすものの大半は、恐怖が原因で攻撃してくるのだから。

 クエストでの協力以前に、まずそもそも話になるのだろうか、とピーターは不安になった。


 二重の意味でお話にならないフレンはもちろん、ミーナとイスナも表情が硬い。

 警戒されているのだろう、と感じた。

 逆に、ルークはむしろ落ち着いており、心の距離が妙に近い。なぜだろうか。



「ピーター・ハンバートです。知っての通り、〈降霊術師〉です。彼女は、アンデッドのリタです。今日はよろしくお願いします」



 とりあえずは自己紹介とと、リタの紹介することにした。

 まずは挨拶をして、とにかく友好的であると示さなくてはどうにもならない。

 基本的に職業を明かしたりはしないのだが、先日すでにミーナの【鑑定】で見破られているので隠すのは無意味だ。



「先日は、すみません。ご迷惑をおかけしました」

「ああ、あのときのやつっすか?あれは別にピーターさんのせいではないっすよ」

「……正直、いきなり暴れだすのは計算外だった」

「そうだナ、あんたの責任ってわけじゃないだロ。まあ壊れた建物のことはわからんガ」

「怖、かった」



 どうやら、思ったほど危険視はされていなかったらしい。

 これなら何とかなるのではないか、とピーターは安堵する。

 


「りたです!よろしくおねがいします!」

「おお、ゴーストか。よろしくな」

「かわいいナ。ピーターの従魔か?」



 ゴーストに対しては、特にそこまでの忌避感はないらしい。

 ゾンビやスケルトンのほうが、気味悪がられることが多いから、もともとゴーストはさほど怖がられているわけでもないのだが。

 まあ、いちいち味方側のモンスターを恐れていたら、冒険者などやっていないだろう。

 あるいはその愛らしい外見も彼らの警戒心を解くのに一役買っていたのかもしれない。

 ピーターはこれならなんとかなりそうだ、と安堵して。



「じゅうま?わたしはぴーたーのつまだよ?」



 次の瞬間、空気が凍り付く音を聞いた。



「え、えーと、それは」

「使い魔、の間違い?」



 四人とも、ピーターとリタを交互に見ながら戸惑っている。

 まるで不気味なモンスターと対峙したかのような態度だ。

 あるいは、不審者を見たかのような態度、というべきか。



「つかいまじゃないよ!つま!およめさん!おくさん!」



 一同は、もはや大声で自分の立場を主張するリタを見ていない。

 ただ白い目で、ピーターを見続けている。

 「お前は、自分の使い魔にどういう扱いをしてるんだ」という疑惑の目である。



「…………」



 何もフォローする言葉が見当たらず、絶句するルーク。

「不潔」

 吐き捨てるミーナ。

「この小児性愛者ガ」


 強い語調でイスラに罵倒され。

「……霊姦」

 ぼそりと、フレンにつぶやかれる。

 ピーターは、めちゃくちゃに罵倒されてしまった。



「ぴーたー、ふけつってなに?しょーにせーあいしゃって?」

「…………」

『奥様、お気になさらず。我々には関係のない話です』




 ピーターは、これでちゃんとクエストは実行できるのだろうか、とかなりの不安を抱いた。

 無論、自身に原因があるのだがそんなものは知らない。

 とりあえず、誤解が生じてしまったので弁解してみる。



「一応言っておきますけど、本当に結婚しているわけじゃないですからね」

「あ、そうなんですね、よかっ」

「はい、正式に届けは出してないから、ただの事実婚ですよ」



 これで問題はないはずだ、とピーターは考えたが。



「「「「…………」」」」



 彼らは、今度こそ、完全に絶句してしまった。

 あれ、何か間違えたか、とピーターは固まった。



『主様、失礼ながら、そういう問題ではありません』



 ハルの念話の意味はピーターにはよくわからなかったが、失言であることは理解できた。

 何がおかしいのかは全く分からなかったが。

 だが、これにも事情がある。

 ピーターの交友関係は狭い。

 ラーファと、その父であるアランなどをはじめ、知人を言える間柄の存在は片手で数えられる程度でしかない。

 そしてその交友関係の狭さから、どうしても関係性が深くなる。

 彼らはピーターを理解しており、今更ピーターの特殊な性癖についてわざわざどうこう言ったりはしないのである。

 閑話休題。

 色々あってピーターの信用が失墜してしまったが、歩いて何とか目的地の旧墓地についての話し合いを始める。

 旧墓地とは、もともと街の外にある共同墓地だった。

だが、スカベンジャーなどのモンスターが縄張りにしてしまい、人が立ち入れなくなってしまったのだ。

 スカベンジャー自体はすでに冒険者たちによって大半が討伐されるか、あるいは追い払われたのだが、人が寄り付かなくなってしまったのである。



 迷宮と呼ばれるものがこの国には多数存在する。

 そして、二種類にカテゴライズすることができる。

 一つ目は、神秘迷宮。

 神が造ったといわれる奇跡の迷宮であり、この国にも数えるほどしかない。

 アルティオスにある神秘迷宮はこの国にある迷宮でも最大だといわれている。

 こちらは数が少ないこともあって、基本的に立ち入るのも難しい。

 迷宮都市と銘打たれているにもかかわらず、アルティオスに一つしかないことから、察せられる。



 それとは対照的なもう一つが、自然発生型の迷宮。

 モンスターが何らかの原因で大量に発生し、常駐するようになってしまった結果だ。

 迷宮と呼ばれるものの大半はこちらであり、今回クエストの対象になっている旧墓地も、こちら側に分類される。

 神秘迷宮と違う点はいくつかあるが、その中でも最も重要なものは、出入りの簡便さだ。

 もっと言えば、神秘迷宮から内部のモンスターが出てくることはないが、自然迷宮は違う。

 神秘ならざる、自然の一環に過ぎない以上、そういうこともある。

 つまるところ、元々誰かが間引きをしなければ危険なのだ。

 そして「誰か」といえば、すなわちこの町では冒険者のことを指すのだ。

 


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